第44話 私だけの武器
静かな鍛冶屋の店内で、はるかは少し緊張しながらもしっかりと武器を手に取った。
そして触れた手が一瞬、熱を帯びた気がした。
「嬉しそうじゃな」
「そうですね」
セドリックさんがとても優しい表情を浮かべながら教えてくれた事に、はるかは頷きながら返事をした。
心がとても温かくなるのを感じ、自然と顔が綻ぶ。
「なんだか服の色と似ているな……」
カイルの呟きにはるかは初めて気が付いた。
白に近い淡い紫色のはるかの服。
そして今、手に取っている武器の石がまさにそのような色をしていた。
見た目は銀の二股の杖のような槍に見える武器。
持ち手の部分には蔓の模様。
二股の部分は植物の葉のような形をしている。
そして二股の銀の葉に守られながら、細長く伸びる優雅な石の装飾。
こちらの方が透明度が高いが乳白色に優しい紫色の石。
例えるなら朝顔の蕾のような石だろう。
「ハルカさんの服もなんとなくじゃが魔除けが施されているように感じる。この子も魔除けの意味もある。どちらもきっとこれからの助けになるんじゃろう」
なんでこんなに色々な物に守られているんだろう……?
私にはまだよくわからないけれど、大切にしよう。
そう考えつつも先程セドリックさんに武器のもつ意味をはぐらかされてしまった事を思い出し、はるかは首を捻った。
「難しい顔をしておるの。カイルにも叱られてしまったし……もう少しだけ意味を伝えておこうかの」
「最初から教えてくれれば良かったんだよ……」
セドリックさんのその言葉に呆れたようにカイルは呟いた。
「全部を教えてしまっては意味がない事もある。まぁ、そうじゃな……ハルカさんらしく生きる事が誰かの道を作る、とだけ伝えておくかの」
「『誰かの道』……ですか?」
「まぁ、今は気にしすぎない事じゃな! その時まで自分らしく生きるだけでいい。人生を楽しむんじゃよ」
話はここまで、という風にセドリックさんはほほっと笑い、武器の使い方の説明に移った。
「それ、早速振り回してみるんじゃ」
そっか!
なぎ倒すって言ってたもんね。
「やってみます」
カイルとセドリックさんが距離を取ってくれたので、はるかはとりあえず思いっきり横に振ってみた。
想像以上に武器が軽くて危うく手から離しそうになる。
「うわぁっ!」
「ほほっ! やはり可愛らしいの」
「とにかく手から離さなければなんでもいい。練習あるのみだ」
2人からそれぞれ感想をもらったはるかは危機感を覚えた。
難しい……!
こ、これはかなり練習が必要だよね。
地道に素振りでもしてみよう……。
少しだけ気落ちしていたところにセドリックさんが違う使い方も教えてくれた。
「もし、振り回すのが間に合わない時は迷わず石の部分で一突きにすればいいんじゃ! その方が簡単じゃろ?」
「えっ……」
それもそれで……。
あまり想像ができないのは経験がなく、そしてまだ覚悟が足りていないから。
はるかは戸惑いながらしばらく返事ができずにいたが、カイルの声で目が覚めた。
「今は頭の中に使い方だけ置いておけ。どうすればいいかはすぐにわかる」
「うん、わかった」
その言葉にはるかは返事をしながら頷く。
「そうじゃな。あとは杖として使ってもいい。ハルカさんにはそちらの方が合っているかもしれん」
まだどんな魔法が使えるかわからないけれど、確かに杖の方がいいかもしれない。
武器を振り回すイメージが湧かないはるかはそんな事を思った。
「教えていただき、ありがとうございました」
「なんのなんの。これから沢山学んで自分の好きに使うといい。あとな持ち運びはどうする?」
「持ち運び……ですか?」
そう言われてはるかは自身の武器を見つめた。
「重さはそんなになくとも、かなり大きいからの。変化仕様にしてあるから首か腰、どちらがいいかの?」
「えっ? この子も変化するんですか?」
はるかは思わず聞き返した。
「さよう。ちょっとした装飾品になるように細工しておいたのが良かったようじゃな」
「そのまま背負ってる奴もいるが、小さく出来るならその方が楽だしな」
「おぬし……言っている事はわかるがの。もう少し感性を磨くのじゃ」
多分だけど、セドリックさんは装飾を作る方が好きなのかもしれない。
先程並べてくれた武器達がそれを物語っている気がした。
「さぁ、ハルカさん。どちらにこの子を飾るかの?」
改めて問われる。
首にはもう服の中にしまってはいるが、生誕石を飾っている。
そうなると腰一択だ。
「じゃあ腰でお願いします」
「よし。では初めだけはわしが変化させる。ハルカさん、しっかり見ていておくれ」
そうしてセドリックさんがそっと呪文を唱えると……武器は音もなく姿を変えたのだった。
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