第24話 心も体も雲の上
少しの間、はるかとカイルはそこが騒がしい酒場だというのに2人だけの空間を作り出していた。
「おーい……」
そしてこの言葉ではるかは現実に引き戻された。
あれ?
この声は……。
そう思ってはるかが声の主を確認すると……ジト目のサンの姿が目に入った。
「ごめん! 別に忘れていたわけじゃないんだよ!?」
本当は少しの間だけ忘れていた、なんて言うわけにもいかず、はるかは焦りながらサンに言い訳をする。
「ハルカちゃん、それ、言わなくていいから……」
寂しそうに言葉を呟くサンにさらに罪悪感がつのる。
どうしたらいいのか焦っていたら、カイルがサンに話しかけた。
「サン、あんまりハルカをからかうな」
不思議な事に、カイルは何故か厳しい表情でそんな事を言っていた。
「あぁ、何? ハルカちゃんを独り占めする権利は自分にしかないって言いたいわけ?」
さっきまでの打ちひしがれた態度とは打って変わって、サンはニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべている。
そんなサンに絡まれているカイルの表情はみるみる不機嫌なものへと変わっていった。
サンがそこまで気にしていなかった事に安堵しつつも、カイルの機嫌がこれ以上悪くなる事を阻止する為にはるかはある提案をしてみた。
「このお酒、私だけじゃきっと飲み切れないからみんなで飲もう?」
「おっ! いいの? 食前酒ゲット!」
「お前はもう既に飲んでいるだろ? まぁ、確かにハルカだけじゃ飲みきれないかもな。有り難くいただくとするか」
ふぅ……、ケンカにならなくてよかった。
少しだけ役に立てたように思えたはるかは、一仕事を終えた気分になった。
そしてようやく皆でお酒と料理を堪能すると共に、とても楽しい時間を過ごし始めた。
美味しいお酒とは気付かぬうちに酔いが回るもので、お酒を初めて飲むはるかは気付かぬうちに酔っていた。
急にふらっとしたのには気付いていたが、色々あり過ぎた日で疲れが出て、その疲労から眠たくなっているとはるかは勘違いしていた。
「あー、やっちまったな……」
サンの困ったような顔がぼやぁっと見えた。
「酔った素振りがなかったから気付けなかった。大丈夫か?」
カイルからはそう声をかけられたが、ふわふわした心地良さに包まれているはるかには何の事だかわからなかった。
「えー……? 何がぁ〜? 全然大丈夫だよぉ……」
あれぇ?
カイルの顔がよく見えない……。
ぼやける視界にはるかは目を擦りながら答えた。
「いきなり酔ったな。とりあえず果実水をもう少し飲んでくれ。後は部屋で寝てろ」
なんでお水?
お酒美味しいからそっちが飲みたい……。
「まだぁ……大丈夫っ! 飲めるよぉ〜」
「おっ? 全然大丈夫じゃねぇな! 量はそこまで飲んでなかったし、少し休んだらマシになるだろ」
サンの言葉を理解する前にはるかは身体が浮き上がったような感覚を覚えた。
これが酔うって事?
はるかはそう勘違いしていたが、実際はカイルにお姫様抱っこをされて本当に浮いていたのである。
「部屋で軽く毒素でも抜く魔法もかけておく。ちょっと行ってくる」
「おう。変な気を起こすなよ〜。紳士たる者、堂々とだ!」
ゴッ!
「いってぇ!!」
「お前にだけは言われたくない」
2人がまた何か言っているなぁ……と、状況がわからないはるかはまどろみながらそう思った。
そんな騒がしいやり取りの中、はるかの意識はさらに心地良い夢の中に沈んでいった。
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