第23話 私だけの花
カイルとサンが2人で奢ると決着がつき、料理を取り分けようとはるかがテーブルに目線を落とした。
その時、サンの元気な声が聞こえてきた。
「さぁ、料理が冷める前に食べようぜ!」
そう言って慣れた手つきでサンは料理を取り分け始めた。
「わわっ! ありがとう! それにしても慣れてるね」
それがあまりにも流れるような自然な動きだったので、はるかは驚きつつも感じた事を口にした。
「俺にはたくさん兄弟がいるからな。しっかり手早く取り分けないと誰かが食いっぱぐれる。ルチルもそうだが、俺も慣れだ」
にっと笑ってそう言うサンの顔は本当にお兄ちゃんの顔をしていた。
そしてカイルが最初に持ってきた酒瓶を手に取り、右隣からはるかに尋ねてきた。
「軽く食べた事だし、料理も来たからこれも少しは飲んでみるか?」
そう言ってはるかにとても綺麗な花びらの蓋を向けてきた。
「それじゃあちょっとだけ……飲んでみる」
「無理はするなよ? じゃあこの花びらの部分を軽く摘んで引っ張ってみてくれ」
楽しそうなカイルの笑顔が目に飛び込んでくる。
その笑顔につられてはるかは言われた通り、花びらに手を伸ばした。
そして優しく花びらを摘んで引き抜いてみると、ポンッと音がして簡単に蓋が外れた。
簡単に引き抜けた事にも驚いたが、『外れた蓋の花びら』を見て更に驚いた。
先程までは透明だった花びらが、はるかの指先からゆっくりと黒く鮮やかにその姿を染め上げていく。
「綺麗……」
はるかはぽつりと呟いた。
「ハルカちゃんやっぱり黒の魔法使いなんだな」
料理の取り分けを終えたサンからそう声をかけられた。
「やっぱりって……わかります?」
「酒場は薄暗いが、それにしたってハルカちゃんの髪は真っ黒だろ? それにその花も黒だしな。ただ性格だけが黒の魔法使いっぽくなかったから珍しいなとは思ったけどな」
一気に色々な事を言われてはるかは戸惑いつつも、忘れないうちに気になった事を聞いてみた。
「黒の魔法使いって珍しいので私もよく知らなくて……。少し聞いてもいいですか?」
「ハルカちゃん、俺達もう乾杯した仲だぜ? 普通に話してくれていいからな。確かに黒は珍しいもんな。俺でわかる事には答えるぜ」
サンは任せろと言わんばかりにこちらに向かって胸を張りながら、ニッと笑っていた。
「ありがとう。それじゃあ普通に話すね。『花』と『性格』って何の事?」
特に気になったこの2つの事をはるかは聞いてみる事にした。
「とりあえず先に性格の方から答えるか。えっとな……静かに佇んでいるような、神秘的なような奴って言えばいいのか? 俺が出会った黒の魔法使いは何考えてんのかわかんない奴が多かった」
サンが難しい顔で言葉を捻り出していた。
その様子がはるかを傷付けないような言葉を選んでくれているように思えた。
「不思議な感じがする人が多いって事なんだね?」
「そうだな。もっと上手く表現できたらよかったんだけどな。だからその特徴にハルカちゃんは全然当てはまらないなとも思った。もしかして違う色の魔法使いなのか? と少しだけ悩んだな」
一旦そう言葉を切って、サンは改めて言葉を紡ぐ。
「で、その『花』で俺の悩みは解消されたってわけだ」
サンはそう言ってはるかの手に収まっている黒い花を指さした。
「これ? この花が黒になったのって私の魔力に反応したの?」
「そうそう。だから女の子に人気があるんだ」
「ん? どういう事?」
いまいち要領を得ない答えにはるかは聞き返す。
「その仕組みを知らない女の子にあげたり、自分が染めた花をプレゼントしたりと用途は様々だ。お付き合いでもしてる男女なら2人で同時に引き抜いてお互いの色を混ぜて染めたりと嬉しい仕掛けになってんだ」
「へぇ〜! それは思い出に残るプレゼントになるね!」
「だろ? まぁ中身も美味いから2度美味しいんだけどな」
そのタイミングを見計らっていたのか、カイルが琥珀色の液体の入ったグラスをはるかに渡してきた。
「そういうわけだ。飲んでみろ」
ちょっとぶっきらぼうにカイルからそう言われたが、はるかは言われた通り優しく輝く液体を口に含んでみた。
「あっまい! 何これ美味しい!」
はるかは思わず、少し大きめな声を上げた。
「女の子でも飲みやすくしているそうだが、酒だからな? 変だなと思ったらやめておけよ?」
困ったような、だけど嬉しそうな顔をしたカイルにそう言われたが、どんどん飲めてしまいそうなぐらい美味しい。
とろっとした口溶けと一緒に花の香りと甘さが口の中に一気に広がるのだが、後味はすっきりとしている琥珀色のお酒。
何杯でも飲めてしまいそうだからたちが悪いなとも思う。
でもカイルの言う通りお酒なのだから気を付けつつ、少しずつ飲もう。
はるかはそう思いながらカイルに話しかけた。
「ありがとう。ゆっくり飲むね。あとこの花も貰っていいの?」
はるかがお酒を飲む際、近くに置いていた綺麗な黒い花。
その花を壊さないように優しく触れながら尋ねる。
「もちろんだ。それはハルカだけの花だ。好きにしていい」
「ありがとう! 大切にするね」
互いにそう言って微笑み合った。
そんな2人の姿を黒く輝く花が自身の一部に優しく映し出していた。
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