第22話 優しい世界
少しの間、ルチルさんの笑顔に見惚れていたはるかだったが、急いで我に返って返事をした。
「わ、私は、はるかって呼んで下さい! 沢山楽しませていただきます!」
我に返ったはいいが、しどろもどろな挨拶になってしまった。
「そんなにかしこまる事はないんだよ、ハルカちゃん。本当はもっとゆっくり話したいんだけれど、今日は忙しいからね。また今度、ゆっくり話そうね!」
相変わらず綺麗に微笑むルチルさんはそんな嬉しい事を言ってくれた。
「ありがとうございます! 私もルチルさんとお話ししたいです! 楽しみにしていますね」
ルチルさんからのお誘いが嬉しくてはるかは元気よく返事をした。
「嬉しい返事をありがとう。出会いの記念に果実水とおつまみ類はサービスしておくよ! あとで甘い物もつけるから遠慮なく食べてね!」
一瞬、そこまでしてもらう事に申し訳なさを覚えたはるかは謝ろうとしたが、すぐにその考えを無理やり飲み込んだ。
ルチルさんの厚意に対して謝るのはあまりにも失礼だ。
そう思い直し、はるかはお礼を告げる。
「ありがとうございます! 味わって食べますね」
「それは嬉しいね。うちの料理が美味しいのは保証するから安心して食べなよ!」
そう言って厨房に戻ろうとするルチルさんをカイルが呼び止めた。
「俺からも礼を言う。いつもありがとうな、ルチル」
「カイルはうちの常連だし、ハルカちゃんは可愛いし、気にする事ないよ。それじゃあ、ごゆっくり!」
そう言って今度こそ本当にルチルさんは厨房に向かって歩き出した。
「それにしても……沢山頼んだな」
先程の取り乱したサンの面影はなく、元通りの彼が料理を眺めながらそう呟いた。
「珍しい獲物なら食べておきたいだろ? それにサンもいるしな」
「えっ? 俺にも奢ってくれんの?」
カイルの返しにサンが驚きながら質問をしていた。
「なんでそうなる? どうせ食べるだろうから多めに注文しただけで、奢るのはハルカにだけだ。元々サンとは一緒に食べる予定もなかったし、注文しただけ有り難いと思え」
「おい、言いたい放題だな。少しは年上の俺を敬えって」
すぐさまカイルにそう切り返されて、呆れながらも少し落ち込んだように見えたサンに、はるかは声をかけた。
「今日はいろんな人に出会えた記念の日で、サンと一緒にこうやってご飯を食べられるだけで私は嬉しいですよ」
サンはこの言葉を聞いた瞬間、真顔になってこちらを見てきた。
ど、どうしたんだろう?
戸惑うはるかを見つめながらサンが口を開いた。
「よし、ハルカちゃんの分は俺が奢る」
「「えっ!?」」
なんでそんな考えに至ったのかはわからないが、驚いたのは自分だけじゃなく、カイルも同様だったようで声が揃う。
「な、なんで? それにここは高いって聞いてるし……!」
戸惑いながらも、はるかはカイルが今回の仕事の報酬が良いから奢る、と言っていた事を覚えていたのでその事を含めて焦っていた。
するとカイルが会話に入ってきた。
「普段なら奢らすが、今日は俺がハルカとの出会いを祝う日だ。だから俺が出す」
えっ?
何かの聞き間違いかと思ってはるかは更に混乱する。
でも、カイルがまさかそんなにはっきりと宣言するとは思わず、嬉しさも感じた。
そう思って2人を眺めれば、何故だか睨み合いを続けていた。
く、空気が重い。
なんで2人とも競い合って奢るなんて言い出したんだろう?
特に解決策を思いつかないはるかは、2人の青年を忙しなく交互に見つめる事しかできなかった。
すると睨み合いをやめて2人がこちらを見てきたと思ったら、今度はお互いに目配せをしていた。
そして頷き合った後、再度こちらを向いて話し始めた。
「あー……、今日は俺達が出すから気にせず食べてくれよな!」
「なんだかよくわからないが、サンも出す気になったみたいだから、気にせず奢られておけ」
各々にそう言われてはるかはまだ少し戸惑ったが、ここは素直に奢られておこうと思えた。
「2人ともありがとう……。じゃあ遠慮なく、食べるね!」
2人の気遣いが嬉しくてはるかは微笑みながらお礼を告げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます