第5話 状況確認

 町に向かって歩いていたカイルは急に立ち止まってこちらを振り返った。


「あんまり離れて歩くなよ? 何か襲ってきた時、守れなくなる」


 はるかが動き出さなかったのを不思議に思ったのか、カイルは優しい声色でそう注意してきた。


 やっぱり……良い人過ぎない?


 あまりにも不自然すぎるように感じた優しさに、疑心暗鬼なはるかが問いかけてくる。


 でも、信じてみるって決めたんだ。

 この人は……カイルは信じる。


 そう心に誓ってはるかも歩き出した。



「なるほどな。ここに来たのは本当についさっきなんだな。下を見たり、周りを見たりと忙しそうにしていたから何かを失くしたのかと思っていたが……」


 辺りに人の姿がなかったので、はるかはこちらに来た時の状況を説明していた。

 しかし、両親が亡くなってしまった事だけは伝えられなくて、その事以外を伝えた。


 神様にこの世界に連れて来てもらい、何の説明もないままに置いて行かれ、途方に暮れていた。

 そんな時に神様以外のカイルの声が聞こえて頭が真っ白になって返事ができなかったと、経緯を簡単に話した。


 その説明を聞いて、カイルは憐むように声をかけてきた。


「それは、何というか……大変だったな」


 この一言で片付けていい事なのか、という気遣いを感じるようなカイルの言い方にはるかは苦笑いする。


「詳しい説明がまるでなかったからね。あのまま1人だったらと思うとぞっとするけれど、今はカイルがいるから安心だよ」


 だからそんなに気にしないで、という想いを込めてはるかはカイルに微笑んだ。


「そうか……。あとな、ずっと気になっていたんだが、髪や目の色とその首に下げている装飾品の色がまるっきり一緒なんだが、何か説明はされたか?」


 そう言ってカイルがわざわざ指を指してきたのは、先程のはるかも知らないペンダントだった。


「私の世界の……大切な思い出を形にしたものが欲しいって神様に伝えたら、その答えがこのペンダントだったみたい。それ以上の事は何も……。何か問題でもあるの?」


 気になってはるかは質問しながら足を止めた。

 するとカイルも立ち止まり、凄く変な表情で石とはるかを交互に見比べていた。


「どうしたの?」


 あまりにも変な行動に見えたのではるかは更に尋ねる。

 そして少し青ざめたように見えたカイルから注意を受けた。


「それはきっと『生誕石せいたんせき』だ。普通は装飾品になんてしない。急いで服の中にでもしまってくれるか?」


 カイルは石を見ないようにしながら話し終わると、ゆっくりと歩き始めた。


「しまっておけば大丈夫なの?」


 急いで服の中にペンダントをしまいながらはるかも続いて歩き始める。


「いや……今話すと長くなるから、町についてから説明する」


 少し考え込むような仕草をしたカイルから、これからどうするか……なんて呟きが聞こえる。

 しかしはるかは何も提案できるものがないので黙って隣を歩き続けた。

 するとある程度考えがまとまったのか、カイルが提案をしてきた。


「髪の色が他の黒の魔法使いよりも黒いのはもう仕方のない事だ。ジロジロ見られても気にするな」


 そう言ってカイルは一旦言葉を切った後、言い聞かせるようにゆっくりと話し始めた。


「それと……名前はハルカだけ名乗れ。全部の名前を言ったら異世界から来た事がバレる。この世界は異世界について色々と厄介なんだ」


 沢山気になる事がありすぎる。

 なんて返事をしたらいいんだろうか?


 少し悩んだ挙句、はるかは考える事を放棄した。


「なんだかよくわからないけれど、とりあえずわかった」


 そのはるかの返事にカイルは苦笑いしながら頷いた。


「まぁ……そういう反応になるよな。あとは俺がなんとかする」



 この世界の興味深い話をしていたのでそこまで時間をかけて歩いた感覚にはならなかったが、町はまだ遠い。

 着くのはもう少し時間が掛かりそうに思えた。

 しかし、今後の事をカイルに任せられる事で気が楽になったはるかの足取りは自然と軽くなっていた。

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