第4話 あなたの名前は……?
この草原で私が一体何をしていのか、沢山のそれらしい言い訳を考えていたはるかだったが、答えは出てこなかった。
『自分を信じ、生きていけ』
ふと、先程の神様の声が頭をよぎる。
自分を信じて、か。
目の前の彼は……信じられる人のように思える。
それなら下手に言い訳をするより、正直に話してみよう。
……よし、やってやる!
腹を括ったはるかも青年に対して真剣に言葉を伝える。
「あのね……信じられないかもしれないけれど……私、違う世界からこの世界に来たばかりなの」
言った。
言い切った。
だ、大丈夫かな?
この人なら大丈夫って勝手に思ってしまったけれど、頭変だと思われたかな!?
告げた内容に今更ながら慌てる。
そしてはるかの頬を冷や汗が流れた。
青年からの返事を待つ間に流れたその汗が、妙に時間をかけて地面へと落ちていった気がした。
しばらくして、唖然としていた青年の口がようやく動いた。
「悪い……驚き過ぎた。でも陽の光に当たっても色を変えない程黒すぎる髪の色は珍しい。……だからとりあえずは信じるぞ」
その言葉にはるかが驚く。
「えっ!? 信じてくれたの!?」
「なんだ? 信じてほしくないのか?」
「信じてほしいよ! だから信じるって言ってくれて嬉しい!」
まさかこんなにすんなり信じてもらえると思わなくて、はるかは安心して笑い声を漏らした。
「ふふっ、本当にありがとう」
そうお礼を伝えたが、青年は真剣な表情になると忠告をしてきた。
「異世界の話は外ではあまりしない方がいい。場所を変えるぞ」
そう言って青年はゆっくりと立ち上がっりながらこちらを振り返る。
「立てるか? 町まで歩きながら少し状況を整理したい。ここじゃ何か襲ってくるかもしれないから話している暇もないしな」
そう言いながら青年がはるかに手を差し出してきた。
戸惑いながらも手を取り立ち上がると、その手から安心感と共にどこか懐かしさを感じた。
「ありがとう。何か襲ってくるって魔物とか?」
差し出された手からゆっくりと手を離し、はるかは膝丈のワンピースの裾の汚れを手で払いながら質問をした。
「魔物だけじゃないぞ。人も襲ってくる」
青年の簡潔な答えにはるかは驚いて顔を上げた。
「そんなに危険な場所なんだ」
「ここは特別見晴らしがいいからな。それにそんな軽装の女が1人でいたら襲って下さいと言っているのと一緒だ」
さらっと言われた事実にはるかは肝を冷やしたが、今の無事を喜んだ。
「このまま1人だったら危なかった。見つけてくれてありがとう。最初に見つけてくれたのが——」
しまった!
私、名乗ってもいないし、まだ名前も聞いていない!
気が動転していたとはいえ、かなり失礼な態度を取っていた事に気が付き、はるかは慌てる。
「ごめんなさい! 名前を伝えていなかった! 私は天崎はるかっていうんだ。あなたの名前はなんていうの?」
焦りから少し早口になってしまったが、青年は特に気にならなかったみたいですぐに返事をしてくれた。
「気にしなくていい。俺はカイル・ジェイド。カイルと呼んでくれ。えっと……アマサキハルカ、だったな。聞き慣れない名前だが、なんて呼べばいい?」
はるかの名前に少しだけ戸惑うカイルを見て、こういった名前がない世界なんだとぼんやり思いながら返事をする。
「私の事は、はるかって呼んでね」
「それじゃハルカ、遠くに建物が見えるだろ? あれがここから1番近い町だ。あそこまで歩くぞ」
カイルはそう言うと、町に向かって歩き始めた。
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