第3話 出会い

 神様とは違う優しげな声にはるかの頭は真っ白になった。


「おい、大丈夫か? 何か探しているのか?」


 反応できないはるかに優しい声の持ち主は尚も話しかけてくる。


 探し物……?

 あっ……そういえば私、草原のど真ん中にしゃがんでいたんだった。

 他の人から見た私はそう見えていたんだ。


 そんな事を考えている最中も声の主はその場を動く事なく、はるかの返事を待っているようだった。


 今、この世界で頼れるのは……この人しかいない。


 そう覚悟を決め、はるかはゆっくりと声の方向に顔を向けた。

 すると目に飛び込んできたのは少しだけ目つきの鋭い、整った顔の青年の姿だった。


 そしてその姿を目にした瞬間、はるかの心臓が高鳴った。



 黒緑色の少し長めの髪の毛が風で揺れているが、後ろで軽く束ねられているようで乱れる事はない。

 瞳の色も同様の色をしている。

 ぱっと見た感じでは華奢のように見えるが、体が膝までの深緑色のマントで覆われていてよくわからない。

 かろうじて黒のズボンと茶色のショートブーツが確認できるぐらいだ。

 そしてマントの隙間からは剣のような物が覗いていた。

 身長は多分だが、はるかより頭ひとつ分くらいの違いがありそうに見える。


 全体を見ると旅人……のように見えるけど……すっごい色白。


 これがはるかの感想だった。


 そんなはるかと青年の目が合うと、またも青年が話しかけてきた。


「そんな軽装で1人で外に出るなんて危険だろ? 何か探しているなら手伝うぞ?」

「あっ、ありがとうございます!」


 そう答えてはるかは固まった。


 この世界で生きる術を探しています、なんて変な事を言えるわけもなく、途方に暮れた。


 そんなはるかはを不思議そうに見ていた青年は、こちらにゆっくりと歩きながら近づいてきた。


「何か訳ありか? 髪の色も……黒は黒でも珍しいぐらい黒いな」


 そう言いながら座り込んでいるはるかの隣に青年は腰を下ろした。

 その事に驚きつつも、はるかは1人ではない安心感から力が抜けて自分もぺたんと地面に座り直す。

 そしてこちらを見ていた青年は少しだけ驚いた表情になった。


「手、怪我してるぞ」

「えっ?」


 先程、体勢を崩した時に出来た傷かもしれない。


 そう考えた時、青年が動いた。


「黒だから白の魔法は苦手なのか? 癒しを」


 そう言うと青年は指をパチンと鳴らした後、はるかの手に自身の手をそっと重ねた。

 その手が離れると、はるかの手の怪我は綺麗に消え去っていた。


 これが魔法?

 こんなに自然に使えるんだ。


 はるかはそんな感想を抱きながらも、青年の行動が不思議に思えた。


「怪我を治してくれてありがとうございます。あの……初対面なのになんでこんなに親切なんですか?」

「敬語はやめてくれ。親切か……強いて言うなら、恩は売っておいても損はないだろ?」


 そう言って少年みたいに笑う青年をはるかはじっと見つめた。


「で、1人で何をしていたんだ?」


 相変わらず微笑みながらも、どこか真剣に見える表情の青年に本題を切り出されてはるかはうろたえた。


 私は……なんて答えればいいのだろう?


 この世界で新しく生まれ直したばかりのはるかはその答えを懸命に探した。

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