第2話 新しい世界
暖かい。
ずっとこのまま、この暖かさに包まれていたい。
はるかが光に包まれたと理解した後、心地良い暖かさを全身で感じていた。
そしてその事を頭で考えられるようになった瞬間、急に肌寒さと自身の体の重さ感じ、はるかはその場に座り込んだ。
眩しい太陽の光。
晴れ渡る青い空。
どこまでも広がる草原。
座り込んだ私の手に触れる黒味がかった硬い葉っぱ。
順々に感じた事を考えていた時、はるかの肩までの長さの黒髪を強い風が撫でた。
乱れた髪の毛を直していると、自身の服装が目に入った。
腰元に緩いくびれのある白に近い紫色のワンピースが身体を包み、足はヒールの低い黒のロングブーツを履いていた。
首元までしっかりと覆う襟首を触りながら、その触り心地の良さに少しだけ驚く。
袖は肘までの長さだが、寒さも感じないので着心地がとても良い。
そしてはるかは首に掛けてある胸元までの長さの装飾品に気が付いた。
シンプルなシルバーチェーンの先に卵形の光をも吸い込んでしまいそうな漆黒の色をした石が付いている。
本来ならあるはずの石を留めている部分が石の中に埋め込まれているのか、表には出ていない。
なのでチェーンの部分に直接付いているようにはるかには見えていた。
石の大きさは手の平より少しだけ小さめの石だが……私には見覚えのないペンダントだった。
様々なものを確認していると、少し頭がはっきりとしてきた。
そして今度は周りをゆっくり見渡すと——遠くに何か建物のようなものが見えた。
「特に問題はなさそうだな」
急に、聴き慣れた声が頭の中に響いた。
「ここがこれからお前が生きていく新しい世界だ。言葉も魔法もこの世界に対応できる身体になっている。形になるものはその首から下げてある装飾品だ」
神様が淡々と説明を続けていく中、はるかは理解が追いつかずに混乱する。
そんなはるかを他所に、神様は説明を続けた。
「そしてお前が想像した通り、魔物も存在する。服に魔除けは施してあるが、いつまでもそこに座り込んでいたら襲われる」
「えっ!?」
そんな危険な場所に放り出されている事を無理やり自覚させられて、はるかは驚きの声を上げた。
「願いは確かに聞き届けた。これからは自分を信じ、生きていけ。さらばだ」
「えっ……?」
神様は言いたい事だけ言って、消えてしまった。
「あの……神様?」
声をかけてみたが返事はない。
先程まで姿は見えなくとも、なんとなく存在を感じていたのに今はまったく感じない。
「うそ……うそでしょっ!?」
右も左も分からない状態で放り出されてはるかは頭を抱えて叫んでいた。
『いつまでもそこに座り込んでいたら襲われる』
混乱しながらも神様の言葉を思い出して、はるかは立ち上がろうとした。
しかし、まだ転生してきたばかりだからか足に力が入らず、思い切り体勢を崩して地面に手をついた。
「いったぁ! ……もう、いやだ……」
こんな状態で生き延びるなんて無理じゃない!
膝を抱えてうずくまりながらそんな事を考えていた時、神様とは違った声がはるかの耳に届いた。
「お前……さっきから1人で何しているんだ?」
私は今でもこの瞬間を覚えている。
1人でどうしようもなくなっていた私を救い出してくれた優しい声。
神様よりもよっぽど神様みたいな人だな、なんて後に思う私はそんな彼に生涯感謝する事になる。
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