第6話 何気ない会話

 はるかだけを名乗る事を聞かされた後、他の説明は全部町に着いてからという事になった。

 なのではるか達は草原を歩き続けながら他愛もない話を続けていた。


 カイルの年齢は19歳だという事。

 今は冒険者を生業としている事。

 今日も依頼を終え、魔法で町まで空を飛んでいた途中に私を見つけた事。


 そんな事を話していたのだが、急にカイルは違う事を話し始めた。


「一応、ハルカは俺の遠い親戚って事にしておく。その事に関して何か聞かれても答えなくていい」

「わかった」


 きっと何か考えがあっての事なんだろう。


 そう思ってはるかは短い返事を返した。


「ようやく町が見えてきたな。とりあえず大体の話はできたから、あとは魔法で飛ぶか? 疲れただろ?」


 カイルがそう言うように町の姿がはっきりとしてきた。

 しかし、それと同時に歩みを止め、差し出された手の方へはるかは視線を落とす。


「ううん、疲れていないから大丈夫だよ! 色々な話が聞けて楽しかったし。ありがとうね」


 はるかはお礼を言いながら、自分も立ち止まり、差し出された手を両手でそっと握るとカイルを見つめた。


 不思議と安心する。

 そしてやっぱり、どこか懐かしい。

 この気持ちは一体何なんだろう?


 そう思っていたのだが、カイルの目が僅かに泳いだ気がした。

 そして気が付いた。


 ずっと手を握りっぱなしで考え事をしていたせいでカイルが困っている事に。


 慌てて、でも名残惜しさからゆっくりと手を離しながらはるかは謝った。


「ずっと握っててごめんね! 町まであともう少しみたいだからちゃんと歩くよ」

「いや……それは別にいい。疲れたらちゃんと言ってくれ」


 そう言ってまた前を向いて歩き始めたカイルに、はるかも続いて歩き出す。


 本当に良い人だなぁ……。


 なんて思っていたら、カイルが続けて話し始めた。


「町に着いたら俺が利用している宿に行く。そこで少しだけ待っててくれないか?」

「わかった。でもカイルはどこへ行くの?」

「仕事の報告と報酬を貰いに行く。そこまで時間はかからないはずだが、それに付き合わせるのは悪いからな」


 どんな所に報告をしに行くのか気にはなったが、カイルの気持ちを無碍にするわけにもいかない。

 なのではるかは無条件でその提案をのんだ。


「わかった。仕事終わりだったのに、色々とありがとう」

「気にするな。それに今回の報酬はかなり貰える予定だ。俺達の出会いの記念に美味いもんでも食べような」

「そうなんだ! ありがとう……って私、お金持ってない!!」


 慌てて自分の服をペタペタ触るが、ないものはない。

 カバンなんてものもないので、はるかは絶望した。


「ハルカの世界の神様は試練を与えるのが好きなのか? それと金は気にするな。蓄えもあるから1人増えたところで余裕で養える」


 えっ?

 異世界初日から旦那様ゲット?

 って違う違う!


 邪な考えが浮かんだが、まともな自分がそれを止めてはるかは安堵した。


「で、でもそれじゃ悪いからどうにかする!」

「何もないのにどうにも出来ないだろ? 何かあるのか?」


 少し考えみた。

 しかし、先ほど旦那様なんて邪な考えを浮かべたからか変な考えが浮かんだ。


 お礼は……私自身……?


 瞬間、はるかは自分の顔が赤くなるのを感じた。


「なんで顔を赤くしているんだ? どんな事を考えたのか教えてほしいもんだ」


 カイルは意地の悪い笑みを浮かべながらこちらを見てきた。


「な、何その顔! 変な事なんて考えるわけないでしょ!!」


 別に考えを読まれたわけでもないのだが、カイルの反応で恥ずかしさが増したはるかはヤケになって返事をしていた。


「おー、勇ましいな。この短時間でえらい変わりようだな」


 この言葉ではるかは我に返った。


 しまった!

 出会ってからのまだそんなに時間も経っていないのに、馴れ馴れしくしすぎた……。


 そんな事を考えていたからか、表情に出てしまっていたのかもしれないと思うような言葉がカイルから告げられる。


「悪い意味じゃないからな。俺はそっちのハルカの方が良いと思うぞ」


 先程とは違う柔らかい笑みを浮かべて話すカイルは、日の光を浴びてキラキラと輝いているように見えた。


「あ、ありがとう」


 違う意味で恥ずかしくなりながらもはるかはお礼を告げた。


 程なくして、目指していた町がはるか達を出迎えた。

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