第6話 赤毛の兄弟


 ティアリスに一人だけ存在する『魔女』の弟子であり実の兄弟であるアルとユタは、名も知らぬ『転移者』の少女達を彼らの師匠の元へ誘導していました。


 あゆみを進める度に、特徴的な赤毛がふわふわと揺れます。


「……とりあえず、こっちの意思は伝わったっぽいな」


 アルは、ユタと同じシアンブルーの瞳に好奇心と驚きの色を見せつつ、会話をしながら楽しそうに笑っている茶髪の少女と、気が抜けたような顔をしている黒髪の少女を見つめています。


「そうだね。どう思う?兄さん」


「どうって言ったってなぁ……まぁただのガキじゃね? 魔法が使えるようには見えん」


「あのねぇ、もう少し兄さんは口を慎むべきだと思うよ?僕らだって、今年で14なんだから大人から見ればまだ子供の範疇でしょ」


「ユタ、なんか最近俺に厳しくないか?」


「それは元から。あと、本当に直した方がいいよ。お師匠様困ってたし、それに……兄さん言い方は悪いけど、基本的に間違ったこと言ってないからね」


「お、おう」


 ユタは「ごめん、ちょっと言いすぎたかも」と、申し訳なさそうに俯きました。


 彼はアルに似て口の悪い性格が為に友達ができず、アルと同じように親元を離れて修行をするようになったのですが、最近は自覚するようになったようです。

 弟の成長を感じて、アルは少し嬉しくなりました。ユタはアルのそんな気持ちを知ってか知らずか、慌てたようにすぐに話を戻しました。


「……お師匠様は不可能じゃないとは言ってたけど、僕らと同い年ぐらいなのに二人で転移を成功させるとか、正直信じられない。見た目は普通の女の子だし、洋服や髪色もディアス地方でよく見る普通のものだ……靴じゃなくてスリッパを履く文化があるなんて知らなかったけど」


「おま、お前……いや、なんでもない」


「?」


 ユタが言ったディアス地方は、ティアリスから馬車で3日ほど真南に進んだ場所にあり、独自の文化を持った街々が並ぶ温帯地方です。


 ティアリスはちょうど地方との境に位置している上、海が近く文化の交流が盛んであるため、人々は様々な出で立ちで街を闊歩しています。


 ちなみにディアス地方には、スリッパを履く文化は存在しません。


「ま、お師匠様があんなに血相変えて『連れてこい!!!!』って言うんだから、半端なやつらじゃないんだろ。人は見掛けによらないってな」


「うん……お師匠様のあんな顔、初めてみたなぁ……」


「話したら凄いやつだったりしてな!あーぁ、なんで言葉っていっこにならなかったんだろうな〜、マジめんどくせぇ」


「だから、口が悪いよ兄さん。……あっ」


「いいっていいって。俺もユタも多分当分治んねぇし、ゆっくりやろうぜ」


「うん……またお師匠様にあの道具を貸してもらおう」


「おうよ! 楽しみだなぁ」


 ユタは魔導書を小脇に抱えなおし、その持ち主の元へと、先を急ぎました。



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