第4話 見たことがあるような話
嵐は続いています。
ひとしきり会話をした二人は部屋を出て、探索に移ることにしました。
転移してきた建物は、古びて廃墟にこそなっていましたが、内装、広さともに『屋敷』と言って差し支えないほど立派なもので、見上げるほど高い天井、大きな二又の階段を持つ玄関、錆びれてはいるものの価値のありそうな品々が入った倉庫などを見て周ることができました。
ほんの少しですが残っている家具や物もあり、
それは書斎らしき場所にあった本たちも例外ではありませんでした。
「むむむ!ぬぬぬぬ……うぅ…………っはぁ、駄目だ!まったく読めない!」
「そりゃ無理だろうね……」
本に記載されているそれは、残念ながら全く得体の知れない文字で、文法すら掴めません。
この異世界は、独自の言語を取得しているようです。
「絵は描いてあるし、ちょっとでも意味が分かるといいんだけど」
ボソッと呟く詩織に、彩は……
「転生して無双しなきゃならないのに、『異世界の言語を覚えろ』と……?!」
身を乗り出して食いついてきます。その表情は悲嘆と驚きに満ち、まさに『ガーン!』といった具合。
「これこれ彩さんや、英語を使わずにイギリスの 会社の社長になれると思うかい?無理じゃろ?」
「あー。スキル、お手軽スキルとか……ないかな……、ないよなぁ……うん!無理だ!」
「ええぇ……無理って……」
冗談めかして言ってはみたものの、言語が通じないのはかなり深刻な問題です。
詩織は今後自分達を襲うであろう災難に、途方もない不安感を抱いていました。
彩も読み取ることのできない文章に困り果て、さてどうしたものかと本棚を眺めていると――
「……? あっ!!!!」
ありました。 日本の書籍です。
それも、一冊でだけではなく十冊以上はあるようでした。全く読み取れない本ばかりで疲弊していた彩は、なぜ異世界に日本の書籍があるのかなどという疑問など眼中にありません。
やっと進展があった!と弾んだ気持ちで、脇目も振らず一番近くの本を手に取り、
「ノートかな……? って、うわぁ」
そして落胆しました。
書かれていたのは、異世界の情報なんてものとはかけ離れた、小説のプロットというなんとも期待はずれなものだったからです。
内容はというと――
『魔女の疑いをかけられ魔女狩りに合う』
↓
『悪魔と血の盟約に従い契約する』
↓
『本物の魔女になって下克上!!!』
「ふむふむ、これはまぁなんとも………あ」
彩はもう少し見ていたかったようですが、見かねた詩織がそっとノートを閉じて、首を横に振りました。その様子は、まるで余命宣告をする医師のようです。
詩織はなんだか見たことがあるような話だな……と、既視感を覚えましたが、多分気のせいだろうと深くは考えませんでした。
結局日本語で記載されていた本の類は、ほぼライトノベルや漫画に関連するもので、彩が楽しんで読みふけってしまうのみとなりました。
詩織が他の本棚にも読める本がある可能性を考え本棚を探すも、結果は出ず。
そのまま、数時間は経ったでしょうか。
夜明けに気づいた二人は、事態の進展を求めて、外へ出ることにしました。
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