役作りLv100
「ヤダヤダヤダ帰ろうよ!」
「いいじゃんかお前にしか頼めないんだって!」
「何が悲しくてボクは平日に女装した男と歩かなきゃ行けないんだ!」
「女装に対する偏見ですかー?ハルカ君時代遅れじゃなーい?」
「そういうことを言ってるんじゃないの!」
ボクは何故ソラが女装をしているのか、受け止めきれず5分ほど駅前で攻防を繰り広げた。
結局ボクが折れて近くのハンバーガーショップで話を聞くことにした。
「いやまさか俺…じゃない、私だって女の役やるとは思わなかったよ?」
「ボクだってそうだよ!もっとなんかこう、居るでしょ、他に」
ソラの顔は目はぱっちり二重だし、鼻筋は通っているし…なんかこう、整っているので綺麗系の女性で通用するだろう。だけど、体型は骨ばっているし仕草、シルエットも男らしさそのもの。声もボクより相当低い。写真ならともかく動きや声も見られる舞台では不安すぎるキャスティングだ。
「共演者がマッチョばかりなんだ…顔もみんな男顔で…」
ポテトをモソモソと食べる。
「1番背が小さくてヒョロかったのが俺、じゃない、私で…」
モソモソ。
「スカートもハイヒールも上手く捌けなくて…」
ポテトを口に入れる度に小さくなっていくソラの声に可哀想になってしまう。
「あー…その、元気出そうぜ、ソラ…ちゃん?」
とうとう顔さえ見えなくなったソラにそう言うと、また駅であった時みたいなニコニコ笑顔で顔を上げたのだった。
「さて、どこいく?」
「あ、私調べたの!パンケーキたべたい!」
携帯を見ながら歩くソラにちょこちょことついて行く。よく見ると、携帯のケースがピンク色のキラキラになっていた。
平日だったのもあって、並ぶことなく店に入れた。はいれたのだけど、正直なところ、
…パンケーキとホットケーキの違いって何。
に溢れた1時間だった。勿論美味しかった。ソラも美味しそうに平らげていた。だけど、周りにいた女の子たちみたいにははしゃげなかった。
「次は行ける!絶対テンション上がるから!」
と連れてこられたのはいちご飴の店。
「おーパリパリ。歯茎に刺さったら死ぬ」
「え?今ソラって女の子だよね?覚えてる?」
「ていうかさ、見てよ、このイチゴ茨城県産だってよ。東京で飴かけたら倍の値段になんの、怖くね」
「テンアゲ…とか言わないの?はしゃごうよ」
「テンアゲってそろそろ死語だから」
男、それも片方は田舎出身、片方は役作りバカだから無理はないが、ボク達は夢も光も何も無い2人に成り下がっていった。
「はー。さすがにお腹いっぱい」
「そりゃお腹いっぱいだよ。飴のあとチーズ伸びるやつとカラフルな綿飴、あと…」
「タピオカんまかったな」
「なんなら1番お腹にきたよね」
…と、最後にはソラはただ女装しただけのソラに、ボクはただお腹パンパンなハルカになった。
ふと空を見るとうっすらピンク色に染まっていて、夏のはじまりを感じる。
「もう6時半か。日が伸びたなー」
ボクは無言で頷く。
「よし、それじゃ最後行くか。ついてこいよ。」
ソラは1日歩き通した成果なのか、すっかりスカートとハイヒール姿が様になっていた。……すこし歩き方が逞しすぎる気もするけど。
連れてこられたのは小さな遊園地だった。着いた頃にはメリーゴーランドは夜仕様に光っていた。けど、平日なので人はほとんど見られなかった。
チケットを買ったあと、他の遊具には目もくれずにソラはどこかへとまっすぐ進む。ボクはただ、ソラの背中を追いかけた。
たどり着いた先は大きな丸だった。
「観覧車?」
「そ。デートの最後といえば、みたいなとこあるだろ?」
「みんなそんなベタなことするのかね」
「するだろ、男の憧れだろ。」
そこは誰も並んでいなくて、やる気のなさそうなバイトがぼーっと立っているだけだった。
「お2人ですか?」
はい、と答えてチケットを渡す。バイトは淡々とチケットをちぎり、ゴンドラを開けてボクらを案内した。
観覧車に乗る時の、この緊張感って何だろう。
ボクは先に乗って、隅の方に座った。
ソラも続こうと足を乗せた。とき、
「あ、お姉さん!」
ずっと紐みたいな声で話していたバイトが慌ててソラに声をかける。
「スカート、気をつけてくださいね。」
どうやらスカートの裾が風でめくれそうになっていたらしい。
「あ……え、っと、ありがとうございます、」
急な女の子扱いに戸惑ったのか、ぎこちない返しをしたソラに楽しんでくださいね、とバイトは笑った。
「俺、お姉さんにみえたのかな」
向かい側に座ったソラがニマニマしながら言った。
「見えたんでしょ、役作り成功じゃない?」
ふと外を見ると空は暗くなっていて、夜景が見えた。
ソラに出会った頃は暗くなるのも早かったし、東京の灯は冷たくて、怖かった。だけど、今は、綺麗だなと素直に思えた。
「ハルカ、今日はありがとな。」
「ううん、こちらこそありがとう。楽しかった」
「公演、ちゃんと呼ぶから」
「うん、観に行く」
「女の子の俺に惚れるなよ」
「大丈夫。タイプじゃないし」
とは言ったけど、ひでー。と笑ったソラは冗談抜きで女優さんみたいに美人だった。
この1日、ソラは店員さんやすれ違った女の人を観察していたのだろう。仕草や笑い方、目線の動きまでもが綺麗に整えられて、やりすぎないけど、わかりやすい『おんなのひと』になっていた。
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