第3話 ケータイ
俺は今まで他人に素顔をばれたことはなかった。この時までは。
「なんで、黒川君は猫を被ってるの?」
ああ、いつからなんだろう。誰にもあばかれないという絶対の自信を持つようになったのは。
彼女にばれるなんて思わなかった。いや、思いたくなかっただけなのかもしれない。だからこそ知っていた。彼女がたった二時間弱で俺の本性を見抜いたわけを。
「君だって猫を被ってるだろ」
これは決して疑問でなんかではなく確信だというように圧のかかった言葉になる。
雪乃は声を出しながらさぞ面白いように笑い始める。
この表情を見ていると俺が猫を被るという表現よりも仮面をつけるという表現を使うようになった理由を思い出した。彼女の笑顔は教室で見せていたあどけない笑顔に打って変わり、どこか棘のあるような笑顔より笑みといった方が正しい様な表情をしていた。
心のどこかではきずいていたのだ彼女も仮面をつけていることに。
「いつ頃からきずいたの?」
雪乃は張り付けたような笑顔ではなく素の表情で聞いた
「教室で女子に囲まれているときだ」
廊下から見たとき確かに彼女の表情は一瞬歪んだ。
彼女は鼻で笑うと「猫を被っているどおし仲良くしましょ」
「猫を被るって表現は嫌いだ。」
「あら、急に荒っぽくなるのね」
彼女に色っぽい表情をされどきりとしてしまった。
「ドッキッてした?」
思っていたことを見透かされ、頬の温度が上がっていく。
「どうだと思う?」
こんな見苦しいような反撃では意味がないと思う。普通の人ならばだ。
一心は普通ではない。普段から表情を作っているのでなれたものである。すまし顔で全くもってそんなことがないように言い切る。
彼女は俺の目の奥を覗くように見つめ、すぐに視線を外す。
「つまらない人ね。それより早く、仕事教えてくれるかしら」
「わかったよ」
それからは特に何事もなく一通りの仕事を教え終え帰る支度をしているときに言われた。
「ねえ、連絡先教えて」
「なんで?」
考える間もなくいつの間にか言葉にしていた。
「なんとなくよ」
と言われ、一心は顔をしかめるが「わかったよ」と返事をする。
それから連絡先を交換して、学校を後にする。
家に着き、部屋で制服を脱いでいると携帯から通知音が何度も鳴り響く。一心は基本的にあとでまとめて見るタイプなのだが、ここまでうるさいと気になってしまう。
携帯を見るとそこにはあいつからの通知で埋まっていた。内容を見ると、
[かまってかまってかまってかまってかまってかまってかまってかまって]
と画面が埋まっていた。開けてびっくり玉手箱とはこのことを言うのだと思った。
は? あいつ性格変わりすぎだろ。こんなときは無視をするという相場が決まっている。
一心はケータイをベットに放り投げると中断していた着替えを再開させる。
着替えを終え部屋を出ようとすると同時に携帯が電話音を響かせる。
電話に出ると確かにあいつの声だった。最初だけは―――――――
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