《第七章》

泉の為に出来ること。

絵を描くだけではないはずだ。僕はいつもより気合いを入れて学校へ行った。

いつも通り授業が始まる。

いつも通り時間が過ぎる。

いつも通り休み時間がやってくる。

いつも通りいじめがはじまる。

僕はその当たり前になってしまった当たり前じゃない日常を壊すために席をたった。

「なぁ、やめようよ。それ。誰も得しないだ

ろ」

「は?なにあんた。あんたには関係無いでし

ょ」

「関係無いとか関係ない。お前らのお遊びに

付き合ったこいつとか泉みたいなやつが何

人も死んでんだよ。お前らは人の命奪って

んだよ。人の人生踏みにじって楽しいか

よ」

「私たちが殺したみたいな言い方しないでく

れるかな。人聞き悪い。目障りだからそれ

を教えてあげた。そしたら勝手に死んだ。

それだけでしょ?私たちは何も悪くない」

「お前らにいじめられなければまだ続く命だ

った」

そんなの知ったこっちゃないと言わんばりの不満げな顔だった。多分人をいじめてる奴って今自分が悪いことをしているという自覚がない。自分の嫌いな奴、目障りなやつを攻撃して何が悪いのか。きっと不思議でしょうがないんだ。皆は陰で悪口を言うだけ。でも私たちは違う。面と向かって言ってると、正しいことをしている自信がある。

「今、人を殺すことは簡単なんだ。死ねの一

言だけで人を殺すことができてしまう。で

もそれに依存しちゃいけないんだ。人を攻

撃する事に快感を覚え、身に余った才能を

人を傷つけることに使っちゃいけないんだ

よ」

気づけば教室は静まり返っていた。皆が僕に注目している。急に体が熱くなって汗が止まらなくなった。でも、勇気を出すって決めたんだ。僕が言わなきゃ誰が言う。

「お願いだから、お前らのその才能を無駄遣

いしないでよ。誰かより勝ってると思うそ

れを人を傷つけることに使わないでくれ

よ。 せっかくの長所をさ。勿体ないだろ」 そう。いじめをしてる奴らには何かしらの才能があるんだと思う。顔に自信がある。親の地位に自信がある。知能に自信がある。劣ってるやつを見てるとバカにしたくなったりイライラしたりしてしまうんだ。それが集結してしまうと言葉の暴力、あるいは物理的暴力となって弱いものを傷つける。

「僕はもっと早く行動すべきだったんだ。泉

が死ぬ前に。気づいていた。それなのに僕

は見て見ぬふりをしたんだ。泉がまだ生き

ていることにあぐらをかいて。泉が限界な

んかとっくに超えてることには気づかず

に」

教室から緊張感が漂っていた。多分同じことを思っていた人や、今僕の話を聞いて心当たりがある人が何人かいたんだろう。

いじめは加害者だけでなく傍観者もまた同罪だ。被害者はただ見ているだけの僕らを見て助けを乞うことすら諦めてしまう。そしてまた1人の闇に落ちていくんだ。

クラスのやつが1人、口を開いた。

「私は永遠ちゃんと仲良かったの。でも永遠

ちゃんがいじめられるようになって私もい

じめられるのが怖かった。それで突き放し

てしまったの。私も悪いの。だから皆で変

えていこうよ。同じ被害者を出しちゃいけ

ないんだよ。もう友達がいじめられてるの

を見るのは嫌だ。何も出来ない自分を責め

るのも嫌だ。クラスが次は自分の番なんじ

ゃないかと怯えて過ごしているのも嫌だ。

変わろうよ」

あぁ、繋がった。僕が出した糸をちゃんと受け取って繋いでくれた人がいた。

すると1人、また1人と私も、俺も、と言う声が聞こえだした。

「だからお前らもいじめ、やめてくれよ。頼

む」

こんだけクラスに集結されると人数の差で負けてしまったあちら側はうんと言うしかなかった。

でも最初はそれでいいんだ。そうやっていじめのない当たり前が当たり前になればいい。

僕らは行動が遅かった。間に合わなくなってから気づく。誰かが犠牲になってからじゃないと気づくとこが出来なかった。

ガラガラガラ

教室の扉が開いた。先生だ。時計を見ればとっくに休み時間の終了を知らせるチャイムは鳴っていて授業の時間を30分も使っていた。

「先生ももっと早く行動すべきだったの。ご

めんなさい。あなた達の大切なクラスメイ

トを助けることが出来なかった。先生も変

わるね。あなた達に教えられた」

先生は目に涙を浮かべていた。教室には鼻をすする音や泣いている声だけが響いていた。

勇気をだして良かった。

なぁ、泉。お前が背中を押してくれたんだ。


ありがとう。

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