《第五章》
泉が死んだ。
死因は手首からの大量出血による出血死。
自殺
だそうだ。
お葬式に行くと皆泣いていた。友達や同じクラスの人も来ていたがその中に泉を虐めてたやつもいた。そいつらも泣いていた。
「皮肉なもんだな。お前の顔、初めて見るの
が葬式なんてさ。別に普通じゃん。マスク
付けることなかったじゃん」
真っ白になって、冷たくなった泉はあんなに見せることを嫌がっていた素顔をあっさり晒
した。
僕は泣かなかった。
なぁ、お前、どんな気持ちだった。
切る時さ。
僕の顔チラついた?
生きろって言ったじゃん。
確かにお前、僕がまた明日って言っても
「うん」
とは言わなかったな。
外は大雨。
僕は走っていた。
走って、走って、ひたすらにただ走っていた。
別に走ったところで何も解決はしないし泉が生き返ることも無い。
何かをするのには理由が無ければいけないのかと言われたらそんなことは別にないように、僕が走る理由も特にない。薬局に寄ってカミソリを買ってまた走り、自分の部屋へ走り込みカミソリを手首に当てた。
サッとスライドさせる。血はでない。
もう一度、さっきより力を込めてスライドさせた。ポツポツと血が浮き出てくるだけで全く出てこない。
泉はいったいどんだけの力を込めて切っていたのか。
もうこの時点でかなり手首は痛かった。
スマホで調べてみた。
『死ぬ方法 リストカット』
調べてもたいした情報はのっていない。
死にたい人にあっさり
こうやったら死ねますよ
なんて調べても出てくるはずはなかった。辛い時は相談しましょう。
死にたくなった時にはここに電話してください。
○○クリニックのホームページ
そんなのばかり。死に方なんてどこにも書いていなかった。
泉もこのページを開いたのだろうか。
手首に目をやる。
ポツポツと浮かび上がっていた血は惨めに固まっていてこれ以上血が出ることは無さそうだった。
「人間ってしぶといんだな」
泉に語りかけるように話した。
当然返事はない。
死ねない僕は死んだフリをするかのようにベットに倒れ込み目を閉じた。
死ねない。
死ねない僕に出来ることはなんなのか。
泉が死んでから何日も経った。
泉を虐めていたやつは他の弱いやつを見つけて虐めを繰り返していた。
美術準備室には僕1人。
その日は珍しく顧問の先生が顔を出していた。美術準備室を覗いて掃除しとけよとだけ言って去っていった。
「掃除ねぇ」
確かに準備室はびっくりするほど汚い。
皆がてきとうにしまっているのが分かる。
1時間ほど経っただろうか。最後のゴミ山に手をかける。そこには描きかけ、もしくは描き終えた絵が沢山積んであった。なんだか全部見てみたくなって1枚1枚並べていった。
どれも上手とは言えない。まるで泉の絵のようだ。
''泉の絵のよう''
この考えがなんだか頭に突っかかった。
並べられている絵を眺めて、眺めて、
ふと気がついた。
どの絵にも黒い線があった。それを繋げるように置いていった。パズルのように。
これは太さが違う。
これは向きがこうか。
そうやって時間が経つのも忘れて並べていった。
「できた」
浮かび上がったのは
『私は負けない』
の文字。
なんだか泉に訴えかけられてるいるようで、気がつくと走り出していた。泉の家へ。
泉のお母さんなら何か知っているかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます