第15話 修行編15 初心者講習10 最終演習
初心者講習7日目。最終日。
『講習生の諸君、今日が初心者講習最終日だ。準備は出来ているか?』
専用艦のCICで待つ僕らに、いつものように仮想スクリーンの小窓からシイナ様が呼びかける。
『問題ありません』
返事と共に小窓が開き、メンバーの顔が次々と表示される。
全員集合完了だ。
『よし、全員揃ったな。今日は強襲実習を行う。
リアル・プレイには、
それを最後の演習としてヴァーチャル空間で体験してもらう。
今回はNPC艦隊と共に講習生1人ずつ順番に参加してもらう。
その際、突入先で何があったかは他言しないように。
後から参加する者にネタバレしては面白く無いからな』
どうやら今回は敵地への強襲侵攻作戦を体験するようだ。
これは侵略になるのか? リスクも高そうだし
今回は演習だけど、実際は作戦への参加不参加は個人で選べるのだから忌避感があるなら参加しなくてもいいんだよね?
『勝利条件は敵拠点の制圧または敵艦隊の殲滅だ。
諸君らは強襲艦隊の一員として自由に戦ってもらいたい。
それではフォレストから。強襲演習開始!』
フォレストの小窓が消えヴァーチャル空間の演習場へ向かったことが伺える。
と3分程でフォレストが戻ってくる。
何があったのかは他言無用なので教えてもらえないが、青い顔をして俯いている。
これはあっさり死んだな。
いったいどんなヤバイ戦場だったのだろう?
『次はタンポポ。強襲演習開始!』
タンポポも5分程で戻って来た。
どうなってるんだ? この演習の目的は何だ?
『次、オオイ。強襲演習開始!』
オオイも5分で戻って来た。
オオイがムッとしている。納得のいかない結果だったのだろう。
前衛のフォレストが3分で後衛のタンポポ、オオイが5分。
この差は単純に場所取りの位置の差なのか?
『次、アヤメ。強襲演習開始!』
アヤメは4分で戻って来た。
フォレストと同じで顔が青い。
やはり前衛は危険なんだな。
『次、キリ。強襲演習開始!』
キリは7分ももった。
後衛有利というのは間違いなさそうだ。
だが、全員どうやら演習は失敗に終わっていると思われる。
演習内容を教えられないルールのため、対処が難しい。
次は僕の番だ。さてどうするか。
『次、アキラ。強襲実習開始!』
ヴァーチャル空間の演習空間に僕の専用艦とNPC艦が集合している。
目の前には
『強襲艦隊、全艦
NPC艦が整然と陣形を組み
僕も専用艦を前進させ
水面に入るように空間を越えると目の前には満天の星の海が展開される。
前方に見えるのは敵艦隊と惑星。
敵艦隊はその惑星を守っているのだろう。
『全艦戦闘態勢、敵艦隊を各個撃h……』
いきなり艦隊旗艦に敵艦のレールガンが直撃する。
艦隊司令は命令の途中で戦死したようだ。
混乱するNPC艦隊。
敵艦隊で一際目立つクリムゾンレッドの戦艦が主砲の大口径レールガンを超長距離射撃しているのだ。
「あの色……。シイナ様の軍服と同じ……」
嫌な予感のした僕は専用艦を急機動させてNPC艦の後ろに隠す。
狙いすました大口径弾がたった今僕の専用艦のいた位置を通過すると後ろのNPC艦を貫いた。
「やばい。狙われてる! これが開始3分で戦死ルートか!」
『アキラ。上手く避けたな』
突然通信が入る。
「やっぱりシイナ様の戦艦じゃないか!」
こちらの艦隊にはシイナ様の戦艦と同等の射程を持つ艦が居ないらしい。
この場はミサイルを撃ち牽制するぐらいしかやりようがない。
しかしどのNPC艦もセオリー通りに射程を詰めようとするだけだった。
こちらは艦隊旗艦が轟沈し、司令官が戦死。その指揮権が引き継がれていない。
だからNPC艦は単艦で出来うる行動しかしなくなっている。
「拙い。シイナ様なら僕を確実に狙って来る。早くなんとかしないと」
言ってる側から僕が隠れたNPC艦が撃沈される。
くそっ。考えろ!
僕の専用艦は指揮特化の装備が唯一の強みだ。
艦種”艦隊旗艦”はダテじゃない。
ここは戦術兵器統合制御システムを使って艦隊の指揮権を僕が奪うしかない。
僕は専用艦を新たなNPC艦の後ろに隠しつつ戦術兵器統合制御システムを起動しNPC艦に命令する。
『我の指揮に従え!』
戦術兵器統合制御システムS型の最上位コマンドによりNPC艦全300艦が僕の制御下に入る。
まずはシイナ様に超長距離レールガンを撃たせないようにするべきだ。
『全艦ミサイル発射。目標敵戦艦!』
戦術兵器統合制御システムでシイナ様の戦艦を攻撃目標に指定する。
約千発のミサイルがたった1艦に向かっていく。
シイナ様の艦隊全艦がミサイルを迎撃する。
その爆煙とデブリが空間を覆っていく。
『全艦突撃! 一気に距離を詰めレールガン発射!』
僕もNPC艦を盾にして距離を詰める。
僕は気付いたんだ。
模擬戦だからこそ残弾がMAXまで補充されていることに。
その中に***粒子ビーム砲の弾体が含まれていたことに。
つまり起死回生の謎兵器が使える。
これは賭けだ。
このままでは戦艦の攻撃力と防御力でこちらの艦隊は戦力を削られいずれ負けるだろう。
「どうせ演習だ。シイナ様の戦艦にこれを撃ち込んで意趣返ししてやる!」
訳の分からないジャンク上がりの謎兵器だけど、艦のシステムは射程距離のデータを持っているようだ。
あと少しで射程圏内。
盾としていたNPC艦が次々と撃沈されるも新たなNPC艦が盾となってくれる。
僚艦から煙幕目的のミサイルを撃ち込み距離を詰める。
ついに謎粒子砲の射程圏内に入った。
僕は謎粒子砲を起動し発射体制に入る。
粒子加速器が光を放ち臨界点が近付いていることがなんとなくわかる。
僕は専用艦をNPC艦の影から出すと、シイナ様の戦艦に向け謎粒子砲を発射する。
「謎粒子砲発射!」
ちょっとなさけない発射告知をすると脳内で引き金を引いた。
模擬戦のデータには謎粒子砲の発射エフェクトは登録されていなかったようで、とりあえずビーム砲のエフェクトが代わりに表示された。
そのビームの光条がシイナ様の戦艦に直撃した。
と同時にシイナ様の戦艦を中心に広大なエリアの敵艦が撃沈判定となった。
「えーとMAP兵器だったの?」
謎粒子砲おそるべし。拡散波◯砲レベルの艦隊制圧兵器だった。
しかし何の粒子を手に入れればいいのか、未だ名前は***粒子砲のままだ。
模擬戦のシステムが勝手に使用可能としてしまっただけで実際は使用不能だし。
残存艦隊は味方NPC艦が撃破し勝利条件敵艦隊の殲滅が完了した。
『模擬戦終了。強襲艦隊の勝利です』
システムの告知を聞いいた後、僕は模擬戦空間から現実に戻った。
目の前の小窓には落ち込むシイナ様の顔が映っている。
『今回の最終演習は、素人が無謀にも外征などしないようにという戒めのために死んでもらうのが目的だったのだが……。
アキラがクリアしてしまった。本番は命がかかっている。頼むから自重するように』
シイナ様が「こんなはずでは……」とブツブツ言いながら閉めの言葉を呟く。
どうやら僕はやらかしてしまったようだ。
『明日から諸君は
RPではパイロット転送システムで救護されはするが、必ず助かるわけではない。
外征では救護艦が撃沈されることもある。くれぐれも命を大事にして欲しい』
『パイロット転送システムとは?』
知らない単語が出てきたのでオオイが質問する。
『RPで乗艦が撃墜された場合に後方の要塞あるいは救護艦にパイロットを転送し救護するシステムだ。
戦場での運用なので100%の救護は保証されていない。おそらく80%を切るだろう。
まあ我々が艦よりも
自分の命がかかっているのだ。システムが正しく働くかどうか試してみようとは誰も思うまい』
どんな危機に遭遇しても不確かな技術に命をかけて諦めるわけにはいかないということだな。
『これにて初心者講習は終了だ。今後の諸君の健闘に期待する』
シイナ様が小窓の中で敬礼する。
『『『『『『ありがとうございました』』』』』』
僕らも敬礼を返す。
次々と小窓から参加者の顔が消えていく。
しかしシイナ様の小窓だけが残っている。
僕はシイナ様に視線を向けると首を傾げて発言を促した。
『アキラ、あの粒子砲は今後VPで使用禁止だ。
あれはシステムの把握していない兵器だ。
リアルで使えないならヴァーチャル空間でも使用出来ないものとすると運営より通告があった』
『わかりました』
『それと、あの粒子砲の存在は口外するな。これは先輩からのおせっかいだ』
『承知しました』
シイナ様が警告するぐらいだ。何かのトラブルに巻き込まれないように謎粒子砲の存在は秘匿しよう。
僕が思案に耽っているうちにシイナ様の小窓は消えていた。
僕はその消えたスクリーンに一礼すると今後の活動を検討した。
やはり専用艦を成長させてから戦いに出た方が良さそうだ。
目標は艦体に巡洋艦型を得られるぐらいかな。
それに加えて反応炉と足回りの強化だろうな。
僕は明日から回収屋になることを決意した。
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