第14話 修行編14 初心者講習9 リアル・プレイ実習2

 再演習が開始される。

敵艦隊3艦が三角編隊で突撃してくる。

対艦レーダーS型と光学観測装置により敵艦が突撃艦であることが判明した。

レールガンの装備なし。これならアウトレンジ攻撃が可能だ。

僕は戦術兵器統合制御システムを起動し僚艦とリンクする。

味方艦の配置、敵艦の配置、これからの移動先等の情報がグラフィック表示され味方艦全艦で共有される。


『左からオオイ艦、タンポポ艦、キリ艦の順で横3列で前衛配置。

その斜め左後方に僕のアキラ艦、フォレスト艦、アヤメ艦の順で横3列で後衛配置だ』


 僕の指示と同時にそれぞれのコクピットに仮想スクリーンが開きフォーメーションが図示される。


『ちょっと待て。なんで俺が前衛なんだよ!』


 オオイが噛み付いて来た。

面倒だが説明しなければ命令に従いそうにない。


『ロングレンジ攻撃は早いうちにやった方がいいってだけだ。

敵艦は3艦とも突撃艦だと判明している。武装にレールガンはない。

接近して来たらビーム砲の射程外の位置を維持しつつ下がり続ければ安全だ』


 僕が丁寧に説明するとやっとオオイが従った。

やれやれだ。この時間のせいで不利になることもあるのに。

幸いまだ敵の射程圏外だ。長距離射撃で削ろう。


『先頭の敵艦を1番艦、向かって右後方を2番艦、左後方を3番艦と呼称する。

タンポポ艦は敵1番艦をキリ艦は敵2番艦をレールガンで狙撃、敵停滞フィールドバリアの耐久度を削れ。射撃開始!」


 僕の指示で敵艦のグラフィックに番号が振られていく。

と同時にタンポポ艦とキリ艦がレールガンの長距離射撃を開始する。レールガンが連続で命中する。

敵1、2番艦はダメージが蓄積され脱落し、敵艦隊の陣形が乱れる様がグラフィック表示される。


『タンポポ艦、キリ艦は敵3番艦を狙撃しつつ後退。後方の岩塊まで下がれ。

アヤメ艦とフォレスト艦は敵1、2番艦に向け突撃! ビーム砲で仕留めろ!」


 タンポポ艦とキリ艦が下がり、アヤメ艦とフォレスト艦が突撃する。

敵3番艦が敵1、2番艦の前に出てくるもタンポポ艦とキリ艦のレールガンで頭を抑えられている。


『オオイ艦はミサイル発射準備。敵3番艦に10発。3、2、1、ぶち込め!」


 オオイ艦のミサイルが敵3番艦を取り囲み、迎撃レーザーの死角から突っ込む。

レーザーで支援するべき敵1、2番艦には、ほぼ同時にフォレスト艦とアヤメ艦が突撃しミサイル迎撃に参加出来ない。


 撃ち合いの末、フォレスト艦とアヤメ艦のビームが敵1、2番艦を撃破する。

敵3番艦はオオイ艦によるミサイルの飽和攻撃により轟沈。

と同時に敵第二艦隊が防御エリアの右前方より斜めに突入して来た。

その進路上にアヤメ艦が突出している。


『敵第ニ艦隊も三角編隊だ。先頭を4番艦、向かって右後方を5番艦、左後方を6番艦と呼称する』


 仮想スクリーンには敵第二艦隊の位置やコースがグラフィック表示され番号が振られていく。

敵第二艦隊が全艦でアヤメ艦にビームを集中して来る。

助けに入らなければ……。位置的にフォレスト艦と僕で行くしか無い。


『アヤメ艦は回避しつつその場で敵第二艦隊を牽制。無理はするな。

僕のアキラ艦とフォレスト艦がアヤメ艦に合流して第二艦隊を迎撃する。フォレスト艦、最大戦速で向かえ!』


 敵第一艦隊にはおそらくステルス艦が紛れ込んでいる。

前回、遮蔽フィールドを纏ったステルス艦は僅かな重力波を発生させていた。

それを観測出来れば見つけることも可能だろう。


『タンポポ艦、キリ艦は射撃補正装置はあるな? それで重力波を探知! 移動体をみつけろ!』


 僕のアキラ艦とフォレスト艦は無防備な防衛宙域右側に現れた敵第二艦隊を迎撃するため飛び出した。

アヤメ艦は敵第二艦隊のビーム攻撃をギリギリで躱しているが、少なくない被害を受けている。

急がないとアヤメ艦が危ない。


『いた! アキラ艦から9時の方向、敵7番艦!』


 タンポポが射撃補正装置が捉えた重力場の揺らぎからステルス艦を発見する。


『アキラ艦より3時の方向、敵8番艦! 抜かれる!』


 キリもステルス艦を見つけた。

敵ステルス艦の観測位置がグラフィック表示され番号が振られる。

やられた。敵艦が遮蔽フィールドで突入して来るのは想定内だったが、敵艦隊の後方に守られて来ると思っていた。

敵7番艦は敵第一艦隊に同行していると思っていたため想定内のコースだった。

が、敵8番艦は敵第ニ艦隊より先行していてノーマークだ。

更に敵第二艦隊がアヤメ艦を狙ったため、入れ替わって前衛となった3艦が突出した形にされている。

このまま僕のアキラ艦が後退したら、おそらくアヤメ艦は助からないだろう。

だが最終防衛ラインを敵艦に突破されたら戦術的に防衛失敗だ。

敵艦がステーションの情報を得て高速通信を送った時点で敵の作戦は成功なのだ。

例え全艦を葬っても負けである。


『オオイ艦は敵7番艦を迎撃、ミサイル発射。敵予測位置直前で爆破し続けろ。

タンポポ艦は射撃準備。敵ステルス艦が姿を現したら撃て!

敵8番艦はキリの狙撃うでに一任する。すまん』


『了解』『おう……』


 僕はアヤメ艦救出を取った。

フォレスト艦がアヤメ艦の前に割り込み盾となり敵4番艦にビームを雨あられと撃ち込む。


『やらせないよ!』


 フォレスト、男前じゃないか。

僕のアキラ艦も敵6番艦にビーム砲を撃ち込む。

単装1門だけど15cm粒子ビーム砲の威力は敵艦の防御力を上回っている。


 オオイ艦のミサイルが敵7番艦の目の前で爆発。爆炎を突き抜ける透明の艦が視認される。

タンポポは重力波の乱れで敵艦位置を予測、レールガンを撃ち込む。

敵7番艦の遮蔽フィールドがダウンする。


『見えた!』


 タンポポ艦が敵7番艦が見えたと同時にレールガンを連射する!

敵7番艦は行き掛けの駄賃でオオイ艦にビーム攻撃。

レールガンの連射に耐えられず敵7番艦は撃沈される。

オオイ艦も被害を受けてしまう。


 フォレスト艦と敵4番艦のビームの撃ち合いもフォレスト艦が勝ち敵4番艦は大破した。

敵6番艦も僕のアキラ艦とのビームの撃ち合いになり撃沈された。

作業艇ベースの弱小艦だが速度を使って避けまくった結果だ。

その時、アヤメ艦が増速、敵5番艦に突っ込んでいく。


『ぶった斬ってやる!』


 アヤメ艦は右舷に畳まれていた対艦刀を張り出すと右腕で保持し固定した。

刀身がビームの光を纏う。

そのままの速度で敵5番艦の横をすれ違うと敵5番艦の艦体は上下二つに分断されていた。

その時、キリ艦がレールガンを連射、敵8番艦に命中。これを撃破した。

終わった?

いや、油断は禁物だ。まだ戦闘終了は宣言されていない。


『タンポポ艦、キリ艦は射撃補正装置で重力波を探知。残存艦を捜索!

僕のアキラ艦、フォレスト艦、アヤメ艦は反転後退した後、前方警戒にうつる」


『ひっ!』『!!』


 その瞬間タンポポの悲鳴が上がった。


『アキラ艦のほぼ直下、敵9番艦!』


 2艦のステルス艦で我々を惹き付け、本命が真ん中を堂々と突破しようとしていた。

射撃補正装置の弱点である索敵範囲の狭さを利用された形だ。

さらに僕のアキラ艦の下に隠れて侵入とは……。

どの武器でも狙えない。僕のアキラ艦が邪魔で味方からも撃てない。

逡巡する暇はない。僕は敵9番艦に僕のアキラ艦を体当りさせた。


 僕のアキラ艦を敵9番艦から離すと航行不能になった敵9番艦をミサイルで始末した。

しばらく警戒するも敵艦の反応なし。


『戦闘終了を宣言する』


 作戦本部から戦闘終了宣言がなされた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◆



『みんな、ご苦労。これでRP演習は終了だ』


 僕らは仮想空間から離れ現実のCICに戻ったような感覚を得る。

その場でシイナ様から訓示をいただく。


『今回の再演習は、ステルス艦という隠し球を知る前と後では対応が違って当然だ。

答え合わせの答えを知っていて行動しているんだからな。

アキラ、遮蔽フィールドを見破る手段に射撃補正装置を使ったのは見事だった。

だが、アヤメ救出は指揮官としての資質に関して意見が別れるところだぞ。

作戦成功を第一とすれば、あそこは見捨てる所だ。

指揮官は今後そういった命の選択を迫られる場面に必ず遭遇する。

仲間の命を助けることで、他の命が犠牲になるかもしれない。

そこを冷静に判断出来るのが指揮官だ。

だが、私個人はアキラの行動は嫌いじゃないぞ』


 確かにそうだ。指揮官としては失格だ。

でも僕にはアヤメを見捨てるなんて方法は取れなかった。

弱小艦で突撃まで出来たのも死ぬことがない仮想空間での演習だったからかもしれない。

甘いかもしれないが全員助ける戦い方をしたい。


「キリ、良い腕だ。アキラはお前の腕に助けられたようなものだ。

若干一名怪しかったが、全員アキラの指揮に従い艦隊として機能していたと思う。

個々の艦の能力では達成出来ないことも、艦隊という一つの集団になることによって達成出来ることもある。

艦隊として機能することは、今後の諸君の働きに於いて重要な目標になるはずだ』


『明日はいよいよ最終日だ。講習の内容は秘密とする。

全員各自の専用艦コクピットで待て。

以上だ。解散!』


「「「「「「ありがとうございました」」」」」」

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