第13話 修行編13 初心者講習8 リアル・プレイ実習
初心者講習6日目。
『講習生の諸君、準備は出来ているか?』
専用艦のCICにシイナ様の声が響く。
と同時に仮想スクリーンの小窓が開きシイナ様の顔が表示された。
『準備完了しています』
僕は専用艦のパイロットシートに座り返事を通信回線に乗せる。
すると次々に小窓が開くと初心者講習の仲間の顔が表示される。
『これが初日に説明した艦隊内秘匿通信網だ。
今回は講習生全員が一つの艦隊としてチームを組んでもらう。
本来なら個々の専用艦の性能を開示して作戦を組むべきなのだが、今回は初心者講習故に専用艦の諸元は各自秘匿するように。
この講習後は全員がVP上で敵となるやも知れぬ。
そこで専用艦の性能を公開してしまっては不利になる可能性が高い。
初心者講習故、その点は気をつけてくれ。
まあ、最低限得意分野が何かぐらいは打ち合わせしておくと良いだろう』
シイナ様の言葉に僕たちは仮想スクリーンの中でどうしたものかと目配せをした。
そしてアヤメが口火を切って得意分野の発表会となった。
『私は前衛の切り込み役だ』
『僕も! 僕も!』
フォレストが追随する。2人は前衛タイプね。
『私は後方からの長距離射撃が得意ですわ』
『俺も……』
タンポポにキリさんは後衛タイプか。
『俺はミサイル特化だ。ミサイル以外は仕事をしない』
オオイ氏がぶっちゃけた。シイナ様があれほど注意した専用艦の性能をバラしてしまっている。
よっぽど自分の戦闘スタイルに自信があるのだろうか。
『僕は……。指揮通信担当かな?』
うん。艦隊旗艦だなんて口が裂けても言えない。
かと言って貧弱な武装で前衛や後衛の専門任務に着くわけにもいかない。
となると非戦闘部門しか無いよね?
『ふん。弱小艦のお荷物か』
オオイ氏が辛辣な言葉を投げかけてくる。
我慢我慢。事実弱小艦なわけだし……。
大きくなったとはいえ未だにベースは”作業艇”だし。
『得意分野の紹介は終わったな。
それでは今日は
しかし、講習生に実戦をさせるわけにはいかない。
なので仮想空間でRPを疑似体験してもらう。
まあVP会場で本物の敵のデータを相手に模擬戦を行う感じだ。
今回はオオイ、お前が艦隊の指揮を取れ』
シイナ様は初戦の指揮をオオイ氏に取らせることにしたようだ。
初日の模擬戦で男子チームの指揮を取っていたのがオオイ氏だったから順当な采配だろう。
オオイ氏がニヤリと不敵な笑みを浮かべている。
まあヴァーチャル空間上の模擬戦なら死なないからどんな無茶な指揮でも従っておこう。
『戦場はアステロイドベルトの最終防衛ライン。
味方前衛艦隊を抜いてきた敵艦隊が最終防衛ラインを突破せぬように阻止するのが任務だ。
諸君らには防衛エリアが割り振られる。エリア外の敵は無視して良い。
敗北条件は全滅と敵の最終防衛ライン突破だ。
勝利条件は敵を阻止し生き残ること。
模擬戦なのでミサイルとレールガンの残弾はフルチャージしておいた。
それでは健闘を祈る』
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
シイナ様の台詞を最後に僕達は演習を行う仮想空間に飛ばされた。
僕達の艦隊は
敵艦隊はアステロイドベルトの外側に位置する
その敵艦隊が先陣の味方前衛艦隊に迎撃される。
そのお零れをアステロイドベルトの手前で待ち伏せ撃破すのが僕達の任務だ。
演習の宙域は
さらに度重なる戦闘によって重力異常地帯も点在する多重異常宙域だった。
タンポポ艦やキリ艦は射撃補正装置を持っているだろうか?
そこは秘匿情報なので本人以外知る由もないな。
今回の演習はその
それを仮想空間において演習という形でシミュレートする。
敵艦の数とか戦力は不明。
シイナ様の裁量で突発的な事態を発生させる場合もあるらしい。
僕達は担当宙域を指定され、そこを防衛することが任務となる。
ただし、6艦で艦隊を組んでいるのでチームプレイも要求される。
敗北条件は全滅と敵の最終防衛ライン突破。
勝利条件は敵を阻止し生き残ることだ。
作戦期間は作戦本部からの戦闘終了宣言まで。
『アヤメ、フォレスト、アキラは前衛。横に展開。
中衛に俺。後衛にキリとタンポポだ。
キリとタンポポはアステロイドの岩塊を背にし狙撃体制をとれ』
シイナ様に指揮官を任命されたオオイ氏が指示をする。
僕は戦力にならないと暗に主張したのに前衛に配置か。
弱小艦とバカにしたくせに盾にする気満々だな。
『さあ、演習の始まりだ!』
シイナ様から演習開始の通信が入る。
『こちら作戦本部。
第一種警戒態勢。敵の侵入に備えよ』
空間異常警報とは何らかの物体が次元跳躍してくるという警報だ。
味方艦であれば、
それ無しに侵入して来るのは敵とみなされる。
『こちら作戦本部。システム介入警報発令!
敵が来るぞ。全艦隊迎撃準備。前衛艦隊は任意に迎撃を開始せよ』
さらにシステム介入警報が発令される。
これは
それを解除するためにシステムに介入されたというのがシステム介入警報だ。
味方前衛艦隊が臨戦態勢に入る。
そのリングの内側の円形の面が亜空間へと繋がる門となっている。
その円形の面がさざ波のように揺れ、敵艦が水面から跳ねる魚のように飛び出して来る。
どうやら小規模の強行偵察艦隊のようだ。
味方前衛艦隊が迎撃する。
ほとんどの艦が撃破されるが、突破して来る敵艦も少なくない。
味方前衛艦隊は正面の迎撃に集中し、突破した敵艦は後方の防衛艦隊に任せる。
その防衛艦隊とは僕達のことだ。
(有益なデブリって戦闘終了後のリング周辺が一番多いんだろうな。
戦闘後直ぐに回収に行ったら大儲けだな)
僕は仮想映像であることも忘れて回収業務に励もうと妄想していた。
ふと現実に戻ると突破して来た敵艦の何艦かが担当宙域に接近中だった。
『防衛戦闘準備。敵艦3。
手前から1番艦、右後ろを2番艦、左後ろを3番艦と呼称する。
アヤメ、フォレスト、アキラは突撃しながらレールガンで牽制射撃』
オオイ氏の指示が飛ぶ。
向かって来る敵艦は3艦。艦種は不明。
こちらの左脇を抜けようと三角形に並んで突っ込んで来る。
1番2番艦の左腕の盾が良い位置で艦体を防御している。
しかし無茶を言う。
僕の配置もそうだけど、僕の専用艦は5cmレールガンだよ?
まだ副砲のビーム砲の方が破壊力がある。
ちなみに僕の専用艦の諸元は以下。
『AKIRA』
艦種 艦隊旗艦
艦体 全長50m 作業艇型 2腕 **格納庫 (ロック)
主機 熱核反応炉G型(6) 高速推進機G型
兵装 主砲 長砲身5cmレールガン単装1基1門 通常弾
***粒子ビーム砲単装1基1門 (待機中)
副砲 15cm粒子ビーム砲単装1基1門
対宙砲 10cmレーザー単装4基4門
ミサイル発射管 F型標準懸架式2基 最大弾数2
防御 耐ビームコーティング特殊鋼装甲板(盾G型相当)
耐実体弾耐ビーム盾G型 1
停滞フィールド(バリヤー)G型
電子兵装 電脳S型 対艦レーダーS型 広域通信機S型 戦術兵器統合制御システムS型
空きエネルギースロット -8
状態 ***粒子ビーム砲使用不能
まあ、オオイ氏は他のメンバーの専用艦がどんな性能なのか知らずに指示を出しているんだから仕方がない。
まさか副砲の方が破壊力があるとは思っていないわな。
だが例え間違った指示でも指揮官の指示に従わないと面倒なことになる。
射程距離の問題でレールガンを指定するのは仕方ないと言えば仕方ない。
僕とフォレストが1番2番艦の左舷を狙ってレールガンを撃つも重力場異常により当たらない。
修正して射撃。敵1番艦の盾に当たるも、弾が簡単にはじかれる。
豆鉄砲の5cmレールガンでは盾の耐久度を削ることすら出来ない。
アヤメに至ってはどうやらレールガンを装備していないので撃ってもいない。
相対距離が接近すると敵艦もレールガンを撃って来る。
敵艦の弾も重力場異常で曲がる。
僕とフォレストがレールガンを打ち続けると、敵1番艦の盾が耐えられずに弾け飛ぶ。
フォレストのレールガンが耐久度を削ったおかげだな。
『前衛艦、全艦ミサイル発射!』
オオイ氏の指示でミサイルが発射される。
しかし僕2発とフォレスト2発で計4発のみ。
敵艦全艦のレーザーに簡単に迎撃されてしまう。
『アヤメ!』
オオイ氏の怒声が響く。
『仕方ないだろ! 私の艦は速度重視でミサイルを積んで無いんだから!』
諸元が秘匿される条件だとはいえ完全に指揮ミスだ。
ミサイル信者のオオイ氏はミサイルを搭載していて当然だと思っている。
それを前提にして作戦を立てたからこんなことになる。
『ちっ! 手本を見せてやる!』
オオイ艦からミサイルが発射される。
10、20、30、40発!
敵1番艦が飽和攻撃で爆沈。敵2番艦も後を追う。
ミサイル爆発の火球が
その火球を突き抜けて敵3番艦が突っ込んで来る。
ん? なんだ?
同時に透明な何かが爆発のデブリを押しのけて通過したように見えた。
レーダーに反応は無いが気になる。
『敵4番艦いるかも! 警戒を』
『アキラ! 俺の指揮に割り込むな! 敵3番艦を迎撃だ!』
オオイ氏が怒鳴る。かちんと来るが一応指揮官は向こうだから黙る。
その隙を突かれたわけではないが、気付いた時には敵3番艦は僕達の左横をすり抜けていた。
粒子ビーム砲で狙うが、オオイ艦に被って射撃出来ない。
敵3番艦がオオイ艦に迫る。
オオイ艦は迎撃にレーザーしか撃てていない。
簡単に突破される。
あれはミサイル特化でビーム砲も積んでないな。
アヤメに偉そうにしてそれかよ。
僕達前衛中衛4艦の防衛ラインは突破されてしまった。
急速回頭で敵3番艦を追う。
『フォレスト、射線が取れない! どけ!』
キリさんが怒鳴りながら敵3番艦を狙撃する。
あ、大きい声出せるんだ。
敵3番艦の盾に命中、弾が逸らされてフォレスト艦に当たる。
幸い停滞フィールドで弾が弾かれて被害はない。
あわてて逃げるフォレスト艦。
僕とアヤメで敵3番艦を左右に挟み粒子ビーム砲を撃ち込む。
敵3番艦はコースを制限されて狙撃手の庭に侵入する。
次々と撃ち込まれるレールガンにより盾が粉砕し、停滞フィールドがダウンし、とうとう装甲が破られて敵3番艦は撃破された。
『よし、防衛戦闘終了』
オオイ氏が安堵の声を上げる。
『甘い!』
シイナ様の声と同時に遮蔽フィールドを解除した敵4番艦が防衛ラインの向こう側に到達していた。
あの透明な何かは遮蔽フィールドを展開して隠れていたステルス艦だったのだ。
『今回の敵の目的は我々の撃破ではない。敵陣深くまで到達し、情報を得て本隊に送ることが目的だ。
味方を犠牲にしてでも先に進む。そんな敵だということを肝に銘じておけ』
僕達の初防衛戦は失敗した。
◇ ◇ ◇ ◆ ◇
シイナ様から防衛戦失敗が宣言されると、オオイ(うん、もう敬称なんぞ付けない)による醜い責任の擦り付けが始まった。
『アキラ! なんで敵4番艦を迎撃しない!』
『はぁ? 指揮に割り込むなと言って敵3番艦の迎撃を命令したのはそっちだろ!』
『確かにそうだ。アキラはオオイの命令に従っただけだ。
命令によって生じた失敗は指揮官のオオイが負うべきだ』
シイナ様が冷静に指摘する。
『くっ……。だいたいアヤメ艦がミサイルもレールガンも装備していないとは何事だ!』
『いや、オオイ艦だってレールガンもビーム砲も無いじゃないか。
自分を棚に上げる前に自分の指揮ミスを自覚しろよ』
『なら、アキラならもっとマシな指揮が出来たとでも言うのか!』
オオイの無茶な論理にシイナ様が解決策を提示する。
『それなら、アキラの指揮でもう一度演習だ。
防衛戦闘という条件は同じ。
ただし敵艦の数や能力、戦術目的は同じとは限らないぞ。
別の日の攻撃だと思え。
オオイはアキラの命令に必ず従うように!
それでは再演習開始だ。』
いやシイナ様、どうせ2回目は僕の指揮でやるつもりだったでしょ?
でもチャンスだ。完璧な指揮をしてオオイを見返してやる!
僕の専用艦は艦隊旗艦だ。
その性能をフルに使ってやる。
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