第8話 修行編8 初心者講習5 ヴァーチャル・プレイ

 初心者講習4日目。


「おはよう諸君! 今日は昨日育てた艦でヴァーチャル・プレイの模擬演習を行うつもりだったんだが……」


 シイナ様はそう言葉を切るとフォレストの方を睨みつけた。

その殺し屋のような威圧を纏った視線にフォレストがビビリまくる。


「一部受講生の暴走によりお互いの艦の特性が公開されてしまった」


(いや、それってシイナ様がポロっと言っちゃったせいだよね?)


 そう思ったとたん、シイナ様が僕に殺し屋の目を向けてきた。


(はい。フォレストが暴走しなければそんなことは無かったと確信しています!)


 僕が忖度するとシイナ様の視線が柔らかくなる。

やっぱり心を読むスキルを持っているな。

今後は気をつけよう。


「従って、今日の模擬演習は、こちら講師側で艦を用意させてもらった。

今回はチームメイトであってもお互いの艦の性能は秘匿するように。

模擬演習は3度行う。あえて弱点を持たせてあるので演習の合間に融合で潰していけ。

それが演習の目的の一つだ」


 なるほど、本来なら自分達で作った適当な艦を修正していくという講習だったんだな。

それをフォレストが巨大戦艦なんて作るから……。


「もう一つの目的は模擬戦クエスト所謂ヴァーチャル・プレイVPの疑似体験だ。

エントリーからヴァーチャル・プレイを終えるまでを体験してもらう。

エントリーは3艦対戦枠とする。つまり男子チーム女子チームの2チームがトーナメントを競うことになる。

その他の対戦チームは仮想チームとなる」


 ヴァーチャル・プレイで巨大戦艦なんて登場させたら、それで模擬演習の結果は最初から決まったようなものだもんね。


「教官、ヴァーチャル・プレイの枠について教えて下さい」


 フォレストがまともな質問を投げかける。失策を挽回するのに必死だ。


「うむ。ヴァーチャル・プレイの枠には自らが所属する艦隊の艦数によって3艦対戦枠、5艦対戦枠、そして無差別枠がある。

無差別枠を除き、それぞれ同数の艦によって対戦するための制限枠だな」


「艦隊は3艦か5艦でしか組めないということですか?」


 タンポポが疑問をぶつける。


「いや、ゲーマーが組む艦隊の艦数は自由だ。例えば4艦の艦隊も組める。

ただし、エントリーするのは1艦減らして3艦対戦枠で出るか、1艦増やして5艦対戦枠で出るかとなる。

その際には1艦が不参加となったり、NPC艦を穴埋めとして貸りることになるが、NPC艦の性能は専用艦以下なので不利になることを覚悟する必要がある」


「なら無差別枠に出ればいいんじゃ?」


 オオイ氏が突っ込む。

いや、オオイ氏、それは無いと思うよ。

艦数が無差別でいいなら6艦以上集めると思うぞ。

戦いは数だぜ。


「無差別枠なら当然4艦で出られるが、無差別枠は対戦相手との差による艦数の穴埋めが無い。

なので相手艦隊の艦数が自分達より多ければ相手が有利になるので、よっぽどの自信が無い限りは避けるだろう。

無差別と言ってもさすがに上限が10艦となっているしな。

100艦集めれば自動的に優勝なんて賞金付きトーナメントを行う意味はないからな」


「なら無差別枠は最大の10艦で決まりじゃないか」


 オオイ氏が自身の意見が却下されたからか食い下がる。


「そう思うか? 賞金が出るのだぞ?」


「そうか。少ない艦数で勝てば分母が小さくなるから得られる賞金が多くなるのか!

それを狙う腕に自信のある少数艦隊も参加するってわけだ」


 僕は自分の認識の甘さに思わず声に出してしまった。


「正解だ。無差別枠はそれだけ個の強さをアピールできる場でもあるわけだ。

それが人気映像配信となればそこからの収入もプラスされる。

スターゲーマーはそんな所から生まれるのだ」


 命の危険の無い場所で戦い、賞金や映像配信収入を得る。

ヴァーチャル・プレイ、悪くないかもしれない。

ただし、僕の専用艦では戦う術が無いんだが……。




「それでは、各自仮想シミュレーターへ搭乗せよ!」


 僕らは各々の仮想シミュレーターに入り擬似CICに搭乗した。


『各自、自艦の諸元を確認するように』


 僕に割り振られた艦の諸元は以下。


『NPC艦C型改B』

艦種 標準巡洋艦

艦体 全長200m 巡洋艦型 2腕

主機 熱核反応炉E型(8) 高速推進機F型

兵装 主砲 長砲身20cmレールガン単装1基1門 通常弾 80残弾80最大

   副砲 なし

   対宙砲 5cmレーザー単装4基4門

   ミサイル発射管 なし

防御 耐ビームコーティング特殊鋼装甲板

   耐実体弾耐ビーム盾E型 1

   停滞フィールド(バリヤー)D型

電子兵装 電脳E型 対艦レーダーE型 通信機E型

空きエネルギースロット 1

状態 良好


 武装はレールガンのみで停滞フィールド強化型。エネルギースロットが1余っているためまだ拡張性がある。

つまりこの残り1スロットで弱点を埋めろということだろう。

僚艦となるタンポポ艦とアヤメの艦も巡洋艦型らしいが諸元は初心者講習ルールで教え合うことが出来ない。

チームプレイをするにも面倒なことこの上ない。


『それでは電脳空間に潜って3艦対戦枠初心者コースにエントリーだ。全員付いて来い!』


 シイナ様のアバターが電脳空間を先導する。

僕達のアバターは艦の諸元を秘匿するために非武装になっている。

対戦相手に手の内を知らせないという配慮をシイナ様が先回りでしてくれたのだろう。

僕は気付いて装備を外していたんだけどね。

電脳空間をしばらく泳ぐとヴァーチャル・プレイ会場に到着した。

目の前には受付ブースがあり、受付嬢のアバターが対応している。

僕達3人(アキラ、タンポポ、アヤメ)で受付に向かう。


『こんにちは、3艦対戦枠初心者コースにエントリーしたいのですが』


『こんにちは。只今募集しております3艦対戦枠初心者コースは1つです。丁度エントリー出来ますよ』


 僕達は受付嬢が示した受付画面に全員のアバターがタッチすることでエントリーした。


『チーム名は何にしますか?』


『ああ、そこは初心者講習Bチームで』


 シイナ様が横からチーム名を指定した。

いや、わざわざ初心者講習って入れなくても……。

まさか、これって実際のヴァーチャール・プレイなの?

そうこうするうちにトーナメントの出場枠が埋まった。

男子チームの初心者講習Aチームもエントリーされている。

全8チームによるトーナメント戦。3回勝てば優勝だ。

勝利条件は敵艦全艦撃墜、或は敵の降参。時間切れによる優勢判定となる。


『それでは健闘を祈る』


 シイナ様の言葉と同時に僕達のアバターはいきなり控室に飛ばされた。

全員がここで武装を装備する。

ちらりと僚艦であるタンポポとアヤメの武装を見る。

アヤメはビーム砲主体でタンポポは重ミサイル装備のようだ。

全員があまり得意な装備じゃないようだ。


『初心者講習Bチーム、宙域は通常宙域。試合開始10秒前です。5、4、3、2、1、試合開始!』


 僕達は作戦の打ち合わせをする暇もなく仮想宇宙空間に飛ばされた。

と同時に僕のアバターにレールガンの弾体が掠める。

試合用の仮想空間に飛ばされたと同時に攻撃する奇襲戦法だ。

僕達の艦隊は誰もレーダーすら起動していない。

慌てて回避運動を取る。


『全員回避運動を! レーダー起動。索敵開始する』


 レーダーに敵影が映る。距離は遠い。

レールガンのギリギリ射程圏内に入ったところで、まだビーム砲は撃てない距離だ。

武器の性質をシイナ様にレクチャーしてもらっていて良かった。


『レールガンに注意。こちらもレールガンで迎撃する』


 さて困ったぞ。僕は狙撃は専門じゃない。

この艦は射撃補正装置も積んでない。

回避運動をしながらの狙撃なんてどんな難易度なんだよ。

とりあえず牽制で1発撃っておくか。

僕はレールガンを敵の先頭艦に撃ちこむ。

当然当たらないが、相手も回避運動をしないとならないからレールガンの狙いが甘くなる。

だが、こちらにも問題が。

どうやらレールガンを装備しているのは僕の艦だけのようだ。


『どうやら、この距離じゃ戦いにならないみたいだね』


 僕は「レールガンが使えないんだね」という意味で通信を送る。


『ええ、もっと近付いて戦うべきね』


 するとタンポポが「中距離武装しかない」という意味で返して来た。

アヤメには伝わっていないようだ。

となると停滞フィールド強化型で防御力が高い僕の艦が前に出るべきかな。


『僕の艦が盾になって狙撃で牽制しつつ敵艦隊に接近する。

アヤメとタンポポは後ろに隠れて付いて来て。

僕がやられる或はビーム砲の射程圏内に入ったら敵艦へ一気に詰めて攻撃だ』


『『了解!』』


『じゃあ行くよ!』


 僕は盾を構えて艦体を隠しレールガンを撃ちながら敵艦隊に突っ込んだ。

敵もレールガンを1門しか撃って来ない。

それを盾で逸しつつこちらもレールガンを撃ちこむ。

当たらない。

敵艦隊に接近するにつれ、敵のレールガンは僕の艦に正確に当てて来る。

それを盾と停滞フィールドで凌ぐ。


『いよいよビーム砲の射程圏内に入る。

射程圏内に入ったら合図するからミサイル全弾発射と同時に散開してビーム攻撃に移れ』


『理解った』『了解!』


『射程圏内まで、5、4、3、2、1、ミサイル発射! 散開!』


 残念ながら僕の艦にはミサイルが搭載されていない。

その分、軽いため速度と回避行動が速い。

タンポポ艦から大量のミサイルが発射される。

敵艦隊は回避運動と迎撃でこちらへの攻撃が止まる。

光学観測により敵艦の諸元がわかった。

レールガン装備1艦とビーム砲装備2艦。大きさは巡洋艦だ。


『敵はミサイル迎撃にかかりきりだ。チャンスだ。撃て! 撃て!』


 僕がレールガンを撃ち、アヤメ艦がビーム砲を撃ちこむ。

敵艦からもビーム砲が放たれるが、その隙を付いてミサイルが直撃する。大破だ。

ミサイル回避を優先させた敵艦が横腹を晒す。そこにアヤメ艦のビーム砲が突き刺さる。

耐ビームコーティングされた特殊鋼板の表面が焼けコーティングが剥がれる。

そこへ連射されたビームが当たり、ついに装甲を貫いた。撃墜。

しかし、残った1艦のレールガンがタンポポ艦を襲う。

タンポポ艦は重く回避運動が遅れ、レールガンが停滞フィールドを貫いてしまう。

僕は敵艦に向けレールガンを連射する。

負けを悟った敵艦はタンポポ艦を道連れにするつもりなのか、僕のレールガンを避けずにタンポポ艦を撃ち続ける。

ついに僕の艦が放ったレールガンが敵艦を貫き撃墜に至った。


『戦闘終了。初心者講習Bチームの勝ちです』


 僕たちはかろうじて勝利を収めた。

しかしタンポポ艦が中破してしまった。


『初心者講習Bチーム、続けて準決勝を行います。空域は通常空間。試合開始10秒前です。5、4、3、2、1、試合開始!』


『え? ダメージ持ち越しなの?』


 宇宙空間に放り出された僕達の艦はダメージを負ったままだった。

当然条件は他の艦隊も同じだが、捨て身の攻撃を行なった僕達はダメージが大きすぎた。

その結果、タンポポ艦が中破してしまった僕達の初心者講習Bチームは実質2:3の戦いとなり準決勝で敗退した。

まさかダメージに弾薬残数が持ち越しだとは思わなかった。

僕の艦は盾がボロボロだった。

アヤメ艦は無理な突撃で装甲のビームコーティングが所々剥がれていた。

タンポポ艦はミサイル全弾撃ち尽くしのうえ中破で戦力外。

敵艦隊はほぼ無傷で勝負にならなかった。

初心者講習Aチーム? 1回戦負けだって。


『どうだ? ヴァーチャル・プレイは?』


 シイナ様がしてやったりという顔で聞いてくる。

これが毎度の初心者への洗礼なんだろう。


『決勝まで進むには戦闘力だけでなく、ダメージ管理や無駄弾を撃たないなどの技術も必要になってくるのが難しいね』


 僕はヴァーチャル・プレイの難しさを指摘する。


『艦の育て方次第でこうも使いにくいとは思いませんでした』


 アヤメは割り振られた艦の弱点に気付いたようで自らの専用艦の育成に思案を巡らせている。


『私の艦は好みじゃなかったわ』


 タンポポは艦が重いとどうなるかを身を以て体験出来たようだ。


『『『……』』』


 全く良い所が無かったAチーム三人は項垂れていた。


『明日は予算をつけるから、その金額内で艦を改良してVPに参加する。

今日1回戦を勝ったBチームはその賞金も上乗せだ。

以上。解散』


『『『『『『ありがとうございました』』』』』』


 僕達は初めての敗北を模擬戦で疑似体験することとなった。

これが実戦なら命が無かった。

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