第9話 修行編9 初クエスト

 初心者講習4日目が敗退により早めに終わったため、僕は専用艦の強化を画策し装備購入のための収入を得ることにした。

僕の専用艦は戦う装備を持っていない、そのため資金を貯めようと思い、早めに行動することにしたんだ。

僕は初心者講習を受けている行政府の講習室を出ると1階受付でミーナとの面会を申し出た。


「アキラと申します。ミーナさんに面会したいのですが」


 受付嬢が腕輪を操作し何処かへ連絡をする。


「ミーナは直ぐに参りますので、しばらくお待ち下さい」


 受付嬢の言葉にしばらく待つとミーナがやって来た。


晶羅あきら様にゃ。にゃにか用かにゃ?」


「初心者講習が早く終わったので、今日は何か仕事をしたいとミーナに紹介してもらおうと思って」


 ミーナは思案すると僕の手を取り引っ張った。


「ギルドに行くにゃ」


 そのまま行政府向かいのギルドに連れて行かれた。


「ここで各種クエストミッションを受注したり、ヴァーチャル・プレイVPの自由対戦カードを組んだり出来るにゃ。

VPは一方的に喧嘩を吹っ掛けられて不利な戦いににゃらにゃいように、対戦には必ずギルドが間に入ることににゃっているにゃ。

そこらへんは家庭用ゲームSFC内と似たような仕様にゃ」


 その言葉に僕は冷や汗をかいた。

だって姉貴のアカウントでズルをした僕はSFCゲームをプレイしてないんだからね。

しかも僕の専用艦は戦う術すら持っていない。いきなりVPなんて無理だ。

そういや以前案内された時に、初心者講習が終わらないとギルドで受注出来ないって言ってなかったか?


「ただし、晶羅あきら様は初心者講習が終わってにゃいので、ほとんどのクエストが受けられにゃいにゃ」


 やっぱりか。

それでもミーナがギルドに連れてきたってことは、何か受けられるクエストがあるのかな?

初心者講習は戦闘絡みの講習だった。つまり非戦闘部門の簡単な仕事があるということか?

簡単な仕事といえば異世界転移でお約束のあれだな。


「もしかして薬草採取なら受けられるのかな?」


 僕の冗談にミーナが訝しげな表情を返す。

そして僕が地球人だと思いだして納得した顔になった。


「地球のお約束とは違うにゃ。初心者でも受注出来る非戦闘クエストがあるにゃ。

採取といえば鉱石採取があるにゃ。他にもデブリ回収のクエストがあるにゃ」


「それ、戦わなくて済む仕事だよね? それで行こう」


「にゃら、受付でクエストを受けるにゃ。鉱石採取にゃらドリルを借りる必要があるにゃ」


 空いている窓口に行くと定番の受付嬢さんが座っている。

モブなので外見は省略。

僕はまずギルド登録だろうと思って受付で登録しようとした。


「こんにちは。ギルドに登録したいんだけど」


「登録は不要です。ゲーマー登録がそのままギルド登録となります。

個人識別は共通のアカウントで行います」


「そうでしたか。なら初心者向けの簡単なお仕事1つ」


 ◯ックかというノリで注文を入れる僕。ミーナのジト目がちょっと痛い。

受付嬢さんは笑顔でスルー。仕事をテキパキとこなす。


「初心者向けですか。初心者講習受講中ですね。非戦闘クエストのみ受注可能です」


 受付嬢さんは、端末で僕の腕輪からデータを読んだようだ。

そのデータで初心者講習受講中であることを把握し、戦闘クエストは最初から除外になった。


「それでしたら、デブリ採取の仕事がお薦めです。小惑星帯での依頼があります」


 初仕事としては問題なさそうだ。慣熟航行にも打って付けだろう。


「じゃあ、それで」


「クエスト報酬が2000G、回収したデブリの価値を査定して買い取ることも可能です。

クエスト達成基準は当該宙域のデブリ掃討完了です」


「それでお願いします」


「それではクエストの受注を受付ます。腕輪にクエスト情報を書き込みますので腕をこちらへ」


 受付嬢さんが端末を操作すると僕の腕輪が光り電子音がピッと鳴る。


「それではクエスト受付完了です。よい航海を」


「ありがとう。ミーナもありがとう。初仕事に行ってくる」


「気をつけて行って来るにゃ」


 僕の初仕事はデブリ回収になった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◆



 ミーナと別れ、転送ポートに来る。

自宅住所の百区230を告げ光の柱に入ると自宅前に転送された。

転送ポートは一方通行なので、行政府に戻るには最寄りの転送ポートまで歩く必要がある。

ちょっと不便だが、数kmの距離を歩かされるよりはマシか。


 自宅のドアが腕輪のキーを読み込んでシュッと開く。

僕はそのまま自宅奥のエレベーターに乗ると格納庫の前室へ向かう。

前室の窓からは格納庫内が一望でき、僕が乗る専用艦が見える。

全長は30mほど。艦形は紡錘型で後方に巨大な主エンジン噴射口が見える。

艦首に書いてあるAKIRAの文字の後ろあたりから両舷に2本の腕が生えている。右腕の指は3本で物を掴めるようになっているようだ。

艦の上面には艦橋がそびえ立ち、レーダー他の複数の電子兵装が配置されている。

武装は近接防御用のレーザー4基4門のみの貧弱さだ。

前室窓の脇から専用艦の艦橋下部左舷にチューブが繋がっていて、そこに搭乗口がある。


 僕は前室のエアロックまで行く。デカデカと「要パイロットスーツ着用」と書いてある。

脇のロッカーを開けるとパイロットスーツが入っているので着替える。

ロッカーに入れておくと自動的にクリーニングされて戻って来る。便利だ。

パイロットスーツは専用艦を受領をした時にも着たので、着るのには慣れた。


 エアロックを開ける。グリーンランプでないと開かないというのはお約束。

中に入りハッチを閉めると、反対側のハッチにグリーンランプが点く。

ハッチを開けてチューブに入ってハッチを閉める。

チューブを歩くとグレーのハッチが見える。グリーンランプ。

ハッチを開けて中に入り閉じる。グリーンランプで中のハッチを開け、やっと艦内に入る。

しつこいくらいの安全確認だが、格納庫の外が真空だと思うと必要な手順だ。

事故で格納庫から空気が抜けていたら困るからね。

所謂いわゆる二重三重の安全確保というやつだ。

だが今後の搭乗描写は省略させてもらう。


 艦内通路を歩き、中央制御室CICに入る。

他にクルーはいない。1人で艦を動かさなければならない。

操作感覚はSFCのMPSコントローラーの上位互換。

ゲームをプレイしていれば慣れた感覚らしい。

僕はズルしてゲームをやってないんだけどね。


 CICにはパイロットシートが備え付けてあるだけで、MPSコントローラーは無い。

シートに座ると上位互換の思考制御であることが脳に直接伝わってくる。

このCIC全体がセンサーであり、僕の脳がナノマシンを介して艦の電脳と直結している。


「さあ、それでは発進するか」


 僕の言葉と共に格納庫内の空気が抜けていく。

空気が抜け終わり、前方のハッチが開いていく。

専用艦の電脳が管制室とやりとりしているのがわかる。


『オールクリア、AKIRA、発進を許可します』


 僕は艦に前進を指示イメージする。艦はゆっくりと格納庫を出るとステーションから離れ安全域に出る。

艦が艦首を進路に向ける。目的地への進路や航路は受付嬢さんが設定し腕輪に登録済みだ。

それを艦の電脳が受け取り管制室に提示する。

目の前には仮想スクリーンが展開し、ステーション、味方艦、小惑星の位置が3Dで色分けして表示され、予定航路が図示される。


「発進!」


 僕の合図と共に専用艦の主エンジンが咆哮し宇宙空間へと飛び出す。


 目的地まではオートパイロットのため、緊急事態でもなければ少し時間が出来る。

そこで僕はマニピュレーターの慣熟のため動かしてみることにする。

拳をニギニギしたり腕を動かしたりする。完全に身体感覚で制御出来ている。

この身体感覚を武装にイメージする。デブリ破壊用の近接防御レーザーが起動する。

目標を適当に見詰めて視線でロックオンしてみる。レーザーの照準が定まるのが知覚される。

どうやら武器も使えそうだ。


 しばらく進むとクエストの目的地に到着する。

少し手前でスピードを緩め目的地に向かう。

ここでは敵との戦闘があり、味方が破壊した敵の残骸が漂っているらしい。


 専用艦のレーダー各種センサーを動員して周辺を捜索させる。

目の前のスクリーンにはリアル映像が表示され、そこに識別のグラフィックが被さる。

デブリもいくつかみつかったが、あまり価値のあるデブリでは無いようだ。

艦内の収納容積を考えると、無駄に回収するわけにはいかない。

価値のあるデブリは腕を操作して掴んで回収。

MPSコントローラーでやったように仮想スクリーン上のデブリを掴む動作で自動制御できる。

掴んでは艦中央部の格納庫に入れを繰り返す。

価値の無いデブリは航路の安全のためにレーザーで原子の大きさまで塵にしていく。


 しばらくルーチンのように作業を続けた後、また価値の無いデブリかと視線を送った僕は驚愕することになった。

子供の頭ぐらいの大きさのダイヤモンドが浮遊していた。

艦の電脳の識別では価値の無いデブリのグラフィックだが、どう見ても地球時価数百億の代物だ。

僕はその八面体を掴んで収納し、電脳に識別グラフィックの変更を指示する。

すると目の前には十数個のダイヤモンドが浮遊していることがわかった。

もちろん全て回収する。


 クエストの示す区画のデブリは全て掃除出来た。

慣熟航行も上出来で僕は回収したデブリの査定を楽しみに帰投した。

なんだか回収したデブリの量が格納庫の容積を上回っているような気がしたけど気のせいだろうか?



◇ ◇ ◇ ◆ ◇



 初仕事を終えステーションに帰投する。

管制官よりギルドの荷揚げ埠頭に誘導される。

ステーション最下層のドック区、工業区に近い荷揚げ埠頭にステーションの後方から向かう。

荷揚げ埠頭は一見格納庫と同じだが常にオープンで頭から侵入する。

埠頭に横付けし船倉の荷を入れたコンテナを積み降ろしたら、そのまま前方に抜け個別の格納庫へ向かう手順だ。


 格納庫へはバックで侵入する。これも艦の電脳が自動でやってくれるので楽だ。

専用艦が定位置に着港し電脳との接続が切れる。

初仕事だったけど、思い通りに動かせて楽しかった。

この仕事で専用艦に馴染むことが出来た。

僕はパイロットシートをポンポンと叩き艦を労ってからCICを出て待機所へのハッチをくぐった。


 パイロットスーツから着替えて自宅に上がると百区230自宅最寄りの転送ポートに向かう。

目的地はギルド。今回のクエストの完了報告と回収品の査定を受ける目的だ。

腕輪にギルドを告げギルド前へと転移する。

ギルドに入ると空いている窓口へ行きクエスト完了報告をする。


「こんにちは。デブリ回収のクエスト完了報告と回収品の査定買い取り願いなんだけど」


 僕の言葉に受付嬢さんモブですが端末で腕輪の情報を読み込む。


「クエスト完了、確認しました。回収品の査定も終了していますので、売るか手元に残すか確認願います」


 受付嬢さんが仮想スクリーンを開いてリストの見せる。


荷電粒子砲粒子加速器(破損部品取り用・ジャンク) 1    単価10,000G

耐ビームコーティング特殊鋼装甲板(プレート・完品) 5    単価 3,000G

レーザー砲レーザー発振器(部品・完品)        2    単価 2,000G

ミサイル誘導装置(破損部品取り用・ジャンク)     7    単価  500G

その他特殊合金(溶融分離抽出用・リサイクル)   12t   t単価 1,000G

炭素結晶                          17    単価    0G 


「荷電粒子砲粒子加速器はジャンクですが、生きている部品が多く修理可能そうなので10,000Gです。

耐ビームコーティング特殊鋼装甲板は規格品の完品なので、そのまま使用でき1枚3,000Gです。

レーザー砲レーザー発振器も完品なので2,000Gです。

ミサイル誘導装置はジャンクで部品取り用なので500Gです。

破損した装甲板の特殊合金は全てリサイクル扱いで溶かして再利用になりますのでtあたり1,000Gでの買取になります。

あと炭素結晶が回収されていましたが、買取不能です。正直ゴミです」


 なんですと! ダイヤの価値がゼロ? あまりのことに僕は凹む。

それにあんなに回収したのに思ったより回収物が少ない。


「このデブリには撃墜権が設定されています。

撃墜から10日間は権利が認められ、それを回収した者は権利者に権利料を支払う必要があります。

したがって評価額から5割は撃墜権を持つゲーマーの取り分となります。

10日過ぎれば回収自由なのですが、回収物も減りますし難しいところです。

撃墜権料はギルドに売らなくても徴収されますのでご注意ください。

あと販売額の1割はギルド税となります。それに無税のクエスト報酬2,000Gが追加されます。

回収品の買取内訳はいかがしますか?」


 撃墜権ってのがあるのか。撃墜して大物は即回収して細かいのはデブリ回収クエストに任せるという分業が成立しているんだな。

これはよく考えられている制度だな。

それにしてもダイヤモンドがただの炭素結晶扱いでゴミだとか想定外だわ。

ダイヤモンドだけ手元に残して後は引き取ってもらおう。

宇宙人には無用の物でも地球に持ち帰れれば一財産だしね。


「それじゃ炭素結晶以外は買い取りで」


「わかりました。買取額は合計が44,500Gで、撃墜権料が22,250G差し引き、ギルド税が4450G差し引き、クエスト報酬が2,000G加算なので、19,800Gが晶羅あきら様の取り分となります。

今、腕輪にチャージしました。確認ください。

あと炭素結晶は契約満了後でも持ち出し禁止です。

ステーションの自宅に置いてオブジェとしてお楽しみください」


 腕輪に触れて小さな仮想スクリーンを開くと所持金が19,800Gになっていることが確認できた。

詳しく見ると入出金の履歴も出ている。撃墜権料の領収書やギルド税の領収書もある。

だがダイヤモンドを地球に持ち帰れないことに僕は落ち込んだ。

大儲けだと思ったのに……。

それでも19,800Gの収入とは。

ん?貨幣価値がわからないぞ。そう思い受付嬢さんに聞く。


「Gの価値がわからないんだけど、円に換算するといくらになるの? それと円には両替出来るの? 地球に持ち出せる?」

「今のレートですと1Gが1.5円換算ですね。19,800Gだと3万円弱ですね。そのお金は地球の口座に移せます」


 なるほど、そうやって家族に送金するのか。

仮想通貨なら現物を送らなくてもデータを送るだけで送金可能だ。

3年も帰れなければなんらかの送金手段が必要だものね。

そういや姉貴の送金が止まった理由は何なんだろう。

まだ連絡がつかないみたいだけど、どうなっているんだ?

いまはこのお金で装備を買おう。

商業区に行けば武器が買えるはずだ。

明日にでも寄って相場を確認しよう。


「毎日クエストをして武器を買うのだ!」


 そうしなければお金を効率よく稼ぐ事ができない。


「でも今日は標準糧食にオプションを付けちゃおう」


 お金が出来たことで密かな楽しみが増えた僕だった。

その時、格納庫では専用艦が光の繭に包まれていたことに僕は気付いていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る