第7話 修行編7 初心者講習4 艦の育成
初心者講習3日目。
「おはよう諸君! 今日は艦の育成についての講習を行う。
それが高収入となり契約期間満了で地球に帰る条件ともなっている。
また出稼ぎとして割り切っている傭兵職も存在する。
契約期間中は地球には帰れないが一部次元を越えて通信を行うことが可能だ。
なので地球にいる家族や縁者に対して仕送り送金を行うことが出来る。
これはSFOの映像配信事業の副産物として行なっているものである。
利用は行政府に申請するように」
なるほど。一度こっちに来たら地球へはなかなか帰れないけど、情報やお金のやりとりはしているということか。
それでSFO事業が成り立っているんだな。
となると帝国は地球と経済的な繋がりも少なから持っているということなんだな。
帝国から一方的にお金が行くなんてことはないからね。
お金にはそれを裏付けるだけの対価がなければならない。
それがSFOの映像配信だけでは済まないだろう。
何らかの取引によって帝国は地球でお金を稼いでいるんだ。
「それでは、艦を育てるという行為のあらましを説明しよう。
艦を育てるためには融合と分離というものを行う。
融合とは自分の艦に他の艦の部品を搭載するための行為だ。
例えば、主砲を交換しようと思ったら、今まで使っていたレールガンを分離して、新しいレールガンを融合する。
これが融合分離だ」
「教官! レールガンを2門装備してはいけないのだろうか?」
タンポポの質問にシイナ様が答える。
「いい質問だ。
確かに武器を多数装備すれば、それだけ戦力になるという考えもある。
だが重量が増えればそれだけ速度は遅くなる。
また武器が必要とするエネルギー供給が不足すれば他の武器が使えなくなる」
シイナ様はその言葉が全員に浸透したことを確認し続ける。
「そこで目安として使われるのが”空きエネルギースロット”の数だ。
これは艦のエネルギーにどれだけ余力があるかという指標だ。
強力な武器ほど、このエネルギースロットを消費する。
例えば、大口径のレールガンはエネルギースロットを2消費する。
だが対宙レーザーは4門でエネルギースロットを1消費するといった感じになる。
エネルギースロットを消費する装備として電脳と防御装置のバリヤーと電子兵装もあるな」
「教官! エネルギースロットを消費しない武器は無いのですか?」とオオイ氏。
「例外としてミサイル発射管がある。
これはエネルギースロットを消費しない。
消費するのは艦内容積だ。
発射管の数と予備ミサイル弾搭載能力によって艦内容積を使う。
これは艦体が大きくなればなるほど緩和されるが、重量増により速度に影響するので注意が必要だ。
その他エネルギースロットを消費しない装備としては盾もあったな。
これも重量増になるので気をつけろ」
オオイ氏が頷き納得した表情をする。
やっぱりオオイ氏はミサイルに拘りがあるようだ。
「話を戻してエネルギースロットの話だ。
エネルギースロットの数は主機反応炉の能力による。
高性能高出力の反応炉を搭載すればエネルギースロットの数は増える。
現状でエネルギースロットが0の艦でも、反応炉を換装し高性能にすればエネルギースロット数を増やす事が出来る。
ただし、この反応炉の換装も艦体の大きさに影響される。
高性能の反応炉ほど大きく重くなるということだ。
だからこの世界では戦艦が一番強い存在なのだ」
なるほど、エネルギー、武装、艦内容積、重量、速度といった数値に折り合いをつけて、艦に特徴を持たせ育てていくんだな。
それに失敗するとバランスの悪い失敗艦となってしまうわけだ。
「では、融合に関するもう一つの話、売買についてしていこう。
融合するための部品の供給源は3つある。
1つ目はステーションにより製造販売されている部品だ。
標準的な部品はここで手に入る。
2つ目は敵艦からの戦利品、所謂拿捕鹵獲や回収で得られた部品だ。
自ら手に入れた部品を売らずに融合するという手段だな。
3つ目は戦利品や分離により要らなくなった部品が売られて出回る中古品販売だ。
これらの部品を手に入れて融合を行う。
敵艦からはレア装備が手に入るかもしれないので楽しみにしておけ」
僕の専用艦は艦体が小さく武装が貧弱で、空きエネルギースロットも0だ。
拡張性を得るには艦体を大きくし反応炉を大型高性能のものに交換する必要がある。
終わってるな……。
どうやってそれら装備を手に入れればいいんだよ……。
「教官! ミサイルや実弾の消耗品はどうすればいいのでありますか?」
オオイ氏が質問する。
「その説明を忘れていたな」
シイナ様がしまったという顔をして話しだす。
「敵艦掃討クエストに出ると参加費と実弾が支給される。
参加費は敵勢力の規模によって変わる。
実弾支給はミサイルだ。発射管の数だけ補給を受けられる。
もちろん、それ以上は各自で購入することになる。
ただし、レールガンの弾丸については艦内で製造され毎日増えていく。
これは艦の能力によって違うので各自確認するように。
それと定期的に弾の材料を艦に食わせる必要がある。
これは購入するなりデブリや鉱石を回収するなりする必要がある」
ミサイルは補充しなければ減るばかりだが、レールガンは放っておけば弾体がMAXまで増えるってことか。
敵艦掃討クエストに出ればミサイルが余って、それを売れば儲かるかも。
「そこ! 余った支給品のミサイルは没収だから戦場に出たら撃って来いよ」
うわ! やっぱり心を読まれてる!
僕を含め男子4人が首を竦める。みんな考えることは同じか!
「教官、回収とは何ですか?」
タンポポが質問する。
「回収とは小惑星からの鉱石回収や、敵艦掃討クエストにより破壊されデブリ化した艦の残骸を回収する仕事のことだ。
この仕事により売り物の武装や部品が手に入ることになる。
主に100m未満の艦が、装備された腕により回収業務を行う。
鉱石回収では腕にドリルを装備するのが定番だな」
良いことを聞いた。武装のほぼ無い僕の専用艦でも出来る仕事があった。
この回収で掘り出し物を見つけて艦を成長させ、戦う力を手に入れよう。
良かった。僕にも出来ることがあったし目標も出来たぞ。
「続けて艦の育成実習をする。総員仮想シミュレーターに入れ!
仮想空間で部品を購入し融合のシミュレーションをしてもらう。
基本はステーション標準艦C型、通称
特別に装備を外してある。
これに武装と防御を融合で弄って自分色にカスタマイズしてみろ。
主機反応炉と電子兵装を弄りたいなら融合分離を行え。
シミュレーションだから予算は無尽蔵だが現実味のない育成は控えるように」
基本となるステーション標準艦C型、通称
『NPC艦C型』(武器防御装備なし)
艦種 標準巡洋艦
艦体 全長200m 巡洋艦型 2腕
主機 熱核反応炉D型(9) 高速推進機F型
兵装 主砲 なし
副砲 なし
対宙砲 なし
ミサイル発射管 なし
防御 耐ビームコーティング特殊鋼装甲板
耐実体弾耐ビーム盾 なし
停滞フィールド(バリヤー) なし
電子兵装 電脳E型 対艦レーダーE型 通信機E型
空きエネルギースロット 5
状態 良好
僕もシイナ様に促されて融合をやってみる。
僕の専用艦と比べたら巡洋艦型の艦体なんて夢のまた夢なんだけどね。
熱核反応炉C型はエネルギースロットが合計9使える。
ただし高性能の装備1つでも低性能の装備1つでも使用エネルギースロットが1なら1を消費してしまう。
今回の演習用巡洋艦は高速推進器F型、電脳E型、対艦レーダーE型、通信機E型の4つで既に4つのエネルギースロットを使用済みだ。
ここから電脳を高性能のC型と入れ替えても使用エネルギースロットが1だから空きエネルギースロット数は変わらない。
使用エネルギースロット2の電脳A型と入れ替えれば空きエネルギースロット数が4に減る。
つまり使用エネルギースロットの数と相談しつつ艦体重量や必要性能の兼ね合いで装備を決定する必要がある。
性能が良い装備ばかりを集めれば良いということではないのだ。
予算だって本来は自分で稼いでいかなければならないわけだしね。
まず停滞フィールドにE型を選ぶ。
これは巡洋艦が標準的に装備するレールガンの直撃を防御しうる性能だ。
まあ、何発も当てられたら停滞フィールドが持たないんだが、1発目はもらったとしても2発目は当たらないように回避すればいい。
これが1エネルギースロット。
次に対宙砲として5cmレーザー単装4基4門。
標準的な対宙兵装で1エネルギースロット。
主砲は長砲身20cmレールガン単装1基1門。1エネルギースロット。
20cmレールガンまでは1エネルギースロットで済むので性能的にこれを選択。
副砲は10cm粒子ビーム砲単装2基2門。2エネルギースロット。
口径がもっと大きくても同じエネルギースロット数だが、重さ的に10cmにする。
連装砲塔でも2エネルギースロットだが、砲塔の配置による射界を考えて単装2基にした。
以上5エネルギースロットを使い切った。
次に重量装備を考える。
主機の能力が高くないので、なるべく速度を落としたくない。
盾は巡洋艦では標準のE型を選ぶ。
ミサイル発射管も標準的なE型標準2基2門。
そして僕の融合した艦はこうなった。
『NPC艦C型』アキラ改
艦種 標準巡洋艦
艦体 全長200m 巡洋艦型 2腕
主機 熱核反応炉D型(9) 高速推進機F型
兵装 主砲 長砲身20cmレールガン単装1基1門 通常弾
副砲 10cm粒子ビーム砲単装2基2門
対宙砲 5cmレーザー単装4基4門
ミサイル発射管 E型標準2基2門 最大弾数2×2
防御 耐ビームコーティング特殊鋼装甲板
耐実体弾耐ビーム盾E型 1
停滞フィールド(バリヤー)E型
電子兵装 電脳E型 対艦レーダーE型 通信機E型
空きエネルギースロット 0
状態 良好
僕の艦を見てシイナ様が苦笑する。
「アキラ、おまえの艦は装備を外す前の標準艦そのまんまだ……」
うん、艦隊旗艦なんて余計な装備でエネルギースロットを消費して武装が貧弱なアホな艦より、普通が一番なんだよ?
コスパ重視。これに勝るものは無い。
「フォレスト、何をやっている?」
突然空気が5℃ほど下がった。
シイナ様がお怒りだ。
「だって予算無制限だって言うから……」
「限度ってものがあるだろ!」
フォレストは予算を潤沢に使って艦体から何から全て変更。
全スペック最上級の巨大戦艦を作り上げていた。
限られた中で融合をやってみようという主旨なわけだし怒られても仕方ない。
バカなやつめ。
「他の者達の艦を見ろ! お前だけが今回の主旨から逸脱している!」
シイナ様が他の参加者の艦を表示して示す。
オオイ氏はミサイル艦、アヤメは突撃艦、キリさんとタンポポは狙撃艦になったようだ。
「ハッ!」
突然シイナ様が焦った表情になる。
フォレストを叱るためについ見せてしまった内容が拙かったらしい。
「しまった。これで明日の模擬演習をするつもりだったのだ。
艦の性能を秘匿するのが目玉だったのに……」
どうやらシイナ様は、明日の模擬演習をこの艦でやるつもりだったらしい。
敵の性能を詳しく知らない状態での艦隊戦。
そのため各自の艦の諸元を他人に見せないつもりだったわけだ。
フォレストのせいでほぼバレバレになってしまった。
「ええい。明日の模擬戦の艦種はこちらで用意する。今日はこれまで。解散!」
え? シイナ様、誤魔化した?
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