第38話 悪魔の囁き


===悪魔===


 少年は全てを失った。

 彼は全てを取り戻そうとした。

 地平線からやってくる人間達の軍勢。

 人間たちは人間たちを滅ぼした。


 少年は家族を皆殺しにされた。

 1人残らずむごい殺し方をした。

 彼は涙を流した。

 死体の中に1体の魔王の死体が転がっていた。


 少年は興味本位で触れてみた。


【契約するか? この悪魔と、寿命を捧げよ、そしたら死ぬ事が出来ない人間になれる。そしてお前は悪魔になれる。魔王よりも強く勇者よりも強い、それが悪魔だ】


 少年は涙を流しながら、それを誓った。

 誰も助けてくれないなら、自分で助かろう。

 誰も助けないなら自分で助けよう。


 少年は魔王がなぜ誕生するかを悟った。

 それは沢山死ぬから、沢山あの世で溢れかえってくるから。

 ぐちゃぐちゃな世界にぐちゃぐちゃな魔王が誕生するから。

 だから無限に魔王が増え続ける。

 それを倒す勇者も増え続ける。

 終わりのない戦いを終わらせないといけないのだから。



 少年は寿命を悪魔に捧げた。

 そこら中に転がる魔王が次から次へと少年の口の中に吸い込まれていく。

 気付くと少年の髪の毛は黒い髪の中に白が混ざる様になっていた。


 

 少年は地獄のような激痛を味わっていた。それが心の激痛というものであった。

 次にやってきたのは肉体の激痛であった。



 少年は立ち上がると、頭の中に名前が響いていた。


 それが両親から授けられた名前。


【ガルン】


 それが少年の名前であった。

 

 ガルンは立ち上がった。

 この世界から悲しみを失くす為に魔王を救う為に。

 全てを救う為に、人間には滅びてもらう。



 少年はその日悪魔になった。


===ジェイク====

 

 ぎょっとなって飛び起きた。

 記憶の中では冒険者ギルドに入ったあたりで意識を失った。

 沢山の冒険者達が指示と罵倒を繰り広げていたのは覚えている。


 

 そんな時にあの少年の過去のような記憶が流れて来た。

 ジェイクは最初、自分自身がガルンなのだと思っていた。

 しかし違う、ガルンはパンドラの箱に封印されていた存在。


 

 夢の中というごっちゃの世界で、誤認識してしまったのだ。

 だが、ガルンが見て来た光景の一部を見せつけられたのだろう。

 その壮絶なるものに彼の精神力が崩壊しない方が謎だった。



 辺りを覆いつくす死体達。内臓がこぼれ、両手足は切断され、ごろごろと女子供関係なく死んでいる。その中でガルンは生き延びて、家族が殺された事に叫び声を上げる勇気もなくて。



 もしジェイクがあの時代にいたら、容赦なく悪魔と契約していると思う。

 ガルンは魔王を救おうとしていた。

 夢の中の情報だと。魔王とはあの世が溢れかえった魂の集合体という事だ。

 あの世に沢山送らなければ、魔王が減るという当たり前な法則。



 だがなぜ、人間を滅ぼす事になったのだろうか?

 異種族は滅ぼさず人間を滅ぼす。それは人間が一番傲慢で欲に忠実だからなのだろうか?

 それが分からない。


 恐らくだけど人工が一番多いから?

 それなら余計魔王が出現してしまう。


 まさか、そうだ、まさかだ。


 

「逆パターンか、魔王を増やして世界を治めれば、魔王の世界となり、生き残っ異種族は無事生き残れる」



 ガルンは人間であった。なのに人間の立場に味方しないのは、それだけ人間がひどい行いをしてきたからだろう。

 ジェイクはあの司教を思いだしていた。

 

 ふと気づく事がある。悪魔の反対は神様だ。

 それはつまり神ダンジョンを攻略失敗したネイリに聞くしかないだろう。


 その時扉がゆっくりと開いた。

 そこに立っていたのはネイリであった。

 彼女は心配するようにこちらにやってくる。



 どうやらここはトドロキの宿のようだし。安心していかもしれない。



「ジェイク、心配したよ、もう大丈夫なの?」

「ああ、大丈夫だ。ネイリに聞きたい事がある」

「やはりね、悪魔と言えば天使だからね」


「そこなんだ。何か知っている事はないか?」


「そうね、神ダンジョンに入るには、チケットが必要なの、そのチケットを巡って人々は争うのよ、神ダンジョンの神を倒すと何かが起こるとされているわ」

「なるほどね」

「でも今のあたい達には無理ね」

「それもそうだな」


「しっかり寝るのよ、まだ夜中だし」

「助かる」


 ネイリが部屋から出ていくと。ジェイクはベッドに横になりながら天井を見ていた。

 そう言えば最近色々と忙しいのでスキルポイントを見ていなかった。


 ジェイクは恐る恐るスキルポイントを見ると。



 10億スキルポイントになっており、限界値全開であった。


 5億ポイントを消費して、最大値を20億スキルポイントにした。

 残りは5億スキルポイントだが。時間が経過するとスキルポイントが上昇していき20億スキルポイントになるだろう。


 その5億スキルポイントは消費する予定ではあるので、20億スキルポイントに上昇させるのはとても時間がかかる事だとは思っている。



 ジェイクは天井を見ながら、習得可能スキル一覧を表示させ、そこから学びたいスキルを選んでいく。


 魔法の屋敷【異空間に屋敷があり、ギルドメンバーは自由に出入り出来る】

 地形変化【両腕の3倍の範囲で地形を変形させる事が出来る】

 本化本棚【物を本にして本棚に収納が出来る。本棚は異空間にしまっておける】

 神格竜化【体を神の形にして竜のような力を誇る】


 ジェイクはこの4つのスキルを習得する事にした。

 

 スキルポイントは4億ポイントを消費した。

 信じられないのは1つのスキルで1億ポイント位するというものだ。

 確かにあまり聞いた事のないスキル達ではあるが。

 それだけ希少価値があるのだろう。



 ジェイクは早速試したい衝動に駆られる。しかし仲間達から心配されているので無理にでも動くと危険そうだし。


  

 ぐぬぬぬと考えて、ジェイクはベッドから勢いよく立ち上がると。

 窓を開いた。

 空からは太陽の光が覗いている。

 ジェイクは2階だが、ジャンプ1回で着地出来る程丈夫な体をしている。



 地面に降り立つジェイクはきょろきょろと辺りを見渡し。

 衣服は寝間着ではあるが、外着としても使える素材のはずだ。



 モゼス町から出る訳にも行かないので。

 近くの草原にやってくると、試してみたいスキルを発動する事にした。


 魔法の屋敷【異空間に屋敷があり、ギルドメンバーは自由に出入り出来る】

 地形変化【両腕の3倍の範囲で地形を変形させる事が出来る】

 本化本棚【物を本にして本棚に収納が出来る。本棚は異空間にしまっておける】

 神格竜化【体を神の形にして竜のような力を誇る】


 この4つを順番に検証しながら発動させる事にした。



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