第34話 動物の魔王【アニマルゼクター】

 神領域スキルにより神賢オルディンが体に憑依した。


【タイムリミットは10分となりました】


「なぜに30秒でないのですか?」


【それはわしが神様であるからじゃ、お主の日々の行動が良かったから神様として時間を増やした】


「それはありがたいですオルディン神様」



【よかろう、よかろう】


 

 次に影魔法を発動させる。

 もう1人の自分自身を魔法で呼び出す。



【レベルは分割されるから、もう1体のレベルは550となり、本体も550となる】


 

 ジェイクはそれでも満足しながらもう1体の分身と目線で合図する。



「俺はネイリとミナラクの方に行くよ」

「了解したよ」


 

 2人の頭の中ではオルディン神様が存在している。

 だから神様は2人に憑依しているという形になる訳だ。


 

【なんじゃが不思議な感覚じゃのう】


 オルディン神様の呟きが小さく響く中、ジェイクは獣人族のネイリとドワーフ族のミナラクの元に走った。


 もう1人の影の塊は貴族でありながらジェイクの弟子となっているリックイと元夜盗でありながらジェイクの弟子となっているレイデンがいた。


 ちなみにレイデンは女性である。


 2人は【移動スピード上昇】スキルを発動させている為。

 十秒後には到着していた。



 ジェイクの眼の前には頭はライオンでありながら右手が象で左手が猪、右足がカンガルーで左足が馬。上半身は蛇のような鱗で、下半身はワニのようになっている。



 本当にめちゃくちゃな魔王もいるものだとジェイクは思っていると。



「これ、やばいよ、ネイリ逃げようよ」

「それはダメ、後ろには子供達が避難しているのだから」



 ネイリの発言を聞いた時、やはりネイリはお姉さん的な存在なのだと思った。



 それに対して自分はオルディン神様に頼るつもりはなかったのに、相手が圧倒的すぎるからって道を曲げる。


 ネイリは避難した子供達を守る為に戦い。

 ジェイクは死にたくないからと道を変更してでも神様を憑依させた。



 ジェイクにとって必要な志とはネイリのような志なのだろう。



「ごほん」



 咳払いをすると音に気付いたのかミナラクとネイリがこちらに振り向いた。

 もちろん動物の化物である魔王ですらこちらを見ている。



 先程の虫の魔王との戦いで吹き飛ばされた2人がやってきたのはここであった。

 それはもしかしたら幸運な事なのかもしれない。

 避難した子供達を助けるという。



「あ、兄貴いいいいい」


「まったくあんた1人で虫の魔王を倒したみたいね」


「ああ、何とかな、それよりあの魔王を倒すぞ」


「もちろんだわ」



 ネイリが答えると、ジェイクは取り合えずこちらの様子を見ている魔王を鑑定する事にした。


【アニマルゼクター魔王:SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS】



 ジェイクは身震いしそうになった。

 先程の虫の魔王より遥かに強いではないか、Sランクの数が多い=強いだが、戦闘の仕方によっては倒す事も出来る。


「ネイリは両手の爪装備でひたすら攻撃をしかけろ、ミナラクは俺と同じ個所を狙ってくれ」


「うん、分かったよ」

「任せてよ兄貴」


 3人が走り出した時、アニマルゼクター魔王はこちらを上から目線で見回す。



「やはり人間はゴミのようだ。こちらの強さが分かっていない、このアニマルゼクターのアニマルの拳で防御出来る奴などおらん、さて、一番むかつく少年を葬ろうではないか」



 アニマルゼクターは巨体をゆっくりと揺らしながら歩き出す。

 それを見ていた3人は奴の弱点がすぐに分かった。


 

 先程から周りでさらなる悲鳴が巻き起こっている。どうやら他の魔王達がモゼス町で人口密度が多い所にやってきたのだろう、それに対して冒険者ギルド等がきっと動いてくれるだろうし。



 3人は走りながら話す。



「さっきS級冒険者のジャイガーという人が助太刀に来てくれの、あなたが来る気配を感じたら教会のある所に向かったわ、人々はそこで避難しているらしいの、しかしジャイガーはそれが不味い事だって」


「そうそう、ジャイガーさんはとても恰好よかったです兄貴」


「それは良かった。という事でアニマルゼクターを倒すぞ」



 ジェイクとネイリとミナラクは地面を跳躍して見せた。

 次の瞬間、ジェイクは3人に付与魔法を施す。

 それは神賢オルディンの魔法であった。

 ジェイクは炎をネイリは雷をミナラクは土を付与する。



 魔王のアニマルゼクターは余裕ぶった表情をしながら、動物の右手と左手をかざす。

 まずは右手の象がネイリの雷の爪により玉砕。

 まるで豆腐でも切るようにさくっと両断される。

 右手から血しぶきが上る中、魔王はようやく痛みを理解して悲鳴を上げる。

 まだ終わらず猪の左手がミナラクの土の効果を付与したハンマーを叩きつける。

 


 ぐしゃりと嫌な音がして左手がへし曲がった。


 最後に止めとばかりにジェイクが【爆滅の錨斧】をライオンの頭に叩きつける。

 頭蓋骨が粉砕さる嫌な音を響かせながら、炎のような爆発を響かせた。それでもアニマルゼクターは立ち尽くしていた。


 

 3人が悟った事、奴の弱点とは体が重たすぎて上手く避けたりする事が出来ないのではという推測だった。案の定こちらの攻撃を避ける事すら出来ず。防ぐ事すらも無理だった。



 ネイリとミナラクは勝利を確信していた。

 しかしジェイクだけはすぐに勝利はないと思っていた。



「なんであいつは頭蓋骨を右手と左手を潰されて生きていられるの?」



 ネイリがぶるぶると震えながら訪ねると、ジェイクが答える。



「あいつの力が謎だった。沢山の動物の顔を体のパーツにしているだけのカウンタータイプだと思った。しかしそれは違うのだろう」



 ぐねぐねと動き出すアニマルゼクターの体。

 頭が右手になったり、右手だったものが左足になったり、多種多様な動物の頭や体のパーツが体のあちこちに現れる。



 その結果アニマルゼクターはぐちゃぐちゃの化物になった。

 至る所から多種多様な動物の頭と体のパーツを生やし、まるで森の中で採れるとされる栗の棘そのものであった。


 

 そして奴はこっちに走り出す。


 足が沢山ある事により、勢いに任せてこちらに向かってくる。



「散会だ。攻撃を食らわせた事であいつがマジになったんだ。今まではマジじゃなかったんだよ」


「足が数十本以上もあればとんでもなく速く走れるなんて、虫みたいな話ね」


「兄貴は気持ち悪くないのですか?」


「そりゃ気持ち悪いさ」



 アニマルゼクター魔王はジェイクに的を絞ったようだ。

 

 そして動物の多種多様な鳴き声を発してこちらに直行する。

 まるでトゲトゲボールのようなそれの攻撃を避け続ける。


 避け続ければするほど、敵のスピードが上る。


 沢山の腕や足がクッションとなり壁に激突する事はない。

 そのまま転がりながら回転してこちらに向かってくる為、スピードを落とす訳ではないのだ。


 つまり永遠にスピードが上がり続けるというもの、避け続けるのも時間の問題だ。


 神領域も残り8分程になっている。

 

 それはリックイとレイデンの助けに行った影も同じ事だ。


 今の所は影が戻ってこないので戦っているのだろう。



 ジェイクは震える心を落ち着かせて、大きく息を吸上げて、逃げながら対応策を考える。

 

 その時眼の前に川が見えて来た。ジェイクはなるほどと心の中で頷いていた。

 

 ジェイクは助走をつけてジャンプした。全身が川に浸かり、結構な深さである事を確かめ、さらに潜る。

 

 スピードが上がり続けている為、止まる事が出来ないアニマルゼクター魔王はそのまま川の上に落下した。


 ゆっくりと沈んで行き、奴の動きが止まった。


【竜の翼】スキルと【風纏い】スキルを発動させる。どちらもS級ランクである事は変わりない。

  

 川の水の中からジャンプすると、空に向かって飛翔する。

 そのまま沈んで行くアニマルゼクターに体当たりでダメージを与える。

 風纏いにより全身を斬り刻まれるアニマルゼクターは化物らしい鳴き声を発した。

 


 最後の止めとばかりにミナラクとネイリが到着した。


 ミナラクは【空間飛ばし】を何度も発動させる。

 空間自体が体当たりしてくる攻撃にアニマルゼクターは驚きつつも川で溺れている。

 ネイリは【氷の爪】を発動させると、爪装備自体が氷のように変化した。


 刻みの良いステップを刻みながら走る姿は獣人らしかった。


 空に跳躍すると、氷の爪をアニマルゼクターにではなく川に当てる。


 すると川の水が凍り付いて棘の氷が発動した。それがアニマルゼクターの全身を斬り刻み、氷漬けにしてしまう。


 空から落下を続けるジェイクは【爆滅の錨斧】を叩きつける前に【斧術】S級を発動し【強化ブースト】S級も発動する。強化ブーストは全ての能力を上昇させる事が出来る。

 斧術は斧の技術が跳ね上がる。または強さも跳ね上がる。まぁトータル的に跳ね上がる。



 爆滅の錨斧は船に無くてはならない錨と似ている。

 錨が斧の形をしている。


 それがアニマルゼクターの体を穿つ。爆発的な振動が響き渡る。

 川が振動で氾濫するが水害になる程ではない。

 沢山の人々が隠れている家から出て着てこちらを見ている。


 ジェイクが魔王に止めを刺している姿を沢山の町人が見た。

 人々は嬉しさのあまり歓声を上げた。



【おめでとうございます。動物の魔王を討伐しました】



 その謎の声はこの街中に響き渡ったようだ。

 虫の魔王の時は皆半信半疑だったのだろう、しかし人々は動物の魔王の死体を見てしまった。

 それは半信半疑から確信へと移り変わった事を意味している。、


 ジェイクは拳を突き上げ、ミナラクとネイリに呟いて見せた。



「ありがとう」



 ジェイク達がアニマルゼクターと戦い始めていた頃、別の場所でも魔王戦が繰り広げていた。

 そこには影魔法で作られたジェイクがいたのだ。


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