第32話 虫の魔王【ブレゼゼモス】

 ジェイクの鑑定結果。


【魔王ブレゼゼモス:SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSランク】


「なんだよ、これ、Sランクの数が半端じゃねーぞ」


「師匠、相手が魔王なら俺様達ではどうしようもありません」

「師匠、僕は逃げるべきかと」


「僕も最初はそう思ったのだが、あいつの向かう先にはモゼス町がある。なぜか魔王はモゼスの町に向かっているようだが、もしかしたら町ならばどこにでも向かうのかもしれないな」


「それでジェイクはどうしたいの? あの魔王を倒すの? それともモゼスの町を捧げて逃げるの?」


「兄貴の答えなんて決まってますよね」



 犬の獣人族のネイリとドワーフ族のミナラクは親指をあげて決めポーズを取っている。

 一方で先程から怯えていたリックイとレイデンは顔をぱんぱんと叩く事で決意を露わにした。



「ならこの炎の魔剣で勝負をかけましょう、貴族を舐めないでくださいよ魔王殿」


「ふ、女夜盗だからどうした? ナイフ使いで風使いの僕をなめるなよ」


「よし皆は戦う気満々という事で、このメンバーで初めてのパーティー戦となるが、油断はするなよ」


【たりめーだ】


 ネイリ、ミナラク、リックイ、レイデンが大きな声を発した。

 その瞬間がバトルの開始だった。



 リックイが【強化ブースト】S級と【絶壁の鎧】S級を発動させる。

 強化ブーストにより圧倒的に跳ね上がった攻撃力に炎の魔剣が振るわれる。


 

 風と空気を斬り裂きながら、魔王の胸に斬撃のダメージを与える。

 魔王はぐらりと後ろに下がる。



 今回の魔法の顔は虫のようなそれでいた。

 どことなくハエのようにも見える。

 体はムキムキというよりかは、昆虫のようなムキムキであった。



 斬撃を食らわせたリックイは一度後ろに下がる。

 しかし魔王は容赦なくリックイに仕返しをするかのように追撃してくると。

 6本ある腕の2つでカギヅメのように振り落とす。



 絶壁の鎧のおかげで大ダメージにはならなかったが、後ろに吹き飛ばされる。

 それもモゼスの町の所まで吹き飛ばされるものだから。

 後ろでは沢山の人々がパニックになっている。



「結果としてよかったかもな」



 ジェイクの呟きに、レイデンは頷く。



「これでモゼス町の人々が逃げてくれればいいのですが」


「ちげーだろ、皆でワイワイ魔王狩でしょ」



「は、はい?」


 

 ジェイクの少しずれた思いにその場にいたレイデンは驚愕していた。

 しかしネイリとミナラクだけは失笑していた。



「ジェイクはこんな奴なの、いつでもどこでも頭の中はばりばりのムキムキの精神力だから、あたい達とパーティーを組むならこの事は覚えておいて欲しいな」


「は、はは、ネイリ殿たちもとても大変でしたね」



「何が? これが兄貴だからさ、兄貴は基本的にバカだから」



「それならその馬鹿のパーティーの初陣と行きましょうか」



 元女夜盗のレイデンはボロボロの上着の右ポケットと左ポケットからナイフを取り出すと。

 それを回転させる。

 ナイフさばきはプロのそれであった。



 レイデンが発動させたのは【風纏い】S級と【風付与飛行】S級であった。

 さらに【強奪】C級を発動する。強奪スキルは元々レイデンが獲得していたスキルでもあった。


 空をくるくると回転する。

 ジェイクはその飛行に羨ましさを覚える。

 なぜならジェイクでもあれほど空を上手く飛行する事が出来ないからだ。



「まるで精霊のようだ」



 ジェイクが心にある言葉を呟くと。

 レイデンは全身から風纏いをさらに広げる。

 そこにあるのは1つの風の塊であった。


 それが真っ直ぐに魔王の方に爆発の如き噴射で飛行し、

 魔王と激突する。


 だが魔王は6本の腕でガードする事に成功するも。

 先程のリックイの攻撃を効いているのか、

 右腕の3本の腕がもげていった。



 魔王は激痛を感じているのか化物のような咆哮を発した。 

 その咆哮だけでもこの辺り一面が恐怖に彩られているような気がした。



 空を回転しながらモゼス町の方に墜落していくレイデンを見ながら。

 あの程度なら生きているかとほっとする。



「さて、ネイリとミナラクよ止めをさすぞ」


「そうね、この獣人としての力を見せてあげましょうか」



 両手には爪のような武器を装備するネイリ、防具は軽装備である。

 ネイリは元々神のダンジョンに挑む程の実力者でもある。

 なので殺される心配はしていない。


 しかし隣にはドワーフ族のミナラクがいる。彼は鉄製のヘルメットを被り、だぶだぶの上着とズボンはいつもながらに着用している。両手にはメリケンサックが装備されている。

 いつもならハンマーを構えているのだが。


 

「このハンマーではあの防御力の高い魔王には効果がないから、メリケンサックで勝負をかけるぜ」



 と無茶難題な事を呟くミナラクであったが、誰も止める事は出来ない。



「期待はしていないがな」



「ふ、期待させてやるぜ」



 ジェイクとミナラクの掛け合いの真ん中に到達したのは。



「2人とも命を賭けるのね」


「もちろんだぜ、ネイリ」

「姉御も賭けるんですよ」


 ジェイクは心の中で、なるべく【神領域】を発動させないようにするつもりであった。

 なんでも神頼みはいけないとも思っているし、自分の力で倒してみたいという挑戦心が頭を支配していた。



 奴はこちらの3人を見ていると、右腕の3本があった場所から緑色の液体が流れている。

 その光景をジェイク達は見ており、それが気持ち悪いと思った。


 だが奴はこちらをじっと見ている。そして無くなった右腕を撫でていると。

 突然撫でる事を辞めた。


 

 ハエは突如として大きな光に包まれた。

 次の瞬間には蛹のような形になる。

 とてつもないグロテスクな姿に、ジェイク達は吐き気を覚える。


 

 あっという間に蛹から羽化するそいつは、小さい魔王であった。

 先程までの魔王がミノタウロスとかオーガとかトロールとか並にでかいのに対して、今回は子供1人分の身長であった。



 頭からは触覚が2本生えており。体は虫から羽化したとは思えない程に人間らしくあった。

 子供のような身長でムキムキのその姿。

 背中には蝶のような黒い羽が生えている。


 そして奴はこちらを見て。にやりと笑いだす。

 肌の色は青紫であり、どことなく虫を連想させる。



 まるで昆虫と人間が融合した姿が目の前に降臨しているのだ。



「待っている暇はない、先手必勝だ」



 ジェイクの掛け声にネイリとミナラクが答える。

 3人は地面を踏ん張り、思いっきり走り出そうとした。


 その一瞬でミナラクとネイリが吹き飛ばされた。

 なんとかジェイクは敵の攻撃を見る事が出来た。

 その為に避ける事が可能であった。



 奴は羽を鞭みたいにしならせると、無数の攻撃を繰り出したのだ。

 それを避ける事が出来なかったネイリとミナラクは遥か後方のモゼス町に吹き飛ばされていった。



「あーあ、結局こうなるんだな」



 強気者は強気者同士と戦うべく、弱気者は弱気者と戦うべく。

 そう世の中の法則は成り立っているのだと。


 誰かが言っていた気がする。

 どっかの老人だっただろうか?



「さーて、おめーと対面だぜ」


 

「魔王はブレゼゼモスだ。魔王と戦う愚かな人間よ、魔王を倒せると思うてか、うっはっは」



「ああ、倒せるか倒せないかはやってみないと分からない、体操するか体操しないかはその日の気分だがな」



「お前は人間だ。魔王は1人ではない、無数の魔王が蘇っている。モゼス王国を潰すのはこの魔王だと言いたいが、仲間達が別な方角から向かっている。お前は無駄死にだ。運よくブレゼゼモスを倒したとしても、お前は何も出来ずモゼス王国を滅ぼされる」



「あのう、質問いいですか?」


「よかろう」



「モゼス王国ってここの事?」


「その通りだぞ」



「ここは王国ではなくて、街です、場所間違っちゃった? 恥ずかしいね」



「ここはモゼス王国だよ地下に眠るパンドラの箱を開いたら分かる。かつてモゼス王国に魔王達は滅ぼされ封印されたのだから」


「なんか凄い設定の所で申し訳ないのですが、ちゃっちゃっと殺しますよ」


「ふ、出来るかな、ぐふぉおおおおおおお」



 ジェイクはスキル【爆砲】S級を飛ばした。


 口から空気の大砲を飛ばした事により。

 魔王の体を軽く吹き飛ばした。

 物理的な物がダメなら、物理的じゃない攻撃にしてみた。



「やっぱ僕はすげーな」


 

 遥か後方沢山の木々を粉砕しながらでもそれは無かった事のようにしてこちらに向かって来る魔王がいた。



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