第23話 裏切りと正義の末路

 猛烈な破壊の音がその時轟いた。

 まるで地震のようでありながら、揺れない地震だった。

 振動が衝撃波となってこちらに飛んでくる。


 巨大な扉は相変わらず鎖で封印されているし、あちらからあの魔王の化身がやってきた。


「なぁあの扉の向こうってどうなってるんだ?」

「それはわかりませんわ」

「うん、俺様にも理解が出来ないぞ」


 ジェイクは扉を開こうとして渾身の力を使った。

 扉はびくともせず、一ミリの動こうとしていない。


 ならモンスター達が入って来る時はなぜ開いたのだろうか?

 不思議だらけの事でジェイクの脳味噌では理解出来ない内容のようだ。



「ったく、魔王の化身が通る道を通ろう、追跡だから攻撃はするなよ」

「もちろんよ、あんな強すぎる奴はこっちから願い下げよ」

「姉御いつからそんなにへっぴり越しになったんですか」

「前からよ」


 ネイリは恐ろしい顔をしながらそう呟いたのであった。

 3人はここに来る途中に見かけた別な道から上を目指す。

 その道は巨大な何かが通ったかのような足跡があった。

 鋼鉄のような足跡で持って踏みしめているのが理解出来る。


 

 至る所にある小さな扉を足で蹴り破っているし、中にいたモンスター達は皆殺しにされている。


 もはや魔王の行進そのものであった。


 歩き続けて行くと、モンスターの死体が原型を留めていなかった。

 あまりにもぐちゃぐちゃなので解体する事も出来なかった。



 時たま遠吠えのような声が至る所に響き渡る。

 それは魔王の化身が歩いている音なのか、魔王の化身がモンスターや建物を破壊している音なのか?


 謎だらけではあるのだ。


 

 ある場所まで到達した時、そこが真実の迷宮ではなくて機械窟の無限扉という場所だと判明した。

 もしかしたら無限扉とはあの巨大な扉の事を言うのだろうか?

 少なからず謎に包まれている事が多そうだ。


 あの扉がある区画が最後の【真実の迷宮】なのだろう。

 

「真実の迷宮は50階層で上層部のようよ」

「なるほどな、それよりネイリの計算は凄いね」

「これでも計算は得意なのよ、えっへん」

「姉御はさすが凄いです」



 という事はここからは機械窟の無限扉のダンジョンゾーンに侵入したって訳だ。

 それはそれでワクワクはするのだが。

 色々と片付けてお行きたい事がある。


 ダンジョンには色々なパーティーメンバーが攻略しに来ている。

 彼等は魔王の化身という謎のモンスターに襲撃されて行くだろう。

 中には死んで行く冒険者だっているだろう。


 しかしジェイク達に出来る事は殆ど限られている。

 彼等は命を賭けて魔王の化身とぶつかった。

 なら他の冒険者達も命を賭けて魔王の化身と戦う必要があるはずなのだ。


 

「うっわああああああ」

「あああああ」

「うそだああ」

「ぎゃああああああ」



 案の定4名の冒険者パーティーがいた。

 彼等の声を聞いた時、あまりにも幸せに感じたものだから、ジェイクはにこにこしている。


 3人はその部屋に到達する。

 そこには巨大な魔王の化身が武器を握りしめている。


 先程ミナラクがモンスターに武装解除した為、沢山の武器が手に入った。

 どれも知らない名前の武器ばかりで、鑑定しても理解出来ないので諦めていた。


 それらをアイテムボックスにしまってあるはずだ。

 そこには魔王の化身の武器であったハルバードがあったのだから。


 だが今の魔王の化身は不自由なく赤いハルバードを握りしめている。

 ジェイクは唖然と口を開いていたし、もしかしたらあいつの武器は転送可能で。

 恐らくと思ってジェイクはアイテムボックスを調べる事にするとハルバードが無くなっていた。



 影も形も存在しなかった。

 それだけで背中がぞわりと鳥肌が立ってくる。



 1人の剣士は子供っぽい、一生懸命に魔王の化身と戦っている。2人目は達人のような槍使いで、剣士のフォローをしている。3人目がヒーラーのようでダメージを受けた2人を回復させている。4人目は盾使いのタンカーだが凄く太っている。しかし防御力はバカには出来ず。槍と剣士が疲れるとタンカー役を交代している。



 最初はちゃんと戦えているのだろうとジェイク達は思った。

 しかしそれ所ではなかった。

 4人は既に死を覚悟していたのだ。


 3人のこちらは何もしないで眺めていた。

 ようやくこちらに気付いたのはヒーラーであった。

 ヒーラーはこちらを真っ直ぐに見て、申し訳なさそうにすると。


「助けてください」



 少女は心から振り絞った助けの声を上げた。

 だが全てはこいつらのせいでジェイク達は死にかけたのだ。



 ジェイクはふっと笑うと、竜眼剣を肩に乗せたまま、ゆっくり歩きだす。

 ネイリはこくりと頷き。


「さて、あんたはあっちから攻めなさい」

「姉御は?」


「あたいはこっちからだ」


「何をする気で?」


「3方向から攻めるのよ、四方から攻撃される方がモンスターとしては倒しにくい敵よ」


「なるほどです」



 ジェイク達は3方向に散ると、同時に攻撃を始めた。 


 剣士と槍使いはこちらを見て度肝を抜かれたような顔をした。



「何をしに来た。俺達はお前たちを殺そうと」

「そんなのは水に流れていったよ」



 ジェイクがけたけたと笑っている。

 槍使いも剣士も楽しそうに攻撃を仕掛けていた。

 ジェイクの攻撃は多種多様な武器を変換させる事で適応している。

 ネイリの攻撃は両手の爪だった。

 魔王の化身の皮膚にめり込み、そこから血が噴出する光景を見ていた。

 ミナラクはハンマーで何度も叩きつける。

 ある一定の居入りを開けて、ハンマーの空間そのものを弾き飛ばす事が出来る。


 

 ジェイクの光魔法が炸裂する。

 仲間達には効果がないようにしておいた。

 そうする事で眩しすぎる光は仲間にもダメージを負わせる事がない。



 魔王の化身は大きな瞳をがっつりと閉じた。

 3方向からと1方向からの攻撃が炸裂した時だった。

 魔王の化身はぐらりと倒れそうになった。

 しかし奴はぶちぎれたのだ。


 

 人々の生きる希望を絶望に突き落とすような遠吠え。

 それを聞いていたらすぐにでも死んでしまいそうになる恐ろしい鳴き声。



「いけない、みんな後ろへ」


「しぬわ」


「にげろおおおお」


 ジェイクとネイリとミナラクは咄嗟に別な部屋に逃げた。

 しかしそこには剣士と槍使いとヒーラーとタンカーの姿が無かった。


 ジェイク達は唖然として、咄嗟に先程の部屋に向かった。

 だがそこには魔王の化身がいなかった。

 あるのは死体となりはてた4人だった。



 蘇生で何とか出来るだろうかと思った。

 しかし甘かった。



 それは無理だった。彼等の体の損傷が激しい。生き返ってもすぐに死ぬだけだった。

 ならどのような時に蘇生を使えばいいのかと突っ込みたかった。

 それは体の損傷が少ない時だと言われた気がした。


 ジェイクは地面に手を当てて苦しんだ。

 ネイリは眠り続けるヒーラーに手を当てると、目を閉ざしてあげた。内臓がぐちゃぐちゃになっている。


 ミナラクは剣士と槍使いの首が落ちているところまで向かい、それを拾ってきた。

 大事そうにそれを体とつなげる。



 最後のタンカーは肉の塊となっていた。


 

 むごすぎる死体が4つ転がっている。

 ジェイク達の怒りは頂点に達しそうになっている。

 一時的にはせよ、仲間だと思ったメンバーであった。

 名前は知らないが。それでもこんなむごたらしく殺す理由なんてない。



 ジェイクとネイリとミナラクは立ち上がる。

 魔王の化身の目的は恐らく地上に出る事。

 ここから追いかけても間に合わないだろう。

 奴は確実に地上に出てモゼス町に向かうだろう。

 そこなら沢山の人々がいる。きっと魔王の化身は沢山の死体が欲しいのだろう。


 そんな気がしている。


「行くぞ、みんな」


「はい」

「おう」



 機械窟の無限扉のダンジョンは一瞬にして殺戮のダンジョンとなる。

 この事件は沢山の冒険者を殺害された事で有名になる。

 移動するボスモンスターの事を【魔王の化身】と呼んだのだ。


 その時スキルポイントが50万になった瞬間だった。

 ここに来る途中である程度溜まったスキルポイントは使用する事にしたし。

 数十万は消費した。

 0に近いスキルポイントが一気に50万になるなんてありえるだろうか?



 それはありえた。



 条件は戦闘だ。それそれのものが時間をブーストしてくれたのだ。

 

 そして規格外のモンスター【魔王の化身】の存在だった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る