お泊まり会

尾八原ジュージ

お泊まり会

 あの夜、私たちは小学5年生だった。


 その頃、女の子達の間で「お泊まり会」が流行っていた。このイベントを経ることが仲良しの条件みたいになっていて、だから私はどうしても、瑠衣とお泊まり会をしたかった。

 当時、私の家には認知症の祖母がいて、うちでお泊まりするのは難しかった。でも瑠衣の家なら一人部屋があるし、介護が必要な家族もいないはずだ。

「だから瑠衣ん家でやろ! お願い!」

 私が頼むと、彼女はこんな条件を出した。

「じゃあ、私の部屋の押入れで寝てくれるなら……」


 だからこの話は、瑠衣の部屋の押入れで、彼女が私に語ったものだ。


 ◇ ◇ ◇


 私ね、前から押入れの中で夜更かししてたんだ。こうやって電気スタンドを中に入れて、漫画読んだりしてたの。

 親にバレると叱られるから、こんな感じでちょっと襖を開けて、外の音を聞きながらね。

 去年の冬の初め頃かな。やっぱり押入れの中で夜更かししてたの。そしたら部屋の天井の隅から、白い着物の女の人が、いきなりズルッて出てきたの。

 その女の人は、私の布団の周りを大きな蛇みたいにグルグル回ってた。時々ピタッと止まって、歯をカチカチ鳴らすの。誰も布団にいないから怒ってるんだって、私は押入れの中で思った。声が出ないように口を手で押さえたけど、涙がポロポロ出るし、体が震えて、押入れがガタガタ鳴りそうな気がした。でも音を出したら見つかると思って我慢したの。

 どのくらい経ったかな。女の人はとうとう諦めたみたいで、壁をズルズルッて這って、出てきた天井の隅に消えていった。

 ああ助かったってホッとしてたら、私の隣の、お姉ちゃんの部屋から凄い悲鳴が聞こえて……。

 お姉ちゃんはそれから話ができなくなって、ずっと入院したままなの。


 ◇ ◇ ◇


 その時、隣の部屋からドタンと、重いものが落ちるような音がした。

 瑠衣が私の腕をぎゅっと掴んで囁いた。

「静かに」

 そして、畳の上を何かが這うような、ズルズルという音が聞こえ始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お泊まり会 尾八原ジュージ @zi-yon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ