第314話「00(ダブルオー)シャケ、カジノロワイヤル11」
ルーシー(バニー牛ッシーver)に連れられて、フロアの一番奥にある豪華な装飾がされた特別な扉を抜けると、そこには……。
「え?レオニー!?……あ、これはなんか新鮮だな」
「ん?ええ!?姉さん!?……カッコいい!」
ディーラーの制服を着て頭をポニーテールにしたレオニーが、テーブルを挟んで不敵な笑みを浮かべながら立っていた。
「殿下、お待たせ致しました。ここからはこのレオニーがお相手をさせて頂きます。さあ、こちらへどうぞ」
彼女はそう言ってから、私に椅子を勧めた。
いや、びっくりだ。
まさかレオニー本人が出てくるとは……。
流石にこんな代打オレ!とか、実は共に戦った仲間がラスボスだった!みたいな展開は予想できなかった。
私としては、むしろルーシー辺りが実はディーラーのバイトも……とか言うかと思っていた。
あ、でもあの着ぐるみでは動きづらいからディーラーは厳しいのかな?
ちょっと聞いてみようか。
「ねえ、ルーシー」
「はいッス」
「ルーシーってディーラーのバイトはしないの?」
「ふぇ?えーとー、出来なくはないッスけどー」
出来るんだ……。
「今日はレオニーさんが自分でやりたいらしいッスからー、自分はドリンクを運ぶ、ただのうさぎやってるッスー」
うさぎ?いや、お前は牛だろう?
「あと、そう言えば何で着ぐるみなの?他のウェイトレスはみんなバニースーツなのに……」
私は素朴な疑問をルーシーにぶつけると……。
「うわーシャケさんのエッチー」
本日二度目のこのセリフ。
「!?」
「冗談ッス、単純にサイズが無かったのと、お客様に刺激が強過ぎるからッス」
それからルーシーは苦笑しながらそう言った。
「え?あ、そうなんだ……」
確かに牛用のサイズはないだろうからな……。
まあ、そもそも牛がうさぎに化けるのは無理ということか。
「ささ、テーブルへどうぞッス!あとドリンクはこちらへ置いてくるッスね!ではではごゆっくりー」
ルーシーはそう言うと、ノシノシと去って行った。
それから私とレオノールは席につき、レオニー(ディーラー制服ポニテver)と向き合った。
因みにレオノールはしょげたままだ。
「殿下、何をなさいますか?」
「ではポーカーにしようかな?」
問われた私がそう答えると、レオニーは本職にも負けないレベルの手捌きでカードをシャッフルし始めて、
「かしこまりました、それでは始めさせて頂きます……さあ!賭ケグ◯イましょう!」
と、どこかのギャンブル好きのjkのように、うっとりとした表情で告げたのだった。
……。
…………。
………………。
それから約一時間後。
「ロイヤルストレートフラッシュ、殿下の勝ちでございます!」
負けたレオニーが嬉しそうに言った。
反対に、このあまりに露骨なイカサマ接待ポーカーで二十九連勝している私はため息をついた。
ついでに横にいるレオノールは酒瓶を抱えてずっと虚な目で虚空を見つめたまま、
「見られた……大サービス……見られた……大サービス……」
とひたすらブツブツ言っている。
これは、折角回復し掛けていたメンタルが、酒の所為で再び良くない方へスイッチが入ってしまった為で、面倒なので私もレオニーもスルーして放置している。
それにしても……つまらないなぁ。
私は目の前に積み上がった高額チップの山(多分、一億ぐらいある)と、ニコニコしているレオニーを見ながら心の中で呟いた。
そりゃ、上司に勝たせて機嫌を良くしたいのは分かるけどさー、ここまで露骨にやられるとなぁ。
だって、手札が最初からロイヤルストレートフラッシュとかザラだし、敢えてそれを全部捨ててみても、フォーカードになるだけで絶対勝つようになってるし……。
だから何とかして負けようと努力?してみたが、結局全勝という名の敗北を喫しただけだった……。
まあ、最強の戦闘マシーンに接待は無理だと言うことだろうな……。
でも、確実にイカサマをしている筈なのに、私のような素人の目にはレオニーがイカサマをしている瞬間を一度も捉えることが出来てないんだよなぁ。
これはこれで凄いと思うけど……はぁ、もうこの不毛な時間を終わらせたい……。
次で三十連勝だし、キリがいいから帰ろうか。
まあ、負けたくても負けられないという、ある意味面白い体験も出来たから、これでよしとしよう。
そう思った私は、無理矢理自分を納得させてから、
「レオニー、次の勝負を」
と淡々と次のゲームを促した。
「かしこまりました、それでは……」
と、相変わらずニコニコしているレオニーがカードを配ろうしたその瞬間、
「……レオノール、何をするの?」
今まで死んだ目をしながら酒瓶を抱いて固まっていたレオノールが突然動き、レオニーの手を掴んだ。
「姉さん……流石にこれはやり過ぎだよ……」
「……何のことかしら?」
レオニーはポーカーフェイスのままで、あくまでシラを切り通すつもりらしい。
「イカサマの話だよ、これじゃあシャケは全然楽しめないよ」
いつのまにか若干復活したレオノールが呆れた感じで言った。
「え?そんな訳……っ!!」
そう言いながらレオニーが私を見たところで、
「……ごめん、レオニー……全然楽しくない」
私はハッキリそう言った。
するとレオニーは崩れ落ちて、
「そうな……私は完璧にやったのに……なぜ?」
と虚な目をして呟いた。
はぁ、結果として今の我々は、レオニーは接待に失敗して凹み、レオノールは大サービスして凹み、私も折角のカジノを楽しめなくて凹み……ボコボコだな。
まあ、彼女なりに私を楽しませようと頑張ってくれたんだろうけど……。
だから、このままシラけた状態で終わるのはなぁ。
最後は何とか盛り上げて、楽しく終わらせたいところだが……。
何かいい案は……うーん、折角カジノにきたのだし、最後はイカサマなしでやって派手に賭けるか?
でもそれだけでは物足りないし……と、悩みながら何気なく凹む獅子達を見た、その時。
いや、待てよ?
賭けの対象は何も金だけではないのでは?
そうだ、そうだよ!
もっと他のものを賭ければいいんだ!
そうすればこの二人も楽しめるし……あと、頑張ったルーシーも……よし!
上手くいくか分からないが、やってみよう。
この勝負、私が勝てばリターンは大きいが、負けたら……大変だな。
まあいい、兎に角このカジノに来て最初で最後の大勝負だ!
やるぞ!
と決めた私は早速、
「ルーシー!」
と部屋の隅に控える着ぐるみを呼んだ。
「はいッスー、如何したッスか?つまんないから帰るッスー?」
するとルーシーはナチュラルにそう言って、
「くっ……」
と、目の前で凹んでいるレオニーに追い討ちを掛けて更に凹ませた。
「いや、最後に大きな賭けがしたいのだが、公正を期す為に君がディーラーをやってくれ」
「え?あ、はいッス」
ルーシーは不思議そうな顔をしながら承諾してくれた。
「ありがとう……ではレオニー、レオノール」
「「……?」」
私は次に仲良く凹んでいる獅子達を呼んだ。
「二人共聞いて欲しい、私は今からシンプルな賭けをしたい、トランプを一枚引いて赤か黒か、を当てるだけだ」
「「……はい」」
「で、カードを配るのはルーシー、立会人がレオノール、勝負するは私とレオニーだ」
「はいッスー」
「え?別にいいけど……」
「え?私が殿下と勝負でございますか?」
レオニーが不思議そうに聞いてきた。
「そう、私とレオニーの勝負だ、それで賭けの対象だが……まず私はここにあるチップをオールインだ」
と言って高額チップの山をテーブルの中央へ押しやった。
このオールイン!って一回やってみたかったんだよー!
「は、はあ、でしたら私も同額を……」
とレオニーが言いかけたところで私はそれを遮り、
「違うよレオニー……」
「え?」
「君が賭けるのは……君自身だ」
一拍置いてから、ニヤリと笑ってそう告げた。
「……は?」
すると珍しくレオニーがポカンとしてしまった。
「私が勝ったら……君を一晩好きする、というはどうかな?」
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