第312話「00(ダブルオー)シャケ、カジノロワイヤル⑨」
ここまで色々あったが多大な犠牲を払って何とかそれらを解決し、お陰でみんな仲良くカジノに出掛けることが出来た。
そして、エントランスに馬車で乗り付けた私達を待っていたのは……。
「「「いらっしゃいませランベール様、お待ちしておりました!」」」
ズラリと両側に並んで私達を出迎える大勢のカジノの職員達の姿。
そして、その中から特に上等な服を着た支配人らしき中年男性が笑顔で近付いてきて、
「本日はご来店ありがとうございます、ランベール様、御用があれば何なりとお申し付け下さいませ」
と言って深々と頭を下げた。
「え?あ、ああ……宜しく頼む」
いきなりVIP待遇でそう言われた私は戸惑いながら返事をした。
それから隣にいるレオニーが彼にアイコンタクトを送り、支配人が頷くのが見えた。
あ、そう言えばこの街のカジノってレオニーの傘下なんだっけ?
なるほど……だからこの高待遇なのか。
そのやり取りを見て取り敢えず納得し、私が歩き出そうとしたところでレオニーが、
「殿下、さあ参りましょう」
妖艶な笑みを浮かべ、そう言いながら自然な感じで私の右腕に抱き付き、
「シャケ、恥ずかしいからさっさと行こうぜ……」
更に反対側の腕にレオノールが抱き付き、オドオドしながら言った。
まさに両手に花……いや、両手に獅子だな。
絵面的にはイブニングドレス姿の美女二人を連れた幸薄げな若造という、側から見れば羨ましがられるであろうシチュエーションなのだが……。
私としては正直、嬉しさより不安しかない。
多分、二人とも私のボ◯ドごっこの為に気を利かせてやってくれているのだろうが……。
だって、レオンハート姉妹だよ?
何かしらのトラブルがありそうで怖いんだよなぁ……。
何かあればすぐ大暴れするし、二人とも反撃すると大概オーバーキルになるし……。
はぁ、お願いだから何事もありませんように……。
などと本人達にバレたらタダでは済まなさそうなことを考えていると、レオニーが豊かな胸を私の腕に押し付けながら、
「殿下、VIPルームを用意させておりますので、そちらへ参りましょう」
と、そう言ってきたが、
「いや、いい」
私は珍しく、彼女の提案を断った。
「さあ、参りま……え?」
すると彼女は私が断ると思っていなかったのか、ポカンとしてしまった。
だって、普通に楽しみたいじゃないか。
折角カジノの雰囲気を味わいにきたのに別室に隔離され、かしずかれながら遊んでも多分楽しくないからな。
だから私は、珍しくレオニーの好意を断ったのだ。
「今日は一般客に混じって遊びたいから、取り敢えず今はいい」
と言うことで、戸惑う彼女に私がもう一度そう告げると、
「そんな!高貴なる殿下が有象無象の連中と一緒など!」
レオニーはまだ食い下がってきたが……残念ながら今日の私はノーと言える男なのだ!
「しつこい、お仕置き(左遷)されたのか?」
と、高圧的に彼女の提案を再度断った。
「……か、かしこまりました……ハァハァ(はぅ!高圧的な口調の殿下も素敵!癖になりそう……あと、お仕置き……是非されてみたい!)」
するとレオニーはそう答えてから、俯いて肩を震わせた。
ちょっと可哀想な気もしたが……まあ、彼女は私に対して過保護過ぎるから、たまにはこう言うのも必要だろう。
などと思っていると横から、
「な、なあシャケ……」
スカートを装備したことによってメンタルが大幅に弱体化したレオノールが、おずおずと言ってきた。
「ん?何?」
「え、えーと……取り敢えず、何か飲んで落ち着かないか?」
ん?ドリンクか……ありだな!
確かにカジノって、みんなオシャレなグラスを持っているイメージがあるし。
「なるほど、それはいい考えだな、そうしよう!」
なので私はそれを快諾した。
「でしたら殿下、VIPルームの専用バーで……」
すると横からめげずに提案してきたレオニーの言葉を、
「さあ、二人共行こうか」
と私はスルーしてバーカンターへ歩き出し、三人並んでカウンターに座った。
それから私は気取って指をパチンと鳴らし、バーテンダーを呼ぶと、
「マティーニを……シェイクで」
と更に気取りながら注文し、
「レディ達には……」
と続けてそうキメようとしたのだが……。
「ウォッカにレモンを絞って」
「ラムをストレートで」
その前に両隣にいる美女二人は自分で注文してしまった……。
「……」
ちょっと悲しい。
それにしても、二人のチョイスが凄い。
だって両方とも火が付くアルコール度数の酒だよ?
流石は獅子姉妹……。
と私が驚き半分、呆れ半分な感じでそう思っている間に、目の前ではバーテンダーが軽快な手つきでジンとベルモットを入れたシェイカーを振り始めた。
そして、シェイクが終わったそれを優雅な手つきでカクテルグラスに注ぎ、最後にオリーブの実を添えて私の前に置いた。
「マティーニでございます」
「ありがとう」
私は礼を言ってそれを受け取り、目を輝かせた。
おお、これがマティーニか!
何となく大人な感じがしてカッコいいから、頼んでみたかったんだよ。
私は嬉しくなり、初めて飲むこのシンプルだが美しいカクテルを掲げ、美女二人を見ながらキメ顔で言った。
「レオンハート姉妹に乾杯」
勿論、イタイことしてるのは分かってますがね。
するとレオニーは少し驚いたような顔をした後、
「うふふ……(キメ顔の殿下も素敵!)」
と何も言わずに妖艶な笑みを浮かべてグラスを掲げ、レオノールは、
「お、シャケにしてはいいこと言うじゃねーか!」
と嬉しそうに言ってから同じくグラスを掲げ、姉妹仲良く酒を煽った。
あれを煽るとか、凄いな……。
私はレオンハート姉妹のアルコール耐性に驚きながら、自分のグラスを口含んだ、その瞬間。
「うっ!……ゲホケボ!」
予想外のアルコールの強さにむせてしまった。
調子に乗って頼んだ結果がこれではカッコ悪いなぁ……。
と私が少し凹んでいると、
「おい、シャケ大丈夫か?」
と面倒見のいいレオノールがそう言ってチェイサー(水)を差し出してくれた。
「あ、ありがとう……レオノール」
私は彼女の優しさに感謝しながら水を飲んで落ち着いた。
あ、そう言えばレオニーは?
過保護気味な彼女こそ、このような場面で世話を焼いてくれそうなものなのだが……え?
そう思った瞬間、私の目には衝撃の光景が飛び込んできた。
何と……。
「ちょっと来いっ!」
「うわ!な、何を!?」
グラスに入った氷よりも冷たそうな目をしたレオニーが、先程マティーニを作ってくれたバーテンをズルズルと引きずりながらバックヤードに消えて行ったのだ。
「「ええ……」」
流石にこれには私もレオノールもドン引きである。
暫くするとレオニーだけ帰ってきて、
「失礼致しました、あの者には不手際がありましたので奥で少々教育をして参りました」
と言って慇懃に頭を下げた。
「そうなの……」
あのバーテンさん何も悪くないのに……悪いのは私なのに可哀想だ……。
私はこれ以上バーのスタッフから犠牲者を出す前に移動することに決め、マティーニを強引に煽ってから、
「……じゃ、じゃあ次はいよいよゲームをしようかな」
取り敢えずそう言って、手近なテーブルに移動した。
すると、そこはポーカーをする卓で、若い女性がディーラーをしていた。
「では宜しく」
私がそう言うと、
「はい、畏まりました」
彼女はそう答えてから見事な手捌きでカードのシャッフルを始めた。
……。
…………。
………………。
それから一度勝負したところで……。
「お客様がジャックのペア、ワタクシがキングのスリーカードですので、お客様の負けです」
普通に負けた。
最初だし、まあこんなもんだよなぁ、とか思っていたら……横でレオニーが動く気配がした。
あ、なんか嫌な予感がす……。
「きゃあああああああ!」
る、と私が心の中で言い終わらないうちに、ディーラーがレオニーに連行されて行ってしまった。
「「……」」
その後、テーブルからディーラーがいなくなってしまい、仕方がないので気を取りなおして別のテーブルへ移動し、今度はブラックジャックを始めた直後。
「ヒット……合計25でバースト、お客様の負け……え?ちょ!?ああああああ!」
私が負けた瞬間、またディーラーがレオニーに連行されてしまったのだった。
「「……」」
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