第311話「00(ダブルオー)シャケ、カジノロワイヤル⑧」

 私の頑張りで強引にレオニーを落とし、レオノールとの感動の和解を演出した後……。


「く、頑張ったのに何でこんな目に……」


 とタンコブができてジンジンする頭を抑えながら私はボヤいた。


 実は先程、不憫なレオノールの為に私がレオニーに対して素直になれ!と、パワハラ行為にまで手を染めて成果を出したにも関わらず、彼女は何故かブチギレたのだ。


 そして、私は思った。


 これ……おかしくない?


 こう言うのってルーシーとかリゼットなんかの牛族の役割だろう!


 私は一応イケメンで王子だよ!?


 キャラ的にNGじゃないの!?


 そんな私の心中を知ってか知らずか、


「うるせー!姉さんをキズモノにする気か!?このエロシャケが!……ぎゃん!」


「この愚妹が!殿下になんてことを!」


 続けて私を罵倒してくるレオノールが、いつの間にか立ち直った上、これまたキレ気味のレオニーにゲンコツを落とされて、うずくまった。


「で、でもシャケが姉さんに酷いことを……」


 レオノールはレオニーの為に怒ったのだと、必死に説明しようとするが……。


「黙りなさい!全く、貴方とはしっかり話をする必要があるようね」


 怒り狂うレオニーに一喝され、首根っこを掴まれて別室へズルズルと引きずられて行った。


「え?話!?本当!?嬉しい!」

 

 だが当のレオノールは何を勘違いしたか、レオニーと話が出来ると喜んでいる。


 怒る姉獅子に嬉しそうに引きずられる妹獅子……シュールだな……。


 さてと……目的は達成したし、私はもういいだろう。


 絶対何かありそうだし、巻き込まれる前に一旦離れよう。

 

 後は一人で頑張れよ、レオノール。


 心の中で彼女にエールを送ると、


「姉妹水入らずを邪魔するのは悪いから、私はコーヒーでも飲みながら先に下で待ってるからね」


 私はそう言って部屋を離れたのだった。


 するとその直後、背後から……。


「レオノール!折角いいところだったのに!よくも邪魔したわね!」


「え?え!?あ、やめて!痛い!痛いよ姉さん!」


 叫び声とドタバタ暴れる音が聞こえてきたが、私は聞こえなかったことにして、そのまま階下へと向かったのだった。


 まあ、大丈夫だろ……多分。




 それから約三十分後。


 私がエントランスに到着した豪奢な馬車の前で二人を待っていると……。


「あ、レオニー……と、レオニー?」


 上品かつセクシーなイブニングドレスを纏ったレオニー×2が、こちらへ向かって歩いてきて、色々と訳が分からず私は困惑した。


 あれ?レオニーって分身の術とか使えたっけ?


 やはり役職とか階級が上がると、特殊な能力が増えたり強くなったりするのか?


 などと考えているうちに顔も肌の色も、そして服装までも同じ二人のレオニーが私の元までやってきた。


 因みに、見た感じ二人のうち一人はいつものレオニー(その一)で、もう一人(レオニーそのニ)は何だか自信が無さそうな感じで、レオニー(その一)の背中に隠れてオドオドしながら歩いてくる。


「大変お待たせしました、話が長引いてしまいまして……」


 そして私の前に現れたレオニー(その一)が、いつものように慇懃に一礼した後、私に謝罪した。


 それから彼女は、自分の背中に隠れているレオニー(その二)に対して、


「ほら!何やってるの!貴方もお待たせしてしまったことをお詫びしなさい!」


 と、キツめに促した。


「は、はい……」


 すると、レオニー(そのニ)は弱々しい声でそう言ってから、レオニー(その一)の背中から出てきた。


 だが、レオニー(そのニ)は恥ずかしくてたまらないらしく、内股な感じで立ったままソワソワしている。

 

 え?何これ?どゆこと?


 二人とも見た目は完全に同じなんだが!?


 いや、普通に考えればそのニはレオノールだって思うところなんだけど……。


 彼女って日焼けしてるし、ガサツでワイルドだから絶対ありえないと思うのだ……。


 だから今、私は軽くパニックなのだ。


 これは一体誰なのだろう?と。


 うーん……まあ、取り敢えず素直にレオニー(その一)に聞いてみようか。


「ねえレオニー、君は遂に分身が出来るようになったのかい?」


 私が割と真面目に問うと、彼女はクスリと笑ってから、


「ふふ、殿下が冗談を仰るとは珍しくですね」


 と返してきた。


「いや、そう言う訳では……」


 と、言いながら視線をレオニー(そのニ)へ向けた、その時。


「や、やめろシャケ!こっちみんな!……うう……こんな格好恥ずかし過ぎるし……脚がスースーする……」


 顔を真っ赤にしたレオニー(そのニ)改めレオノール(イブニングドレスver)が涙目で叫んだ。


「ええ!?これレオノールなの!?」


 思わず私がそう叫ぶと、


「そ、そうだよ!アタシはレオノールだ!文句あるか!?」


 彼女は大きく露出している胸元を両手で掻き抱いてしゃがみ込み、こちらを睨みながら叫んだ。


「文句はないけど……いや、ビックリしたよ、レオニーとそっくり過ぎてまるで見分けがつかなかった」


「姉さんみたいって言ってくれるのは嬉しいけど……やっぱり恥ずかしい……うう〜」


 私がそう言うと、レオノールは顔を赤らめたまま少し嬉しそうな顔をした。


 それから、


「でも何で?レオノールって日焼けしてるからもっと黒いはずじゃ……?」


 と私が疑問を口にすると、すぐにレオニー(本物)が答えてくれた。


「はい、それは殿下の仰る通り、愚妹は海の女ですから日焼けして色黒だったのですが……最近は室内でのデスクワークが中心だった為、だいぶ本来の肌の色に戻ったようなのです、それに加えて今回、ドレスに合うようにメイクも施しましたので余計に分かりにくくなっているのです」


「な、なるほど……」


 そうか、そうだよなぁ。


 海から離れて王宮にいれば日焼けした肌は少しづつ元に戻るし、そんな彼女を毎日側で見ていた所為で逆に変化に気づけなかったのか……。


 つまり今のレオノールは黒獅子を卒業して……金獅子!だとレオニーと紛らわしいから……白獅子だな!


「うう……姉さんとお揃いなのは嬉しいけど……このドレス、大きくスリットが入ってて露出度高めだし、やっぱりスースーするから落ち着かないよ……」


 そして、目の前ではレオノールが無垢な少女のように恥じらっている。


 ……ちょっと可愛いかも?


 そう思って調子に乗った私が、


「まあ、頑張れシロニー!あとドレス似合ってるよ!」


 と冗談っぽく言った瞬間。


「ああん?舐めてんのか!?それにドレスはお前のリクエストだろうが!……あ、ありがとよ」


 いつものレオノールに戻って威嚇してきて、


「ひぃ!?」


 と、私が怯えていると横でレオニーが再びクスリと笑い、


「殿下、予定の時間をだいぶ過ぎておりますので、そろそろ参りましょうか」


 と言って助けてくれた。


 こうして私達は何の憂いもなく、カジノへ遊びに出掛けることが出来たのだった。





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