第310話「00(ダブルオー)シャケ、カジノロワイヤル⑦」
躊躇ったり迷ったりしている場合ではない!
やるしかのだ!……パワハラを!
私が上司としてグイグイレオニーに迫り、無理矢理にでも本心を喋らせて強引に和解させるのだ!
これは現代なら確実に最悪なパワハラだが、都合のいいことに、この世界のこの時代にそれを禁止するルールはない!
しかも私は王族!
だから大丈夫!……多分。
……実はそういうルールがあって、後で訴えられたりしないよね?
まあ、どのみちこれに失敗すれば全員に悲惨な未来が待ってるのだから、やるしかないのだが。
と言うことで、私は悲壮な決意と共に強硬策で行くに決めたのだが……。
さてさて、では具体的にどう言う流れで行くべきかを考えなければ。
まず、いつ、やるか。
しつこいが時間が無いから……この後すぐやろう!
夕方にレオニーが私を迎えに来るから、その時に部屋で話をつけてやる!
それと何度も言っているが小細工をしている時間は無いので、それは考え……いや、一つだけ必要か。
いや、むしろ一番重要なことかもしれないな……うん、レオニーが来る前に忘れずに準備しておかなければ。
それではいよいよ肝心のレオニーをどうやって追い込むか、だが……どうしようかな。
強引にやる!と決めたのはいいが……正直、怖い……。
だって……あのレオニーだよ?
やり過ぎて逆上されたら私など瞬殺だ。
良くて病院送り、最悪命の危機だ。
だから、ただ頭ごなしに怒鳴りつけたり、高圧的に命令するというのは出来れば避けたい。
何か上手く私の意思を伝えて、更に彼女にそれを強要する手段はないものか……ん?あれは……?
その時、私が頭を悩ませながら何気なく視線を向けた先に、今夜の為に準備されたタキシードが目に入った。
……ん?あれは……っ!
その瞬間、私は閃いた!
そうだ!ジェームズ=ボ◯ドだ!
そう、今日の私は女性を手玉に取る傲岸不遜なスパイ(気分)!
残念ながら彼のような男としての魅力など私にはカケラも無いが、その優雅で余裕のある態度と女性を思い通りにしてしまうトークなどは参考になるだろう。
えーと……どんな感じだったかな?
確か、あの作中だと……。
と、作戦の内容が決まった私は前世の記憶にあるスパイ映画の内容を思い出しながら、役作りを始めたのだった。
それから数時間後。
私はタキシードに着替え、部屋でレオニーを待ち構えていた。
それから、
「そろそろか……」
若干の緊張をしながら時計を確認して呟いた。
そして、何気なくレオノールの部屋のドアに視線を向けたところで、
「失礼致します、殿下、お迎えにあがりました」
時間ピッタリにレオニーが部屋にやってきた。
彼女は今、露出度高めのセクシーなイブニングドレスに身を包み、普段とは違った妖艶な美しさを醸し出している。
そんな彼女に向かって私は、
「どうぞ……おや、君は誰かな?」
微笑をうかべながら、わざとらしく言った。
「え?あの……」
すると、レオニーは私のセリフの意味が分からず、動揺した。
ちょっと可愛い。
私はそんな彼女に向かって、
「こんな美女と密会しているところをレオニーに見られたら大目玉だ」
と告げてウインクして見せる。
「え?殿下……か、からかわないで下さいませ……」
すると、ここでようやく言葉の意味を理解出来たレオニーは顔を赤らめ、恥ずかしいそうに顔を背けた。
「本当さ、今日の君は一段と美しいよ」
「はぅ……あ、ありがとう……ございます」
それから私は彼女の肩を抱き、
「実は出掛ける前に大切な話があるんだ、少しあっちで話そう」
「ふぇ!?」
驚いてリゼットみたいな声をあげる彼女を強引にソファに座らせた。
因みに対面ではなく、私の隣に。
理由は何となく物理的に距離が近い方が言うことを聞かせられそうな気がしたから。
さてと、ここまでは予定通りだ。
いよいよ本題に入る訳だが……緊張するなぁ。
もし、レオノールのことを切り出した瞬間に逃げられたり、引っ叩かれたら、と思うと怖い……。
でもここで逃げる訳にはいかない!
私の未来が掛かっているのだから!
それに今の私ボ◯ドなのだ!
ピンチの時でも動揺せず、優雅で余裕のある態度でいなければ!
さあ、やるぞ!
そのように心の中で叫んだ私は、隣でソワソワしているレオニーの目を真っ直ぐに見て言った。
「なあ、レオニー……」
「はひ!?」
上司とこんな近くで向き合っている所為か、珍しく緊張しているらしいレオニーの、返事をした声が上擦っている。
「実は……君の妹、レオノールのことで話がある」
「……はい」
次に私がそう告げると、予想通りレオニーはいきなり真顔に戻り、冷たい目で私を見返してきた。
怖っ!
でも……ここが正念場だ!
勢いと上司の圧で乗り切るぞ!
私は努めて冷静を装いながら、微笑を浮かべたまま続ける。
「気を悪くしないで貰いたいのだが……先程の君とルーシーの話が聞こえてしまってね……」
「……左様でございますか、ですが……」
と無表情になったレオニーが何が言おうとしたところで、
「レオニー!」
「きゃ!」
私は彼女に近づき、半ば押し倒すような形で壁ドン……いや、ソファドン?をした。
それから再び動揺した彼女に向かって、
「レオニー……余計な言葉は言わない。レオノールの気持ちを受け入れろ!」
私は最大限に上司としての圧をかけながら告げた。
「で、殿下……急にそんなことを言われても、私……」
するとレオニーは顔を真っ赤にして目を逸らし、両手で私の胸を弱々しく押し返そうしながら言った。
よし効いている!
流石のレオニーも奇襲と上司の圧に負けて動揺しているぞ!
このまま一気に畳み掛ける!
「レオニー、いい加減に素直になれ」
私はそう言って更に彼女に迫った。
「そんな……まだ心の準備が……私、怖いです……」
「恥ずかしがる必要はないし、怖いのははじめだけさ、だから……ね?力を抜いて……受け入れるんだ」
ここで弱気になったのか、彼女の抵抗が弱まったのを感じた私は、一気にキメにいくことにした。
「うぅ……そんな強引に……」
「いいから受け入れるんだ……レオノールを!」
「はぅ……でもでもぉ……」
ここでレオニーは私の猛攻の前に完全に腰砕になり、もはや殆ど抵抗出来なくなっていた。
よし!トドメだぁ!
私は心中でそう叫んだ後、更に顔を近づけ……。
「うぅ……優しく……して下さいませ……」
などと潤んだ目でこちらを見てくる彼女の耳元で囁く。
「安心しろレオニー……私の一番(の部下)は君だ……だから、大人しく私の言うこと(業務命令)をきけ……悪いようにはしないから……さもないとお仕置き(左遷)だぞ?」
そして、最低最悪のパワハラ上司的なセリフ叩き込んで彼女を脅迫した。
「も、もう……好きにして下さいませ……」
すると彼女は完全に抵抗を諦めて、全身の力を抜いたのがわかった。
「いい子だレオニー……では早速、寝室……」
「ふぇ!?い、今からで……ございますか!?……や、優しくして……」
レオニーが少し驚いたような、何かを期待するな目でこちらを見た。
だが、彼女の好きにしろ、という言質をとった私は躊躇せず、
「……の方を見てくれ」
と言うと、レオノールの寝室の方を見た。
「欲しいです……ふぇ?」
レオニーもつられてそちらを見るとドアが開き、そこには……。
「ね、姉さん……アタシ……」
何故か赤い顔をしたレオノールが立っていた。
「レオノール!?」
レオニーは驚いて目を見開き、それから……。
「あ、あの!これは……その……違うのよ!」
と、カッコ悪く上司の圧に負けたことを隠す為か、慌てだしたのだった。
それを見た私は、レオニーは姉としてカッコ悪いところを妹に見られちゃったんだもんなぁ、言い訳もしたくなるよなぁ、と微笑ましく思ったのだった。
それから私はレオニーから離れると、今度はレオノールの方へ行き、
「待たせたねレオノール、君のお姉さんがなかなか強情でね……では、あとは姉妹水入らずで話をしてくれ、私はラウンジでコーヒーでも飲んでるから……」
と、爽やかな笑顔でそう言うと……。
「シャケ……テメェ!姉さんになんてことしやがる!」
何故か怒り狂ったレオノールに胸ぐらを掴まれて、怒られてしまったのだった。
「え!?頑張ったのに何でー!?」
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