第307話「00(ダブルオー)シャケ、カジノロワイヤル④」
一時的に別行動を取っていた空気を読まない『チーム雌ライオン』が戻ってきて、牛族のアイデンティティーについて考えさせられた後。
「……という訳で明日、街へ遊びに出ようと思っているのだけど……」
私はソファの対面に座っているレオニーに事情を説明し、助言を求めた。
あ、レオノールはその隣で涙目のまま大人しくしている。
因みにルーシーはポーターの仕事があるので、既に部屋にはいない。
そう言えば先程、彼女が何か言い掛けていたが……一体何だったのだろうか?
まあ、重要なことなら向こうからまたやって来るだろう。
さてと、では明日のプランを考えようか。
「なるほど、左様でございますか……」
私の話を聞いたレオニーは難しい顔でそう言ってから、暫く考えた後。
「正直申しまして、私も殿方の遊びには詳しくありません。ですのでここは業腹ではありますが、この愚妹のいう通り、カジノへお出掛けされるのが宜しいかと」
何気にレオノールをディスりながら、少し申し訳なさそうに言った。
「酷い……」
「やはりそうか……では予定通り、明日はカジノへ出掛けるとしよう」
更に凹むレオノールに苦笑しながら、私はそう答えた。
いやーこの間、急に父上に遊んでこい!と言われ、はじめは困惑していた私だったが、レオンハート姉妹に相談したお陰で安心できた。
彼女達がオススメするのならきっと大丈夫だろう。
うん、安心したら気持ちに余裕ができてきて、明日のカジノがちょっと楽しみになってきたぞ。
まあ、もちろん儲けてやる!とは考えていないが。
何と言っても、私は昔から運がなく、ギャンブルには向いていないという自覚があるからな。
だから明日はカジノという日常からかけ離れた場所の雰囲気を楽しみつつ、気持ちよく負けてこようと思う。
「ありがとうレオニー、お掛けで明日が楽しみになってきたよ」
気持ちに余裕が出来た私は、笑顔でレオニーに礼を言った。
「そんな!恐れ多いことでございます」
するとレオニーが嬉しそうに言って、恭しく頭を下げた。
そして、何だかテンションが上がってきた私は、調子に乗って下らないことを言い出してしまう。
「うん、あとは……そうだ!折角だからタキシードでキメて、現地でマティーニでも頼んでジェームズ=ボ◯ドごっこでもしようかな」
「殿下がタキシードやカクテル!気品ある殿下にはさぞかしお似合いになることでしょう!ぐへへ……しかし殿下」
それを聞いたレオニーは快く賛成してくれた後、
「ん?何?」
「ジェームズ=ボ◯ドというのは……?」
聞き覚えのない人物の名前について問うてきた。
「え?」
ああ!しまった!
焦った私は慌てて説明を始める。
「え、えーと……スパイ映画……いや!何処かで読んだスパイ小説の主人公のことなんだけど……」
……。
…………。
………………。
それから私はレオニーに、酒と女とギャンブルが大好きで、躊躇なくあちこちで堂々と名前を名乗り、派手に銃撃戦や爆発を起こす、とても暗躍するのが仕事のスパイとは思えないような大活躍をする色男について説明した。
「なるほど……それはスパイ失格ですね」
真顔のレオニーの第一声はそれだった。
まあ、そうなるよね……。
どんな職業でも、自分の業種がドラマや小説になると、現実にこんなのあり得ないだろ?と興醒めしてしまうことは多いと思うし……。
「あはは、あくまで娯楽作品だからね……」
私は苦笑しながらそう言った。
「もちろん私も娯楽作品としては良いと思いますが……ところで、殿下はこの色男に憧れておられるのですか?」
するとそレオニーはそう聞いてきた。
「え?ああ、まあ色々な女性に手を付けまくる部分を除けばね……多く女性をその気にさせておいてほったらかしなんて、現実で考えたら最低だし……ん!?イタタタタタタ!」
私がそう言った瞬間、何故か無表情のレオニーとレオノールが私のほっぺたをつねった。
「「殿下(お前が)がそれを言いますか(言うのか)!?」」
「うう……痛い!……何するの!?」
思わず私が叫ぶと、
「失礼しました、全てのヒロインの気持ちが一つになり、身体が勝手に……」
ジト目の二人に睨まれてしまった。
ええ!?何で!?
それから、
「……はぁ、何なんだよ……えーと兎に角、私はその主人公の女性を持て遊ぶような部分以外に憧れて……だから明日のカジノが楽しみだな、と思った訳だ」
ほっぺたを摩りながら、私は涙目で続きを説明した。
それを聞いたレオニーは少し考える素振りを見せ、
「なるほど……酒、ギャンブル……女……女!そうだ!」
とブツブツ言った後、何かを思いついたらしく、突然テンション高めの声を上げて目を輝かせた。
「!?」
それから、
「殿下!ご要望を承りました!そのように手配致します!うふふ……」
レオニーが若干怪しい感じのする笑みを浮かべてそう言った。
え?そのように、って?……ああ、カジノまでの馬車とか、警護の手配かな?
まあ、彼女がそう言うなら大丈夫だろうし、任せるとしようか。
さて、では明日の予定は決まったし、私は……。
「じゃあ頼むね、レオニー。さて、私は残りの仕事を……」
と言い掛けた瞬間。
「なりません」
真面目な顔の彼女にキッパリと言われてしまった。
「え?」
ここまでレオニーにハッキリと否定されたことはなかったので、私は少し驚いた。
それから彼女は心配そうな顔で告げる。
「どう見ても今の殿下は相当に疲労されております。ですので、どうか本日はこのままお休み下さいませ」
「え?でも……」
それでも仕事人間の私は反論し掛けたが、
「なりません。殿下のお仕事は可能な限り我々が代行致しますので、本日は何卒お休み下さいませ」
有無を言わせない感じで言われてしまった。
彼女の目は真剣そのもので、心から私を心配してくれているのが伝わってきた。
なので私は、素直に彼女の言に従うことに決めた。
「……分かったよ、では宜しく頼むね、レオニー」
私が苦笑しながらそう言うと、
「は!ご理解頂きありがどうございます」
レオニーは恭しく頭を下げた。
「では私はお言葉に甘えて休むとするよ、おやすみレオニー、レオノール」
そして、まだ日が高いにも関わらず、私は真っ直ぐ寝室へと向かい、そのまま翌朝まで眠り続けたのだった。
「おやすみなさいませ」
「おう!しっかり休めよシャケ……イテッ!」
「この無礼者め!」
「うう……ごめんなさい」
シャケが寝室へ引き上げた直後。
シャケに向かって深々と頭を下げていたレオニーは、ドアが閉まった瞬間に頭を上げて、いつもの無表情に戻ると、
「ではレオノール、私はこれから明日の準備をするから、貴方は殿下の業務を明日の朝までに全て片付けておきなさい」
冷たい声でレオノールに命じた。
「え!?仕事ってアタシと姉さんの二人でやるんじゃないの!?」
すると予想外の言葉が飛んできたレオノールは目を見開き、慌ててそう言った。
「全く……さっきの話を聞いていなかったの?私は今から明日の準備があると言ったでしょう?だから、殿下の業務は全部、貴方一人で処理しなさい」
「ガーン!∑(゚Д゚)」
姉妹で楽しく会話しながら仕事が出来ると思い込んでいたレオノールは絶望した。
「ではしっかりやりなさい」
レオニーはそれだけ言い残すとシュバッ!と消えた。
「……はぁ」
残されたレオノールはガックリと肩を落とし、書類の山を前にただただ絶望するしかなかったのだった。
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