第305話「00(ダブルオー)シャケ、カジノロワイヤル②」
ムラーン=ジュール行きの馬車の中、レオノールの膝の上で私の意識が飛んでから数時間後。
「おい、シャケ」
彼女の声で私は微かに目覚めた。
「……ん?」
だが殆ど覚醒していない為、状況が理解出来ず、横になったまま私はボンヤリと横たわっていた。
「シャケ、もうすぐムラーン=ジュールの宿屋に着くから一旦起きろ」
すると再び頭上から声がして、今度は軽く身体をゆすられた。
「え?……着く?宿屋?……ああ、そんなに寝てしまったのか……」
そこまで言われて漸く自分の置かれた状況に気付いた私は、身体を起こした。
「ああ、よく寝てたぜ?」
「ありがとう、君のお陰だ」
私はある意味、最高に贅沢な枕を提供してくれたレオノールに感謝し、素直にお礼を言った。
「お、おう……どういたしまて……」
すると、レオノールは照れながら視線を手に持っている書類に戻したのだった。
それから数分後、私達を乗せた馬車はムラーン=ジュールの高級宿屋のエントランスに滑り込み、出迎えの人員が並んでいるのが見えた。
続いて馬車が完全に止まり、ドアが開かれるとそこには……。
「お待ちしておりました殿下、長旅お疲れ様でございます」
メイド服姿のレオニーが満面の笑みで立っており、そう言ってから深々と頭を下げた。
久しぶりに彼女の姿を見た私は何だか嬉しくなり、
「やあレオニー、出迎えありがとう」
と朗らかに言った。
そして、私に続いて馬車から降りてきたレオノールも、
「姉さん、久しぶりです!」
と、とても嬉しそうに言ったのだが、
「ん?ああ、いたの?気付かなかったわ」
相変わらずの塩対応が待っていた。
「そんなぁ、姉さんの意地悪!」
レオノールは涙目で頬を膨らますが、レオニーは完全に彼女をスルーした。
それから私の方を見て、
「ところで殿下……お顔を拝見した限り随分とお疲れのご様子でございますが……如何されました?」
体調の悪さに気付いたレオニーが気遣わしげにそう言ってくれた。
私は彼女の気遣いに感謝し、嬉しく思いながら答える。
「え?ああ、ここ最近仕事が立て込んでいてね……相変わらず手際が悪くてこのザマさ」
「そんな!殿下の手際が悪いなどありえません!全ては殿下にご負担を強いている連中(猛獣達)と、殿下をお支え出来ていないスタッフ共が……特にこの愚妹が悪いのです!」
するとレオニーが怒りを露わにそう叫んだ。
因みに私は、
「……(まあ、不可抗力とは言え、その原因の一部に君も入っているのだけどね……)」
と心の中でツッコミながら苦笑した。
「いや、本当に悪いのは私だし、周りのスタッフは頑張ってくれているよ?特に君の妹はよく尽くしてくれているし」
それから誤解を解く為に部下達、特にレオノールを褒めたのだが。
「む、左様でございますか……」
レオニーは何故かあまり嬉しそうではなかった。
うーん、もしかして妹を褒められてジェラシー感じてる?……いや、彼女に限ってそんな筈は……まあ一応フォロー?しておこうか。
「まあ、ちょっとだけ酒癖は良くなかったりするけどね」
そう思った私が、冗談ぽく言うと、
「おいバカ、シャケ!やめろ!」
と横でレオノールが狼狽えながら叫んだが、レオニーが恐ろしい笑顔で先を促してきた。
「ほう、それは大変興味深いお話ですね……殿下、もう少しお伺いしても?」
あれ?なんか怒ってる?
「うん、えーと……」
それから私が続きを話そうとすると、レオノールが再び阻止しにきたが、
「ちょ、やめ……ひぃ!?」
「黙れ」
レオニーのひと睨みで黙らされた。
……うん、仲の良い姉妹っていいよね!
「殿下、続きをお願いします」
「う、うん、毎晩寝る前にラム酒かウイスキーを一ビンは空けるし、外へ飲みに行けば確実に喧嘩するし、朝までコースだし……」
「おい!本当にやめ……むが!」
ここで暴れ出したレオノールの顔を、レオニーが躊躇なく鷲掴みにして黙らせた。
「それで?」
「……ああ、あとギャンブルも好きだし……あ、そうそう!実はルーアブルにいた昨日、一昨日も私と一緒に朝まで楽しんだんだよ」
次に、私がそう言ってレオノールと飲み仲間的な仲良しアピールをした瞬間。
「は?朝まで一緒に……楽しんだ?二日続けて?」
レオニーの周辺の温度が氷点下まで下がった気がした。
え?なんで?
まあいいか。
私は取り敢えずそのまま話を続ける。
「そうなんだよ、全く君の妹の体力は底なしだね!男の私は情けなくなるよ、お陰で少し……いや、かなり寝不足だし……はは」
「底なし!?寝不足!?」
それから私がそう言ったと同時に、レオニーからドス黒いオーラが溢れ出した気がした。
うーん、やはり私は疲れてるな……。
「むがぁ!?」
あとレオニーの手に更に力がこもったようで、レオノールの苦しみ方が増した気がした。
む?もしや何か良くないことでも言ってしまったのだろうか?
だったらレオノールの良いところをちゃんとアピールしてあげないとな!
「でも、やはり君の妹だけあって優しいよ?」
「え?」
「実は先程、私が馬車の中で過労と睡眠不足で限界なのに無理して起きていようとしたら、心配したレオノールが強引に私を寝かせてくれてね……膝枕で」
「膝枕!?」
何故かレオニーが目を見開いた。
「お陰で仮眠を取れてスッキリだ、本当に感謝てるよ」
と私がレオノールに感謝していることを伝えたのだが、私が言い終わったところで……。
「スッキリ!?……ぐぬぬぬぬぬ!……殿下、大変申し訳ありませんが、私は殺ることが出来てしまいましたので、先にお部屋へ移動して頂けますか?」
何故かそう告げられた。
「え?あ、うん、分かった……ではレオニー、レオノール、後でね」
「はい、では後ほど」
「も、もがぁ〜!?」
レオニーは慇懃に頭を下げてそう言った後、レオノールを引きずりながら去っていった。
うーん、何故かあまり良く無さそうな雰囲気だったけど……姉妹のプライベートな事情に口を挟むのは良くないだろうし、素直に先に行くとしようか。
「お客様、お荷物をお持ちするッス!」
「ん?ああ、ありがとう」
私はどこか聞き覚えのある声のポーターに荷物を預けると一緒に歩き始めた。
「この淫乱女め!私の手で成敗してやる!……奥義!」
「ちょ!?やめて姉さん!殺さないでー!」
そして、エントランスを潜った辺りで背後から何やら罵声や悲鳴が聞こえたような気がしたが……多分、気の所為だろう。
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