第291話「シャケ、出張する①」

 皆様こんにちは、相変わらずあまり出番の無い主人公兼社畜のマクシミリアンです。


 現在、私は急に入った出張の為、港町ルーアブルを目指して馬車に揺られています。


 全く、文字通り死ぬ程忙しいというのに突然の出張など勘弁してもらいたいものです。


 何故なら、こちらは間も無く優秀な人材が二人も抜けてしまうので、今のうちに少しでも仕事を片付けておきたいから。


 しかし、理不尽にもそれを命じた相手が相手なだけに、無力な私はどうしようもないのです。


 え?お前のロイヤルパワーで何とかしろって?


 それが無理なんですよねー……だって相手が親、つまり国王で、ロイヤルパワーの頂点なんですから……。


 しかも、その父上に直接呼ばれて、


「忙しいところ悪いけど、僕の代わりにちょっと式典に出てよ」


 と言われてしまったら無力なら私にはどうしようもありません。


 正直それを言われた瞬間私は、


『そんなちょっと大根買って来て?ぐらいの気軽さでいうのはどうよ?あと忙しいのが分かってるならやめてくれよ……』


 と心の中でツッコミを入れてしまいました。


 しかも、


「ついでに少し遊んできなさい」


 と、お小遣いまで貰いました。


 これは今までの私の頑張りを父上達が評価してくれた証!……などではありません。


 絶対に。


 恐らく父上は、


『仕事が忙しくてロクに遊べていないのだろう?ストレスでまた女やギャンブルでやらかすと困るから、これでガス抜きしてこい無能めが!』


 と言いたいに違いありません。


 まあ、前科があるので仕方ないのですが、信用がないって辛いですよね。


 はぁ、こちらとしては全くそんなつもりはないのに……。


 というか、今は一分一秒でも仕事に時間を使いたいですし、そもそも忙し過ぎて悪いことをする時間そのものが無いのですがね。


 それに……実は私、遊ぶってどうすればいいのか、よく分からないのです。


 現代日本で生きていた前世では基本的にインドア派(と言う名の陰キャ)だったので、動画サイトでホ◯メンの配信を見るとか、カクヨムで底辺作家をするとか、ジムで筋トレするぐらいでしたし……。


 あと世間一般的に男の遊びは飲む、打つ、買う、などと言われていますが、正直どれも殆ど興味がないんですよ。


 飲酒は飲み会の時ぐらいでしたし、ギャンブルも殆どやったことが無いですし、夜のお店なども無縁でしたし……。


 特に最後の綺麗な女性が出てきてお酒を飲んだり、ムフフなことをするお店などは今現在、私の周りに美女、美少女が溢れていて目が肥えてしまっている所為なのか、全く興味がないのですよ。


 というか、そもそも遊ぶ時間があったら寝ていたいのが本音です。


 でも、父上に遊ぶことを命じられてしまった訳で、何もしなかったら逆に良くないと思うのです。


 どうしたものでしょうか?うーん……まあ、今回は無難に観光でもしてやり過ごすとしましょうか。


 あ、それならお土産とか買って帰った方がいいのでしょうか?


 父上の好みって何だっけ?


 まあ、どこにでもありそうな温泉饅頭とか、野沢菜とか、木刀とか適当に買っていけばいいでしょう。


 私からの無言の抗議という意味を込めて贈ろうと思います。


 しばかれそうな気もしますが……。


 とまあ、そんな感じで色々考えながら、更に手元で同時に書類仕事をしていたりするので、私は車窓から流れ行く美しい田園風景を一ミリも楽しめないまま

馬車に揺られています。


 まあ、仕事の出張なので楽しむ余地が無いのは当然と言えば当然なのですが……何だかなぁ。


 などと考えながら、何気なく視線を目の前に向けると……、


「おいシャケ、そこの山は全部片付けたぞ?次はどれだ?どんどん渡せ!」


 上機嫌で書類の山を捌く私付きの侍従武官レオノール=レオンハート少将(23歳独身、シスコン、金欠、酒乱)が鼻歌混じりにそう言いました。


 普段なら間違いなく、


「何見てんだシャケ!サボってんじゃねぇ!殺すぞ!」


 というレディーとしても、侍従武官としてもあるまじきセリフが飛んでくること間違いなしです。


 なので、それを知っている人間からすれば、さきほどの彼女の反応は逆に怖いぐらいなのですが、勿論これには理由があります。


 一つ目はデスクワークばかりでストレスフルだった彼女が、久しぶりに潮風に当たれる。


 二つ目はようやく私との約束が果たされる。


 三つ目、帰りに大好きな姉、レオニーが赴任している街ムラーン=ジュールに寄れる。


 と、上記の理由により彼女は過去一機嫌が良いのです。


 ですが、彼女を連れてきたのは善意だけではありません。


 というか、ちょっとしたことでドアを破壊したり、些細なことで大暴れする危険人物をわざわざ連れてきたのは勿論打算があってのことです。


 それこそが今のご機嫌で仕事をする彼女の姿なのです。


 つまり、彼女を宮殿に置き去りにしてストレス過多の中で能率悪く仕事をさせるより、上手く機嫌をとりながら連れてきて、護衛兼仕事マシーンとして頑張って貰った方が良いと思ったのです。


 案の定、彼女は海と姉が待っていると知った時から、ルンルン気分でどんなお願いでも聞いてくれます。


 と言うことで壊したドアの修理代の分までこの一週間、大いに働いて貰った訳なのです。


 勿論、私を汚い大人と罵って貰っても結構。


 でもでも、だって……仕方ないのです!こうでもしないと急な出張でスケジュールが滅茶苦茶になった私が過労死してしまうのだから!


 あ、因みに留守はエリザに任せてきました。


 最初に頼んだ時、「アタクシが今、今世紀最大のビッグディールで忙しいのが見て分かりませんの!?」とブチギレられてしまったので、見返りに新たな資金の融通することで何とか承諾してもらいました。


 その為に私の王室費や隠し財産を全て捧げてきましたよ、トホホ……。


 とまあ、そんな感じで私は今回の出張に何とか出発し、今こうしている訳なのです。


 さて、到着まで頑張って仕事しようか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る