第282話「小悪魔劇場の裏側④」

 王都にいるセシパパという名の『定期お得便』に優しい娘からの心温まる手紙……ではなく傍若無人な暴れん坊から『ほしい物リスト』が届く一週間ほど前。


 理不尽な欲しい物リストを送りつけた張本人であるセシロクマはバイエルラインと隣の小国との国境付近にいた。




「陛下!敵は総崩れ!お味方の大勝利にございます!」


 小高い丘の上に陣取ったセシル(セ◯バー風の女騎士バージョン)の元に前線から息を切らせてやって来た伝令が膝をつき、戦場の喧騒に負けぬ大声で叫んだ。


 セシルは視界の先でバラバラに逃げ去る敵軍と、それを追って容赦なく剣を振り下ろす味方の騎兵隊を眺めつつ、


「ご苦労様、下がって休みなさい」


「はっ!ありがたき幸せ!」


 そう言って伝令を下がらせ、今度は脇に控える家臣に向かって鋭く命じる。


「各部隊は無理の無い範囲で敵を追撃しなさい!ただし、深追いは厳禁です!」


「「「はっ!」」」


「そして、このまま予備部隊のスービーズ騎士団を繰り出して一気に敵の王都へ乗り込みます!」


 と、勇ましく言ったが、


「……と言いたいところですが、残念ながらそのスービーズ騎士団がいないんですよねー」


 すぐに撤回した。


「「「無念でございます……」」」


 理由が分かっている家臣達も一緒に肩を落とす。


 そう、いないのだ、スービーズ騎士団が。


「まあ、これだけ痛めつければ当分ちょっかいを掛けてこようとは思わない筈ですから、良しとしましょうか……ああ、焼きたかったなー、敵の王都……」


「「「!?」」」


 自らシャケを遠ざけた上、豊胸にも失敗し、挙句敗戦国の復興と言う激務に追われてストレスフルなセシルは物騒な言葉を残して今回の防衛戦を終えたのだった。




 皆様ごきげんよう、そしてお久しぶりです。


 ランスの麗しき公爵令嬢からバイエルラインの姫騎士にジョブチェンジしたセシルです。


 今やっと王城のマイルームに帰ってきたところです。


 ふー、早く戦いの汚れを落としてリアン様枕を抱きしめたい……。


 実は最近、やることなすこと殆ど上手くいかなくてストレスが溜まりっぱなしなのですよー。


 特に、欲をかいてリアン様を帰らせてしまったことが痛いです……あ、そろそろリアン様成分が切れそう……。


 はあ、あの時素直にリアル様に甘えて一緒に帰国していたら、今頃甘い時間を過ごせていたのかもしれな……いえ、小悪魔や雌ライオンが邪魔しにくるからそうでもないかも……?


 あ!ごめんなさい!脱線してしまいました。


 えーと、話を戻すと、スービーズ騎士団不在の理由、そして今更なのですが現在のバイエルラインと私が置かれた状況を説明しますね!


 まず、旧バイエルライン王国は私こと麗しの巨乳公爵令嬢セシル(……何か文句でも?)が率いるランス軍に滅ぼされ、新生バイエルライン王国として私が女王(仮)として治めています。


 意外かもしれませんが、私はきちんと現実が見える方なので、本来ならすぐにでもムカつく周辺国をブチ殺す為に動き出したいのを我慢して、国の復興に勤しんでいます。


 そして、荒廃したこの国は若く美しい女王(仮)の元で劇的な復興を遂げる筈だった……のですが、現実は中々上手くいきませんでした。


 何故なら、私としては国の復興を最優先にしたかったのですが、その意に反して周辺国がここぞとばかりに弱ったバイエルラインから領土や権益を奪い取ろうと攻めてきたのです。


 四方八方から襲ってくる敵から国を守る為、私は自らバイエルライン軍を率いて大暴れして残らず返り討ちにし、勝利を積み重ねました。


 しかしどれだけ勝っても防衛戦なので賠償金も無ければ領土が増えるわけでもないので、どんどん赤字が積み上がるんですよー……はぁ。


 勿論、国力や軍備が整っていれば周辺国の挑戦を喜んで受けて立ち、今すぐにでも敵を滅ぼしに行きます。


 でも先程私が言った通り、現在それが出来ないんですよ。


 理由は……全てが足りないからです。


 まず軍備。


 バイエルラインは元々軍事国家だったので兵士の質は良く、そして士気や忠誠心も非常に高いのですが、大量に動員するとお金も食料も掛かりますし、何より復興の為に必要な人材を国中から取り上げてしまうことになってしまうのです。


 次にお金。


 国を復興する為には兎に角お金が掛かります。


 インフラの整備から税の免除、配給用の食料の買い付けまで金はいくらあっても足りません。


 しかも前政権時代、国民から巻き上げた税は軍備と王侯貴族の贅沢の為に浪費されていて、殆ど蓄えはありませんでした。


 なので私は本国の大商人を使って王冠や錫杖、伝説の剣など宝物庫の中身を片っ端からヤ◯オク……ではなくて本国のオークションに掛けてお金に変えました。


 あ、そうそう。


 残念なのは一番高く売れそうだった国宝『七人の乙女』というアクセサリーが、落城の時に前の王族によって持ち去られていたことです。


 あればいいお金になっていた筈なのに……ぐすん。


 おっと失礼。

 

 しかし、それでもまだまだ足りないので、地元の悪徳商人やお父様をカツアゲしてお金や食料の不足分をなんとか調達しているのです。


 あとは……泉の件の失敗で胸のサイズが自分の理想には全然足りず、それが余計に私の大きなストレスに……いや、なんでもないです、忘れて下さい。


 兎に角、この国は色々足りなくて貧しいままなのに、敵はいっぱいで戦いは続くという状態なのです。


 ここで皆様はこう思われるでしょう。


 本国から連れてきた精鋭スービーズ騎士団をはじめとした部隊で敵をさっさとやっつければいいじゃないの!と。


 そう出来たら本当にいいのですけどねー……はぁ。


 さて、ここでやっと冒頭のスービーズ騎士団が不在と言うところに繋がります。


 実は私自身の判断で在バイエルラインのランス駐屯軍を大幅に削減したのです。


 理由は、駐屯軍を維持するには当然、莫大なお金や食料が必要ですし、長くいればトラブルも増えてバイエルライン国民からの印象も悪くなるし、そして何より連れてきた軍の大半が自らの故郷であるスービーズ公爵領の出身だからです。


 私はこれでも民とリアン様にはとても優しいので、彼らを早く故郷へ返してやりたかったのです。


 それにスービーズ騎士団はランスという国にとっても重要な戦力である為、長期間本国を不在するというのもよろしくなかったのもあります。


 まあ、私の独断で戦争を始めて彼らを勝手に連れて来てますからね、仕方ありません。


 なので私は断腸の思いで駐屯軍を引き上げさせ、現有戦力だけでなんとかすることにしたのです。


 まあ、そんな感じで困っている訳で……。


 もう嫌になっちゃいます……不毛だし、ストレスは溜まるし……はぁ、敵国に攻め込んで暴れたいです……グスン。


 本当は信頼出来る人材に内政を丸投げして、私は軍事関係だけに専念して心ゆくまで敵国の首都を焼いて回りたいのに……沢山焼いて実績解除です!


 でもその為にはやはり内政が得意な人材が必要なんですよねー……。


 ただバイエルライン国内でそんな人材を調達するのは厳しそうですし……ん?調達?


 調達と言えば……お父様に送る欲しいものリスト?


 あ、そうだ!欲しいものリストにそれを追加してみましょう!


 可能性は高くはありませんが、お父様なら誰か良い人材を知っているかもしれませんし……。


 あ!欲を言えばリアン様がいいなぁ!勿論無理だと分かってはいますが……。


 若い男女が仲睦まじく内政と軍事をそれぞれ担当してー、リアン様が国を内側から支えてー、私が歯向かう敵を片っ端からバッタバッタと薙ぎ倒して血祭りにー……ああ!夢のよう!ウフフ、ウフフフフフ……。




 こうしてセシロクマのヤバい妄想と気持ち悪い笑い声と共に、彼女の本国宛の欲しいものリストに『内政が得意な人!大至急!』が追加されたのだった。

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