第278話「小悪魔の背伸び⑧小悪魔、旅立つ」
「……嫌です!そんなことはウチのピンク髪にでもやらせておけばいいんです!アレも一応貴族の端くれですから」
マリーに話す隙を与えないように、シャケパパとセシパパの二人が喋りまくっていたのだが、容赦なく彼女に一刀両断されたのた。
「あれ!?さっき何でもやるって言ったよね!?」
「アネット嬢が憐れだ……」
しかし、二人はめげずに抵抗を試みる。
「だったら……放牧が盛んな高原地帯の村々に笑顔を届けに行くのはどう!?」
「それいいですよ陛下!」
「それはウチの駄牛が妥当ですね、何しろ同族ですし」
「は?同族?……いや、それより……あ!騎士団への慰問はどう?」
「ありですね!」
「無いです、それはウチの妹分に露出多めの格好をさせて、ついでに焼き菓子でも持たせれば十分ですよ」
「「……」」
ここまで頑張ったおっさん二人だったが、ここで遂に力尽きて黙ってしまった。
そして、逆にマリーが話し出す。
「お義父様、宰相様、私は王族しか出来ないこと、そして必要なことをやりたいのです!繰り返しますが、そんな誰でも出来るようなことをやっても意味がないのです!」
鼻息荒くそう捲し立てた。
「い、いや、でも……」
「しかし……」
だが彼女に大人しくしていて欲しい二人の反応は鈍い。
だからマリーは更に続けて言った。
「ハッキリ言います!お義父様!マリーは王族として義務と責任を果たせるようになりたいのです!ですがその為の経験が足りないと思うのです!」
「え?そ、そんなことはないと思うよ?その歳にしては十分過ぎるほど経験豊富で狡猾だし……」
「先程経験が足りないと仰ったのはお義父様ですよね?」
「……あ、はい、そうですね」
マリーを宥めようとしたシャルルは瞬時に矛盾を指摘され、撃沈された。
「コホン、兎に角、そう言うことなので私は経験を積む為に王宮から外へ出たいのです」
それから再度マリーが要望を出すと、再びシャルルとエクトルが無駄な抵抗を始めた。
「外?……あ!だ、だったらストリアで皇帝陛下に本場の帝王学を……」
「過保護な身内がいるようなところで何が学べるのです?」
「う……」
「そ、それからば海外留学などは如何で……」
「他国で放蕩三昧し、時間とお金を浪費することにどれ程の意味があるのでしょう?」
「ぬう……」
「うっ……だ、だったらほら!コモナに戻るとかどうかな?不安要素もあるけど比較的安定しているから、ゆっくりと基本的な統治を学べるし、同時に責任を果たすことにも……」
シャルルは妥協し、ここでやっとマトモな提案をするが……。
「そんなお義父様でも出来そうなイージーモードな土地は結構です」
「ひ、酷いよ……」
心を抉られただけだった。
「もう!ですから!私はお義兄様の遺志に従って立派な王族となる為の経験をしたいのです!だから、もっと厳しい試練に臨みたいのです!」
マリーがロクな提案が無いことに苛立って声を荒げた。
「いや、マクシミリアンは死んでないし、死なないからね!?」
シャケが亡き者にされたので、シャルルは一応ツッコムが軽く流されてしまう。
「細かいことはいいのです!兎に角!もっと難しい場所はないのですか!開拓中の貧しい植民地とか、他国と係争中の国境地帯とか、反抗的な貴族が多い土地とか!」
「うーん、そうは言ってもねー、反抗的な貴族はみんな君達が粛清しちゃったし、アユメリカ植民地はフィリップが赴任するし、国境沿いで仲が悪いのはルビオンだけど海峡を隔てているし……」
シャルルは真面目に考えたが、丁度いい土地は思い当たらなかった。
「責任だ、経験不足だ、チンチクリンだの言って私を虐めたのはお義父様達なのですから、それこそ責任を持って何とかしなさい!ウガー!」
ここで遂に我慢の限界を迎えたマリーがあることないこと叫びながらバン!と両手で机を叩き、ティーセットが跳ねて音を立てた。
「「ひぃ!!」」
ついでに驚いておっさん達も跳ねた。
そして、それと同時に衝撃でローテーブルの上にあった数枚の手紙が床に落ちた。
「もう!全くお義父様は使えないです!……おや?これは……?」
「ガーン……使えない……」
マリーは八つ当たり気味にシャルルを凹ませた後、床に落ちた手紙に気付き、何気なく拾い上げた。
「む?これは……ふむふむ……ほうほう……ふふ、全くあの人は…………あ、そうだ!」
そして何やらブツブツ呟いた後、急に何か閃いたらしく声を上げた。
「お義父様!」
「はい!」
「ここへ赴任する方はもうお決まりですか?」
マリーは手紙をヒラヒラさせながらシャルルに問うた。
「え?いや、決まってないよ?というか適任者が居なくて困っているんだよー」
するとシャルルが説明を始めた。
「多分、僕かエクトルぐらいしか無理だし……でも僕は長期間王都を空けられないし、エクトルは多分……いや、間違いなく悲惨な目に遭うからダメだし……」
「ほうほう」
「あ、あと勿論、一番の適任はマクシミリアンだが、それは……」
そう言い掛けたところで、
「絶対ダメです!リアンお義兄様をあのような『危険』な場所に送り込むなど、お天道様が許してもこの私が許しません!」
マリーがキレ気味に叫んだ。
「だよねー……安心してマリー、僕もエクトルもそれには反対だから」
言われたシャルルは苦笑しながらそう答えた。
するとマリーが、
「ではそこへ派遣する方は決まっていないのですね?」
改めて問うた。
「え?ああ、当然そうなるね……え?まさか!?マリー……」
そして、途中で彼女の質問の意図に気付いたシャルル達が驚愕すると、
「はい、私が行きます!終戦直後の荒廃した見知らぬ土地でツテもコネも無く、しかも上司は人の皮を被った危険な猛獣……これぞまさに私の試練に相応しいのです!」
マリーが当然のようにそう言ったのだった。
「「ええ!?」」
一週間後。
バイエルライン王都、ノイシュバーン城内の女王セシルの執務室。
「うおー終わったー……はぁ、疲れましたー……眠いー……」
人手不足の所為で重要書類を一人で片付けていたら一晩まるっと掛かってしまい、執務机で朝を迎えることになってしまった女王(仮)のセシルが伸びをしながら言った。
そして、窓から差し込む朝日に目を細目ながら冷めた紅茶で喉を潤した後、何気なく城下に目をやれば、この城に真っ直ぐ走ってくる一台の馬車が見えた。
「ふむ、朝も早くからご苦労なことです。一体どなたでしょうか?」
セシルはそう独りごちた後、机上の書類の山に視線を戻しながらため息をついた。
「はぁ、全部一人でも出来なくはないのですが、ずっとは流石に大変ですねー、それに私的には軍事だけに集中したいので内政を別の人間に任せたいのですが……都合良く全部丸投げ出来るよう人材がここにはいないんですよねー、はぁー……」
そして、女王(仮)としてどうかと思うようなことを言い出した。
「一応お父様にはそういう人材が欲しいという手紙(『送って!』と一言大きく書かれた紙と欲しいものリスト)は出しましたが……多分無理でしょう。だって、そんなことが出来るのは陛下かお父様、そしてリアン様ぐらいですし……まず陛下は論外、お父様は嫌がるでしょうし、リアン様はお優しいから頼めば絶対に来てくれますが……忙しいのにあんまり負担をお掛けするのは申し訳ないんですよねー……あの方は頑張り屋さんですから、無理して倒れちゃいそうで心配なのです……ということで、結論として誰も来ない可能性が極めて高い訳で……はぁ、というか私、これ誰に向かって喋っているのでしょうかねー」
と、セシルが誰に言うでもなく長々と状況の説明をしているとドアがノックされ、
「セシルお嬢様ー!お客様なのですー!」
専属の小さなメイド、リディーの声がした。
「あら?こんな朝早くから誰かしら?うーん、フローラ当たりでしょうか?……あ、どうぞ」
セシルは不思議に思いながら入室を許可した。
すると重厚なドアがゆっくりと開き、リディに先導されたある人物が三人のお付きを引き連れて入ってきた。
それを見たセシルは取り敢えず声を掛けようとして、
「おはようござ……ええ!?貴方、どうしてこんなところに!?」
珍しく素直に驚き、声を上げた。
そして、そんなセシルに向かって不敵な笑みを浮かべたマリーが告げる。
「セシル女王陛下、おはようございます。私、本日付でバイエルライン宰相を拝命致しましたマリー=テレーズ =ルボンと申します、以後お見知りおきを」
「は?……え?えええええー!?」
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