第277話「小悪魔の背伸び⑦小悪魔、仕事を要求する」

「はい!マリー頑張ります!それではご機嫌よう、お義兄様!」


 マリーはそう言って優雅にカーテシーをキメると、自信に満ちた笑顔を残して颯爽と国王シャルルの執務室へと引き返していった。


 そして早々にドアの前へたどり着くと、彼女は何の躊躇もなくドアをバーン!と開けた。


「「うわぁ!?」」


 すると中から二人分の驚く声が聞こえ、続いて手強い猛獣をやり込めて安心し、ソファで紅茶を飲みながらすっかりリラックスしていたナイスミドルなイケメン達が飛び上がった。


 マリーはそんなことは気にせず中に入ると、ズカズカと二人の方へ歩いて行き、ソファセットの横に立って言い放った。


「お義父様!宰相様!先程は取り乱してしまい大変失礼致しました!お詫び申し上げます!」


 そして、優雅に一礼。


 そんな彼女の予期せぬ乱入に動揺した、先程あれだけ威厳たっぷりだったシャルルの第一声は、


「ば、馬鹿な!?君は(メンタル的に)死んだ筈!?」


 だった。


 同じく動揺を隠せないエクトルもそれに続いた。


「そ、そうだ!マリー様は確かに(メンタル的)に死んだのだ!この様なところにおられる筈がない!」


 これではまるで安いドラマの悪役である。


「お二人共どうされたのです?やけに小者臭のするセリフなんか言って」


 マリーはそんな二人の様子を不思議そうにいったた。


 するとシャルルは我に帰り、


「え?ああ、すまないね、突然だったら動揺してしまって……それにしてもマリー……随分と復活が早かったね?パパの見立てでは一ヶ月ぐらいは離宮に引き篭もってくれると思っていたのだけど……」


 若干怯えながら言った。


「わ、私も同感です」


 続いてエクトルも答えた。


 動揺しているとはいえ、二人共結構酷いことを言うものである。


「はい、確かに私はそれぐらいのダメージを負いました……しかーし!」


 マリーはそれを認めつつ突然叫び、おっさん達を驚かせた。


「「!!」」


「たまたま近くを歩いていたリアンお義兄様が私を救ってくれたのです!」


 そして、ドヤ顔でそう言った。


「な、なんだって!?」


「私が廊下で転びそうになったところを優しく抱き留めてくれて、それから暫くお義兄の腕の中でワンワン泣いたらあっという間に急速充電完了ですよ、ふふふ」


 マリーは艶々した顔で嬉しそうに言った。


「そ、そんな……スマホじゃあるまいし……」


「マリー殿下のメンタルはEV車並ですな……」


 動揺した二人はよく分からないツッコミをいれながら愕然とした。


 すると、


「さてと、前置きはこれぐらいにするとして……改めまして……お義父様、宰相様、今回のコモナの件では大変なご迷惑をお掛けしてしまい、本当に申し訳ありませんでした」


 マリーは急に殊勝な顔になり、しかつめらしくそう言って深々と頭を下げた。


「私が浅はかでした。軽はずみな行動でお義父様を始めとした多くの方に……そして誰よりもリアンお義兄様に大変なご迷惑をお掛けしてしまいました……」


 そして、そう言ってからしょんぼりした。


「そうか、分かってくれたんだね?」


 それを見たシャルルは優しげにそう言ってから、


「はい、正直お義父様に言われた時は殺意しか湧きませんでしたが……リアンお義兄様に気付かされました」


「ええー、それ酷い……」


 速攻で落ち込んだ。


 マリーは落ち込む義父をスルーして話を進める。


「先程お会いしたリアンお義兄様のあのお顔、まるで余命僅かな重病人のようで……死相が出ておりました……」


「「ええ!?」」


 マリーの話におっさん二人は戸惑い、首を傾げた。


「(死相!?なあエクトル、息子の顔そこまで酷かったか?)」


「(いや、確かに相当お疲れのご様子ではあったが、重病人という程ではなかったと思う)」


 が、マリーはそんなことは気にせず、自分の世界に浸りながら話を続ける。


「それで如何に自分が愚かだったかを悟ったのです」


「ま、まあ、謙虚に自分を見つめ直すことは大切だよね!」


「でも私はどうしていいか分かりませんでした……なので恥を忍び、思い切ってリアンお義兄様にお尋ねしたのです、そうしたら……」


「そ、そうしたら?」


 シャルルが恐る恐る先を促すと、


「何でもいいから王族として出来ることを、自分で考えてしてみなさい、と言われました」


 至極真っ当な答え。


「そ、そうかい、それで?」


「はい、確かに私は今まで王族としての自覚が、そして努力が足りなかったと思います。ですので、これからは王族としての義務と責任を果たします!その為にはどんなことだってします!」


 とマリーは元気に宣言したが、シャルル達は段々と嫌な予感がしていた。


「それはいい心掛けだね!」


「ありがとうございます、それで自分ができること、やるべきことを考えてみたのですが……」


 なのでマリーがそう言い掛けたところで、二人は機先を制して喋り出した。


「あ!だったら貧民街での炊き出しとか、孤児院などの社会福祉施設を訪問してマリーの笑顔でみんなを幸せにするというのはどうだろう!?」


「素晴らしいです陛下!他にも他国を表敬訪問して頂いたり、地方を回って民達に何か温かいお言葉を掛けて頂くなど如何かと!?」


「あと、そうだ!他には花や木を植えるイベントとかもいいんじゃないかな?可愛いマリーにピッタリだよ!」


「流石陛下です!あとは建物の地鎮祭とか、よく分からない公共施設の名誉職なども……」


 このようにマリーに話す隙を与えないように二人が喋りまくっていたのだが、


「……嫌です!そんな誰でも出来ることはウチのピンク髪にでもやらせておけばいいんです!アレも一応貴族の端くれですから」


 マリーに一刀両断されたのだった。


「あれ!?さっき何でもやるって言ったよね!?」


「アネット嬢が憐れだ……」

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