第272話「小悪魔の背伸び②小悪魔と姉っと牛with新キャラ女騎士!?2」

「えーとねー、実は……マリーにしては珍しく最後の最後で大失敗しちゃってね……背が伸びなかったのよ」


「………………はぁ?」


 意味不明なことを微妙な顔で語るアネットにリゼットはどう反応していいか分からず、間の抜けた反応をしてしまった。


「あのぉ〜アネット様ぁ〜?ワタシには意味がよく……いえ、まったく分からないのですがぁ?」


 それから正直にそう言った。


「まあ、そうよねー……あー、でもちゃんと話すと長いから、今は大筋だけにするわ」


 一方アネットは苦笑しながらそう言うと、ざっくりと説明を始めた。


「えーと、リゼットもストリアから遠征の途中までは一緒にいたから、コモナに攻め込んだ経緯は知ってるわよね?」


「はいなのですぅ〜、確かマリー様が悪い奴に意地悪されたのでぇ〜、仕返しする為にぃ〜、嘘泣きしながら皇帝陛下に抱きついてぇ〜、あることないこと吹き込んで戦争を始めたのでしたっけぇ〜?」


「……!」


 ここでマリーがピクリと反応した。


「大体合ってるけど、その言い方だと身も蓋もないわね……あと正確には自分から意地悪されに行ったの」


「流石マリー様、逞しいのですぅ……」


「でもね……それ、実は表向きの理由だったのよ」


 アネットが少し真剣な顔になってそう言った。


「……ふぇ?表向きぃ〜?」


「アタシも最後の方まで知らなかったのだけど、実はマリーには本当の狙いが別にあったの」


「本当の狙いですかぁ?お金と領土を奪い取ってぇ、更に可愛いオットー殿下の初陣を見ること以外にですかぁ?」


 リゼットは不思議そうに首を捻った。


「うん、そう。えーと、ここで話が繋がるんだけど、コモナにある『使うと背が伸びる伝説の秘薬』が欲しかったらしいわよ」


 そしてアネットは、しれっと明らかに胡散臭い薬がマリーの真の目的だったと告げた。


「……えぇ?背が伸びる薬ぃ……?」


「そうよ」


「ふぇ〜そんな怪しいネット通販とかにおっぱいが大きくなる水とかと一緒にありそうな胡散臭い薬なんかよく信じられるのですぅ〜、普通そんなの信じるのは身長とかおっぱいとか心が小さい人だけなのですよぉ〜」


 リゼットは特に何も考えず、素直な感想を漏らした。


 すると興味のないフリをしつつ、今のをバッチリ聞いていたマリーが一瞬だけチラッと顔を向け、


「はあ゛?」


「ヒェ!?」


 と憐れな駄牛を威圧すると、また元のように顔を埋めた。


 そしてまたアネットも、つい口が滑ってしまう。


「確かにリゼットの言う通り、こんなのマリーかシロクマ女ぐらいしか信じないと思うけ……痛い!ご、ごめんなさいマリー!嘘だから!嘘だからお尻をつねらないで!」


「フン!」


「いったーい、ヒリヒリするーもう!……えーと、それで何だっけ?兎に角、マリーはある日、偶然信憑性のある情報を掴んだらしいの。それがコモナ公国の王族だけに伝わるという幻の秘薬『セガノビール』!」


「え〜ネーミングセンス無さすぎなのですぅ〜……」


「それはアタシも同感。でもそれは門外不出で、王族だけの秘伝らしくて普通の手段では入手することは不可能なの」


「ふぇ?ま、まさかぁ〜その薬の為に戦争を起こして国を一つ滅ぼしたのですかぁ?」


 リゼットの顔が引き攣る。


「そう、そのまさか。マリーは少しでも早く成長して王子様を落としたくて、薬の為にアレコレやって強引に開戦したの……それが真相」


「うわぁ〜……最低なのですぅ」


 流石のリゼットもドン引きである。


「でもそこはやはりマリー。計画は完璧だった上、予想以上に順調に事が運んだの。ほぼ無傷で公国を手に入れられたし、殆ど血も流れなかった。それに公国の民もロクデモない公王が居なくなって割と喜んでたから、みんなWIN-WINの筈だった……」


「無駄に壮大で凄いのですぅ……」


 リゼットがなんとも言えない顔で呟いた。


「更にロリ好きの公王を、薬の在り方を吐くまで熟女専門の娼館に監禁すると脅してアッサリとブツを手に入れられたの」


「あれぇ?失敗は〜……?」


「……っ!」


 ここでアネットのドレスを掴むマリーの手に力が篭った。


「その後ね、浮かれ過ぎて最後の最後で薬の使い方を間違えて、数ミリ伸びて効果がなくなっちゃったのよ……軟膏タイプの塗り薬なのに勘違いして直接飲んじゃって……しかも一回飲み込んじゃうと少しだけ効果が出て、二度と聞かないんだって」


 アネットは斜め下を見ながら言った。


 それを聞いたリゼットは驚いて目を丸くした後、盛大に吹き出した。


「ぶははははぁ〜!きっと天罰なので……ぐぇ!あちちちちぃ!ぎゃあああああぁ〜!」


 その直後、アネットの胸に顔を埋めたまま屈辱に震えていたマリーは心眼を発動させ、見えない筈なのに正確にティーカップを掴んで躊躇なく爆笑する駄牛に命中させた。


 リゼットはティーカップの物理的な衝撃と同時にまだ湯気が立ち上る紅茶を頭から被り、コミカルに叫びながら床を転げ回った。


 ※この駄牛は特別な訓練を受けているので問題ありませんが、大変危険なので良い子は真似しないに!


「それから更にトドメがね……」


「え?まだあるんですかぁ!?」


 アネットが話し出すと、もう復活したリゼットが頭にカップを乗せたまま、紅茶を滴らせながら目を丸くした。


「マリーに殆ど効果がなかったから、検証も兼ねて改めてちゃんと説明書を読んでから薬を使った可愛い妹分がね……薬との相性が抜群で急成長しちゃったのよ」


 そして、苦笑しながらアネットが言った。


「ふぇ?妹分?…………と言うことは、そこに立ってる騎士様ってぇ……ま、まさかぁ〜!?」


 リゼットが恐る恐るそう聞くと、アネットが側に控えていた十代後半ぐらいで美しい銀髪のスレンダー女騎士に向かって言った。


「ね?ノエル」


「はい、アネットお姉ちゃん」


 するとその女騎士はクールで大人びた見た目に反し、小さな少女の様にハニカミながら答えたのだった。


「ええ!?ノ、ノエルちゃん!?ガチィ!?」

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