第271話「小悪魔の背伸び①小悪魔と姉っと牛with新キャラ女騎士!?1」

 ムラーン=ジュールでのブラック労働を終えた数日後。


 最強のパワハライオンから解放されたリゼットは、息着く暇もなく王都経由でマリーとアネットが滞在するブルゴーニュ公爵領へ急いで向かった。


 彼女はマクシミリアン似の少年三人と二人分の国宝級アクセサリーを乗せた馬車を一晩中ぶっ続けで走らせ、途中で運悪く襲って来た盗賊達をひき逃げしたりしながら目的地の公爵邸に着いた頃には、疲労困憊だった。


「ふ、ふぇ〜……やっと……着いたのですぅ〜」


 彼女は死にそうな声でそう言うと手綱を放りだし、矢が何本も刺さった馬車を降りて荘厳な造りのブルゴーニュ公爵邸、即ちマリーの実家の裏口へ急いだ。


 正直もう倒れそうだったが、自らの命が掛かっている為、それでも彼女は立ち止まる訳にはいかない。


 リゼットは疲れきった体を引きずり、まずはレオニーのアドバイス通り、味方となってくれるであろう親友アネットを探した。


 しかし、姿が見当たらず、屋敷の使用人に確認したところ、


「え?アネット様ですか?ああ、今はマリー殿下と居室におられますよ?」


 返ってきた返事は無慈悲なそれ。


「そ、そんなぁ〜」


 まあ、一応マリー付きの女官なので当然と言えば当然なのだが。


 そうして、いきなり出鼻を挫かれたリゼットは絶望し掛けたが、


「で、でもぉ〜アネット様はお優しいので何も言わなくてもきっと大丈夫……の筈なのでぇ〜……このまま魔王城(マリーの部屋)に行くとするのですぅ〜、ワタシぃ〜ファイトぉ〜」


 と、無理矢理自分を奮い立たせた。


 それから手土産を準備し、マリーの部屋の前に立ったリゼットは深呼吸しながら手順の確認を始めた。


「え、えーとぉ、部屋に入ったらまずマリー様の機嫌を見てぇ〜、良さそうならサクッと謝って手土産を差し出した後にオモチャにされて任務完了でぇ〜、考えたくないですがぁ〜機嫌が悪かった場合はひたすら土下座して許しを乞うしかないのですぅ〜……で、でもぉ、さっき屋敷の人に聞いたところではぁ〜、マリー様達のコモナ遠征は大成功だったらしいですしぃ、あんまり心配は無いかもなのですぅ」


 そして、さっき通り掛かった別の屋敷の使用人に聞いた話では、コモナの併合も資産の接収も、更に可愛い従兄弟の初陣も大成功だったとのこと。


 なので、これだけの好条件が揃えばマリーの機嫌が悪いとは考え辛く、リゼットは少しだけ気持ちに余裕が出ていた。


 だが、


「ただぁ〜この話を教えてくれた使用人の方がぁ〜なぜかワタシを憐れむような目で見ていた気がするのですよねぇ〜、まあぁ、気の所為気の所為ぃ〜、悲観的になってはダメなのですぅ〜」


 と少しだけ心配ではあったがリゼットはそれを頭から追い出すと、覚悟を決めて魔王城のドアをノックをして名乗り、ドアノブに手を掛けた。


 そして彼女が部屋に入ると、正面のソファセットに座るアネットと、その背後に控える見覚えがあるような、でも知らないスラリとした銀髪の若い女騎士が立っていた。


 それから……。


「ふぇ!?」


 負のオーラを大量に放出しつつ、仏頂面で腕組みしながらソファに鎮座する超絶不機嫌な魔王マリーの姿があった。


「……(ぎゃあああああ!こ、これは過去最大級にヤバいのですぅ!)」


 リゼットは主のあまりの機嫌の悪さに心の中で悲鳴を上げてフリーズしてしまった。


 だが当のマリーは彼女を見ようともせず、低い声で一言。


「……何?」


「っ!?……え、えーとぉ……せいっ!」


 マリーの発したその一言にリゼットは過去一の恐怖を感じ、慌ててジャンピング土下座をキメて、


「申し訳ありませんマリー様ぁ〜!この駄牛が無能なばっかりにぃ〜……何の成果もありませんでしたぁ!」


 まるで遠征に失敗したどこかの調◯兵団長のように叫んだ。


 マリーはそこで漸くリゼットを一瞥すると、ボソりと呟いた。


「そう、じゃあ出荷で」


「早っ!?」


「……」


 それだけ言うとマリーはリゼットに興味を無くし、アネットに抱きついて彼女の豊かな胸に顔を埋めた。


「……アネット、頭撫でて」


「はいはい」


 アネットは苦笑しながらそう言って、優しくマリー抱きしめた。


「ふぇ〜もう訳がわからないのですぅ〜……」


 あまりによく分からない展開にリゼットは土下座したまま唖然としていると、ここで漸くアネットが声を掛けてくれた。


「リゼット、おかえりー」


「ぐす、アネット様ぁ〜ただいまなのですぅ〜」


 久しぶりに優しい言葉を掛けてもらった彼女は思わず涙ぐんでしまった。


「聞いたわよ?色々大変だったんだって?」


「は、はいぃ〜大変だったのですアネット様ぁ〜」


「そっかー、お疲れ、あ、クッキー食べる?」


「食べるのですぅ!……ではなくてぇ〜……そ、そのぉ〜」


 リゼットは思わずクッキーに飛び付きそうになったが、先に聞かなければならないことがある為、疲れきった身体が糖分を欲するのを無理矢理抑えた。


「え?ああ、そうよね、遠征が大成功したのにマリーがこんな状態なのは気になるわよね?」


 すると彼女の疑問を察したアネットが言った。


「は、はいなのですぅ!」


 リゼットは首が取れそうなぐらいにブンブン頷き、それを肯定した。


「えーとねー、実は……マリーにしては珍しく最後の最後で大失敗しちゃってね……」


「っ……」


 と、そこでアネットのドレスを掴むマリーの手に力が篭った。


「ふぇ〜マリー様が失敗、珍しいのですぅ」


 そして、そんな彼女の頭をヨシヨシと撫でながら、アネットは再び苦笑を浮かべて言った。


「背が伸びなかったのよ」


「………………は?」

 

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