第268話「その後⑤黒獅子は歓喜し、茶色い牛は絶望する」
場面は少し遡り、酒場での騒動が終わった翌日。
シャケ達は休む間も無く、それぞれ事後処理に当たっていた。
その一、シャケ。
市庁舎で政治的な部分を担当し、大量の書類仕事や有力者との絶え間ない接待等で過労状態。
特に面白くもないので割愛。
そのニ、黒獅子と牛二号。
二人は客分であり、特に何かをする必要は無かったのだが、シスコン黒獅子が大好きな姉をサポートする為、金獅子組系以外の反社を襲撃して回ることにした。
「わ、わかった!降参するからもうやめ……ぎゃあああああ!」
とある薄暗い裏路地にある独立系のマフィアの事務所で大きな悲鳴があがった。
そこには多数の気絶した組員が地面に転がって泡を吹いており、その光景はまさに死屍累々である。
そして、この場で立っているのは二人の女だけだった。
「たく、情けねーな、どいつもこいつも全然歯応えがねえ、なあウッシー?」
その片割れであり、たった今親分と思しきチンピラを容赦なく半殺しにしたレオノールが、つまらなさそうに言った。
「ハァハァ、いや、流石に自分はちょっと疲れたッスよー……ゼェゼェ」
一方、体力の限界に達したルーシーは肩で息をしながら死にそうな声で答えた。
「ああん?その乳といい体力の無さといい、だらしねえ牛だなぁ」
するとレオノールは呆れたようにそう言ってからタバコを咥えた。
「ちょ!?いや、レオ姐さんの体力が異常なんですって!……だって今日カチコミしたの十件超えてるんッスよ!?」
理不尽なことを言われたルーシーは、なけなしの体力を振り絞り、シャケに買って貰ったおニューのメイスをブンブン振りながら可愛く?抗議した。
「だから何だよ?アタシはまだまだ元気ハツラツ、オ◯ナミンCだぞ?」
だがレオノールはまるで分からないという顔でタバコをふかしたあと、そう言った。
「えー、そんなぁ〜!あと、それなんか親父臭が……ぎゃあ!」
そして、余計なツッコミを入れて理不尽なゲンコツ(三連発)を貰った。
「うるせー!今度、昭和臭がするとか言ったら出荷するからな!」
「いや、そこまで言ってないッスけど……理不尽ッス」
従姉妹と同じ3段のタンコブを摩りながら、ルーシーは涙目でぼやいた。
「まあいいや、仕方ねーな、今日のカチコミはお終いだ」
すると意外なことにレオノールがそう言った。
それを聞いたルーシーは地獄に仏とばかりに喜んだのだが……。
「やたー!これでやっとホテルでのんびりでき……」
「さ、仕事は終わったし、打ちに行くぞ!」
すぐに無慈悲なセリフが飛んできた。
「……え?」
「うーん、今日はどのカジノにすっかなー」
ショックで固まっているルーシーとは反対に、レオノールはどのカジノを荒らそうかと楽しそうにブツブツ言っている。
「さ、行くぞウッシー!」
「え!?ちょ、まっ……」
そして、レオノールはそう言うとガッチリとルーシーの頭を鷲掴みにして、そのままカジノ街の方へ引きずって行ったのだった。
「ぎゃあああああ!イタタタタタタ!」
それから数時間後。
カチコミついでに反社達から巻き上げ金で盛大にカジノで遊んでいたレオノール達は……。
「やったー!またアタシの勝ちだ!」
「えー、いくら動体視力が良いからって、何でこの人勝てるッスかねー……」
相変わらず大勝ちし、テーブルの上に高額チップを山積みにしていた。
そして、レオノールはそのままの勢いで全てのチップをディーラーの方へ押しやってご機嫌に叫んだ。
「よっしゃ!次もオールインだ!」
「いや、姐さん……もうやめてあげましょうよー、ディーラーさん泣きそうッスよ?」
と、ルーシーが同情混じりに言った途端。
「うわあああああん!」
と言って彼女達のテーブルを担当していた若い女性のディーラーが、泣きながら逃げて行った。
「あーあ、女の子泣かせちゃったッスねー」
ルーシーがジト目で言うと、
「その言い方はやめろ!誤解されるだろうが!」
レオノールは珍しくバツが悪そうな顔で目を逸らした。
「でも姐さん女の子にモテるのは本当ッスよねー?」
「ま、まあなぁ……断るのが大変なんだよなぁ……って、今はそんなことどうでもいいだろうが!それより早く他の奴連れてこい!」
と、誤魔化すようにレオノールが叫んだ瞬間、
「あのお客様、少し裏までよろしいですか?」
背後から声がして振り向くと、そこには支配人らしき品のいい中年の男とガタイのいい黒服が数人立っていた。
「はぁ、やっぱりこうなるッスよねー……」
その瞬間、ルーシーは死んだ目をしながら俯き、
「何だよ?今良い感じにツキが回ってきてるんだ、邪魔すんな」
レオノールは不機嫌そうに答えてから、ラム酒を煽った。
「申し訳ありませんが、どうしてもお話をお伺いしたくてですね、ご同行願います」
しかし支配人は怯まず、顔だけは笑顔のまま再びそう言った。
「あん?ふざけんな!誰が……あ、そういえば……おい、ウッシー!」
「何ッスか姐さん?」
「確かこのカジノって金獅子組系だったよな?」
「はい、その筈ッスけど……?」
「よっしゃ!」
と、ここでまだまだ遊びたいレオノールはここが金獅子組系のカジノだったことを思い出し、大好きな姉の名前を出して居座ることに決め、
「おい、おっさん!アタシはあのレ……じゃなかった、えーと、なんだっけ?ああ……そうだ!エロツーの妹だぞ!」
自信満々に大きな胸を張ってそういった。
「「「誰!?」」」
そして、支配人と黒服達、ついでにルーシーが同時にツッコミを入れた。
それから順調な流れで暴れたレオノール達はカジノから詫び料をせしめ、上機嫌で夜の街へ飲みに出かけたのだった。
それから更に数時間後。
歓楽街のとある酒場では……。
「姐さーん、流石にもう帰りましょうよ〜」
もういい加減に帰りたいルーシーが、泥酔したレオノールを揺すっていた。
「ん?姉さん?……うう、レオニー姉さん……何で一緒に飲んでくれないんだよぉ、ぐす」
「うわぁ、これはちょー面倒臭い奴ッスね……」
そして、相変わらずシスコンを拗らせた残念なレオノールの姿を見ながら、ルーシーが頭を抱えていると、
「おい!そこのべっぴんの姉ちゃんと乳のデカい嬢ちゃん!こっちきて酌してくれや!」
タイミング悪く下品な酔っ払いの団体が絡んできた。
その瞬間、ルーシーは思った。
これは酔っ払ったレオノールの相手をする以上に面倒なことになる気がする、と。
なので彼女はレオノールがそれに反応する前に酔っ払い共を物理的に黙らせるべく、酒瓶を上下逆さにもって動こうとしたのだが……時すでに遅し。
ガシャン!
「うぎゃあああああ!」
ルーシーが席を立つより早く、ラム酒のビンが飛んでいき、酔っ払いのおっさんの顔面に直撃して派手に色々飛ばしながら椅子ごと後ろへ倒れた。
「アタシの連れにちょっかい掛けてんじゃねよ!酔っ払い共が!」
『姉に構って貰えない寂しさで飲みまくって泥酔した非常にタチの悪い酔っ払い』であるレオノールが、キレ気味に言い放った。
「姐さんがそれを言うッスかー……」
横ではルーシーが呆れ気味にそう呟いた。
「何しやがる!このアマ!それに酔っ払いはテメーも同じだろうが!みんな!やっちまえ!」
「「「おう!」」」
それから酔っ払い共がイキリ立ってガタガタと席から一斉に立ち上がり、
「おう!望むところだ!ぶっ殺してやる!行くウッシー!」
レオノールも酒瓶片手にそれに向かっていったのだった。
「へーい……はぁ、やっぱりこうなるッスかー……もう故郷のジャージー島に帰りたいッス……」
それから散々暴れて酒場を破壊した結果、何故かみんな仲良くなって飲み直した後、迷惑料を置いてホテルに帰って来たのは辺りが薄ら明るくなった頃だった。
それから更に数時間後。
投宿先のホテルの部屋にて。
「ん?朝か……ふぁ〜よく寝たぜ〜」
差し込んだ朝日に照らされ、制服のままベッドで大の字になって寝ていたレオノールが目を覚ました。
それから水差しに直接口を付けて水を飲み干すと、
「ぷはー!上手い!さあ今日も元気にカチコミだ!行くぞウッシー!」
そう言って、寝巻きにナイトキャップを被った、過労と睡眠不足と二日酔いで死にそうなルーシーの頭を鷲掴みにすると、元気に出掛けていったのだった。
「ふぇ?……あ、姐さんおはようござ……ぐお!?ぎゃあああああ!」
それから街を出るまでの間、毎日同じことが続き、街に残っていた金獅子組系以外のコントロール範囲外の反社組織を全て服従させてまった。
そして余談だが、昼は暴力、夜は酒とギャンブルという完全にアウトローな生活をレオノールは大いに楽しんだが、それに付き合わされた牛二号は心身共にボロボロになってしまったのだった。
その三、金獅子と白黒牛へ続く。
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