第261話「感動?の再会①」

 シャケがレオニーに激突したことを謝罪し、彼女から意味深なセリフを返された後のこと。


 幸運にも帰参が叶った上、『シャケのトマトソース 駄牛の悲鳴を添えて』という極上の料理を食べたレオニーが、自身もトマトの用に真っ赤な顔をしながら甲斐甲斐しく主の身だしなみを整えたところから。




「ありがとうレオニー、これで目を開けて外を歩けるよ」


 不慮の事故の後、何故かシ◯ア専用みたいに顔を赤くしたレオニーによって身だしなみを整えてもらった私は、彼女に礼を言った。


「有り難きお言葉にございます」


 するとレオニーはシ◯ア専用のまま嬉しそうに微笑んだ。


 とても可愛いな……ん?レオニーってこんな風に感情を露わにするタイプだったかな?


 まあ、いいか。


「いやー、それにしても君の洗脳が解けて、重度の厨二病から元に戻ってくれて本当に良かったよ」


「は、はい……」


 私がそう言うと、レオニーの顔が僅かに引き攣った気がした。


 それから、


「洗脳が解けたのは、やはり実の妹と顔を合わせたからかな?」


 と、私なりに洗脳が解けた理由を考えてみた。


「いえ、全て殿下のお陰でございます!……え?いもう……と?あの、殿下……妹とは?」


「驚いたかい?それはね……あ、ちょうど今起きたようだ」


 困惑するレオニーに私はそう言ってから、視線をカウンターの方へ向けた。


 そこではちょうどレオノールが立ち上がってバーカウンターから上半身をのぞかせたところだった。


 それから彼女はグラスや酒瓶を跳ね飛ばしながらカウンター乗り越え、ダメージを負った腕をもう片方の手で庇いながらこちらへ歩き出した。


「うう、イッテー……よくもやりやがったな仮面野郎!……ぶっ殺してや……ええ!?」


 そして、レオニーに殺意を向けようとした瞬間、衝撃の事実に気づき、ガッターン!とゴツいカットラスを床に落として固まった。


 まあ、そうなるよな。


 それから、


「うう〜さっきの腹パンのダメージが重いッスー……ああ!お気に入りのメイスが壊れてるッスー!?もう!これ高かったのにー……ふぁ!?」


「ふぇ〜頭がジンジンするのですぅ〜……む?あぁ!レオニー様ぁ〜やっと素直になれたので……ぐぉ!?」


 と、続いて牛二頭が起きてきてルーシーは普通に驚き、リゼットは何かを言い掛けたところでレオニーが投げたバゲットが高速で頭に直撃して昏倒した。


「レオニー?」


「……」


 レオニーは何故バゲットを投げたんだ?……ああ!照れ隠しか!


 確かに洗脳されていたとはいえ、部下にコスプレ姿で恥ずかしいセリフを吐くところを見られたんだものな……。


 普通なら失踪するか、口止めするところだろう……。


 多分私なら失踪するが……レオニーなら口止め……いや、口封じ、かな?


 ……リゼット、元気でな。


 私がそんなことを考えていると……。


「あの!殿下、こ、これは一体どいうことでございますか!?」


 フランスパンをぶち当てて駄牛を黙らせたレオニーが、レオノールの姿を見みながら困惑気味に問うてきた。


 先程から立て続けにクールな彼女が取り乱すところを見た私は頬を緩ませながら答えた。


「どういうことか?だって?それはね、先程も言った通り、彼女……レオノールが血を分けた君の双子の妹だということさ」


「え?ええ!?……殿下、お戯が過ぎます!私に家族はおりません!……それにもし……もしそれが事実なら私は……私は!実の妹に……(女として)負けたことに……」


 おや、信じてくれないな。


「ん?」


 負けた?


 あれ?戦闘では勝っていた筈だが……?


 と、ここで、


「おいシャケ!そいつ……いや、その人はもしかして!?」


 レオノールが驚きと期待が入り混じったような顔で叫んだ。


「ああ、君の思っている通りの人だよ」


 私がそう答えてやると彼女は感極まった後、


「っ!!!……姉さ〜ん!」


 おもむろに両手をバッと広げ、目に涙を浮かべながらレオニーの方へ駆け出した。


 そして、感動の再会……。


「……ふん!」


「ぐえ!」


 とはいかず、レオニーが心底嫌そうな顔でそっぽを剥きながら、手を突き出してレオノールの顔を押し退けた。


「……ね、姉さん!何で……ハグさせてくれないの!?」


 優しく抱きしめてくれると信じていたらしいレオノールは、レオニーに予想外の冷たい対応をされて悲しそうに叫んだ。


「誰がお前などと……消え……」


 ろ、とレオニーが言い掛けたところで、私はお節介で介入することにした。


「レオニー!確かに命懸けの闘いをつい先程までしていた相手といきなり仲良くしろ、というのは難しいだろう!でも!レオノールは仮面女の正体が君とは知らなかったし、君だって洗脳されていたのだから仕方がなかったじゃないか!」


 私がそう言うと、


「いえ、そういう訳では……(単純に愛する人を実の妹?に取られたのが絶対に許せないだけです)」


 レオニーは斜め下を見ながら呟いた。


 すると今度は色黒の妹の方が、


「洗脳?洗脳だって!?シャケ!どういうことだよ!……イテテテテテ!」


「貴様、殿下に向かって無礼だぞ!」


 そう言った直後、レオニーがレオノールの頭を鷲掴みにした。


 うわー……痛そう……。


「え、えーと、レオニーは任務中に敵に捕まって拷問された上、洗脳されてしまったんだよ……」


 私が姉妹の仲睦まじいじゃれあい?に苦笑しつつ取り敢えずそう答えると、それに三人が反応した。


「ぐおおおおおー!あ、頭がぁー!……え?洗脳!?」


「ええー洗脳ッスかー?怪しいッスねー」


「いやいやぁ〜、流石にその設定は苦しいのですよぉ〜レオニー様ぁ〜、本当は違いますよねぇ〜?」


 するとレオニーは何だか気まずそうに目を泳がせている。


「うっ……そ、それは…そのー……」


「え、違うの?」


 心配になって私が尋ねると、


「ち、違いま……せん……」


 レオニーは消え入りそうな声で、自信なさげに呟いた。


「「ええ〜怪しいのですぅ〜(ッスー)」」


 それに対して間髪入れず、牛二頭が疑うように言った、その時。


「おい、お前ら……姉さんが……」


 レオノールがドスの効いた声で言い、


「「ひぃ!?」」


「誰がお前など妹なも……」


 牛達は怯え、レオニーは再び嫌そうな顔になって姉妹関係を否定しようとした。


 だが、その直後。


「姉さんがそうだって言ってんだろうが!だったらそれが正しいんだよ!舐めたこと吐かすと出荷するぞ駄牛共!」


 レオノールがガチギレしながらど迫力で叫んだ。


「「ふぇえええええ!?」」


 本能的に死を感じたらしい牛達の怯えは一瞬で最高潮に達し、二頭は抱き合ってブルブル震え始めた。


 次にレオノールはキラキラした目でレオニーに向かって言った。


「だよね!?姉さん!」


 すると、あら不思議。


「妹なものか………………え?あ、そ、そう!その通り!貴方は間違いなく私の妹よ!私も貴方に会えて本当に嬉しいわレオノール!」


 レオニーはいきなり態度を百八十度を変えた上、レオノールを妹だと認めて抱きしめた。


 因みにその笑顔は若干引き攣っているように見えなくもない……気がする。


「アタシのことを妹だって認めてくれるんだねレオニー姉さん!?うわーん!」


 レオノールはそんなレオニーのことを微塵も疑わず、無邪気に自分と全く同じサイズの豊かに胸に顔を埋めて泣き出したのだった。

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