第256話「やさぐレオニー⑤」

「……おい、お前は(殿下の)何だ?」


 色々と我慢出来ず、私が怒気を孕んだ声で海賊女に問うと、


「あん?アタシ?えーと……コイツの新しい(仕事の)パートナーだ!」


 という最悪の答えが返ってきて、私はこの問いを投げかけたことを死ぬほど後悔しました。


 ただのガサツでコスプレ好きな護衛かと思いきや、なんと……なんとこの海賊女こそが、私が捨てられた原因である殿下の『新しい女』だったのです。


「なっ!………………ば、バカな!?……あ、新しい……パート……ナー?そ、それ、は……つま、り?殿下の……新しい女……?」


 こうして私は殿下の『新しい女』本人によって『殿下は女としての私を迎えに来たわけではなく、利用価値のある手駒を回収に来ただけだった』という最悪の現実を突きつけられ、地獄へ突き落とされてしまったのです。


 その事実を改めて理解した……いや、させられた瞬間、私は心臓を短剣で貫かれたような痛み襲われ、視界が歪みました。


 そして、心の中で泣き叫びながら現実逃避と、その理由を求めて自問自答を始めました。


 ウソだ!……ウソだウソだウソだウソだ!ぁ!


 何故?何故なの!?


 私はあの女よりも先に殿下にお仕えし、しかも殿下から暗に『花』という贈り物を通して想いを伝えて下さっていたのに……。


 どうして?……どうしてなのですか殿下!?


 私の何がいけなかったのでしょうか……?


 私は何が足りなかったのでしょうか?


 ああ、マクシミリアン殿下……。


 いくら殿下でも……こんなの……酷過ぎます……。


 と、心の中で恨み言をいいながらふと殿下の方を見た、その時。


 殿下を守るように立つ忌々しい海賊女に関してある事実に気付きました。


 ん?この海賊女……私に似ているような?


 いや、それどころか瓜二つでは?


 ん?あれ?


 ということは……殿下は私より後に『私によく似た女』に出会って……そちらを選んだ?


 え?それはつまり……?


 ……。


 …………。


 ………………。


「……はっ!」


 そうか、そういうことだったのか!


 暫し逡巡した後、私は真実に辿り着きました。


 そして、そのあまりに単純で馬鹿馬鹿しい理由に気付いてしまった私は、思わず片手で顔を押さえながら笑い出してしまいました。


「くく……あははは、そうか……そう言うことだったのか……」


 恐らく殿下は私と同じような顔の女を見つけ、しかもその女の方が自分の好みに近い属性を持っていたから選んだに違いない。


 多分、日焼けしたワイルドな見た目と明るい性格に惹かれたのだろう。


 つまり、元がほぼ同じでもあの女には私には無い付加価値があったということ!


 だから……だから私は……何の変哲もない無印レオニーは捨てられたんだ!


 だから……最早、仕事上の駒としての価値しかない私は女としては見限られてしまったんだ……。


 だから、だから、だから……。


 ああ、本当にもう笑うしかない。


 と私のソールジ◯ムが黒く染まり掛けたところで、ちょうど顔を覆っていた指の間から酒場の反対側にいる殿下達が見えました。


 殿下と海賊女、雌牛二頭は手持ち無沙汰に私の醜態を眺めています。


 きっと連中は滑稽な私の姿を見て馬鹿にしているのだろうな……くっ!馬鹿にして!


 許さない!絶対に許さない!


 そう思った瞬間に感情が爆発して全身の血液が沸騰し、私の心は人生で初めて完全に理性を失いました。


 今までは冷酷な殺しのプロとして理性を失ったことは一度もなく、仕事に必要な範囲でのみ人を殺してきました。


 誓って快楽や憎しみで人を殺したことは一度もありません。


 ですが、今は違います。


 あの女が憎い。


 兎に角、憎い!


 憎い憎い憎い!


 殿下を奪ったあの女が!


 私と同じ顔をしたあの女が!


 私は私の大切なものを奪ったあの女が憎い!


 ……だからあの女を殺そう。

 

 私は完全に憎しみという感情に支配され、ただ自分が殺したいから目の前の女を殺すことに決めたのです。

 

 それから私はキッとこの世で一番憎い女を睨み付け、


「お前の……お前の所為で……私はぁ!」


 と叫びながら腰の二振のダガーを抜き放ち、神速で奴に襲い掛かかりました。


 殿下の目の前であるのにも関わらず、また後先のことなど全く考えずに。


 そして、問答無用で全力を出した私の一撃は容赦なく海賊女を襲い、奴は殿下の前で惨めに屍を晒すことになる……筈でした。


 ところがその直後。


「くっ!おらぁ!」


 という荒々しい掛け声と同時に、周囲にガキィーーーン!という金属同士がぶつかる凄まじい音が鳴り響きました。


「っ!?」


 何だと!?


 驚きのあまり私は目を見開きました。


 この女、私の攻撃を受け止めた!?


 なんと超反応した海賊女が素早くカットラスを抜き放ち、私が繰り出した必殺の一撃を受け止めたのです。


 そして、それに続き、


「ナメんなぁ!それと姉さん返せ!」


 と叫びながら再び私を弾き飛ばしました。


「ぐうっ!」


 渾身の一撃を弾き返されてしまった私はショックとダメージを受けつつ、再び態勢を立て直しました。


 因みにこの光景を女の後ろで見ていた殿下が関心しています……ぐぬぬ、この女……攻撃を防ぎつつ殿下の好感度を上げるとは!


 小癪な!絶対殺す!


 そう心に決めつつ私は荒い呼吸を整え、ギリリと歯軋りしながら射殺さんばかりの形相で海賊女を睨みつけ、


「……はぁはぁ……よくも、よくも……私の……よくも!私のモノ(男)を奪ったな!」


 と凄まじい殺意と憎しみの感情を剥き出しながら叫んだのでした。


 そして更に私は思いました。


 もういい!殿下がそういう態度なら私だって……私だって!もう我慢しないんですからね!


 と、言うことで私は力ずくで殿下を手に入れることにして、恥も外聞なくずっと後ろで空気と化していた手下達に命令しました。


「お前達、何をボサっとしている!私はあの海賊女を抑える!お前達は残りの家畜共を倒せ!ただし男は絶対に無傷で捕らえろ!かすり傷一つでもつけたら死刑だ!」


「「「へ、へい!?(マジ?)」」」


 忠実な手下達は私の命令に何の疑問も抱かずに返事をしました。


 ……何か?


「ではアラン!精鋭のカクヨム組は私の援護、残りはお前の指揮で牛共を捕獲しろ!」


「わかりやした!よし!カクヨム組の四天王は姐さんを援護だ!残りオレについて来い!」


「「「「へい!」」」」


 え?四天王?何それ?


 いつの間にそんなものを……それちょっとカッコいい……。


 あ、もしかして他にも御三家とかいたり?


 などと思いつつ、四天王?の連中に、


「さあ、四天王よ!連携して奴を……」


 叩くぞ、と私が言うよりも早く、ボス想いの彼らは良くも悪くも血の気が多く単純なので、そのまま勢いで海賊女に向かって行ってしまいました。


「ちょ!?ま、待てお前達!連携もなしに突っ込んだら……」


 私は急いで連中を制止しようとしましたが……。


「オレはエルツー四天王の一人で姐さんの一の子分、リンネー!よくも姐さんを……ぐふぅ!」


「あぁ?何だテメェ?輪廻転生さるぞコラ!」


「同じく四天王にしてエルツー様の直参のキウームだ!覚悟……かはぁ!」


「邪魔だ!どけ!」


「我が名はキヨー、四天王でエル……ぎゃあ!」


「自己紹介も四天王もエロツーも、もういいんだよ!」


「僕はミウネコ!エルツー様の……ふぐぅ!」


「何か可愛いな……じゃなかった!アタシはひぐ◯し派だ!……はぁ、まったく何だコイツらは……で、次は御三家でも登場か?」


 と自称四天王は海賊女に四人掛かりで攻撃を掛けたものの、案の定瞬殺されてしまいました……。


「……」


 お陰でなんとも言えない空気になってしまいましたが、個人的な恨みと子分達の仇を討つ為に私は海賊女との戦闘を再開し、横では残った手下共が牛達に向かっていきました。


 こうして再び酒場で大乱闘が始まったのでした。






 皆様こんにちは、作者のにゃんパンダです。


 今回はようやく一周年記念企画の続きを書けました。


 今回のゲスト参加の読者様は、りんね様、喜雨夢様、kiyo様、umineko3373様です。


 一周年企画にご参加頂きありがとうございました。


 そして色々とトラブル続きで一周年企画が遅くなってしまい本当に申し訳ありませんm(_ _)m


 まさか一周年企画が終わるのが、二周年の一週間前とは……。


 参加して下さった皆様、お待たせしてしまい重ね重ね申し訳ありませんでした。


 さて、気を取り直して今度は二周年が迫っており、次はどうしようかと言うところなのですが……まあ、まずはちゃんと本編を更新しろ!ですよね……はい、頑張ります……。


 ですが何もないのも寂しいので、何かやりたいなぁとは思っていますので、お楽しみに(^^)


 また、何かリクエスト等が有れば感想・コメントでお知らせ下さいませ。


 それでは本日も本作をお読み頂き、ありがとうございました。

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