第250話「シャケと黒獅子と牛×2②」

「……なんだ、そうだったのか!シャケの旦那はレオニー姉さんの上司で、そっちの牛二号はルーシーの従姉妹で姉さんの部下だなんて思わなかったぜ!」


 大乱闘で盛大に破壊され、惨憺たる有様の酒場の中で唯一無事なテーブルを囲んでいる四人の内、一人が声を上げた。


 声の主は私の横で陽気にグラスを傾けている『黒ニー』ことレオノールだ。


 彼女はそう言った後、


「わりーわりー、危うく二人を三枚に下ろすところだったぜ!ガハハ!」


 とか言って豪快に笑いながら私の背中をバシバシ叩いた。


「そ、そう……(誤解が解けてもシャケなんだな……)」


「ふぇ〜……(誤解が解けても結局、牛のままなのですぅ〜……しかも二号……)」


 あ、あと、めっちゃ痛いんですけど……背骨折れそう……。


 まあ、黒ニーに拷問されるよりは万倍マシではあるが……。


 あ、因みに今、現在進行形で私の背骨を破壊しようとしているレオノールはなんと海軍所属の勅任艦長(休職中)で健康的に日焼けした色黒の美女だ。


 白磁のような白い肌を持つ、クールな姉のレオニーとは真逆のワイルドな感じである。


 あとリゼットの従姉妹のルーシーの方も、見た目は瓜二つという感じで、髪と瞳の色以外ではメイド服ぐらいしか見分けがつかない。


 おっと失礼、皆様に状況を説明しないといけませんね。


 それは私達が怒れる黒獅子こと、レオニーと瓜二つの双子の妹のレオノールに拷問され掛けた時のことです。




 少し前、まずレオニーの名前を出した私をレオノールが『姉を買い取った変態貴族』と勘違いして激怒しました。


 その勢いは凄まじく、正直チビりそうでした……。


 それから、まるで真◯鬼のような彼女がゆっくりと近付いて来ましたが、私とリゼットは恐怖で動けず、その場で抱き合いながら一緒に震えることしか出来ませんでした。


 そして、禍々しいオーラを放つ彼女が私の前に立ち、滅殺◯波動……ではなくて、腰に吊るしたカットラスを掴みました。


 恐怖で完全に動けなくなった私達が最早これまで、と覚悟しかけた……その時。


「あっれぇー?そこにいるのはもしかしてー、りっちゃんッスかー?」


 と、ひょっこり店から出て来た人物が、のんびりとした声でそう言いました。


「ふぇ?……ル、ルーちゃん!?」


 リゼットが突然の同族の登場に驚いていると、カットラス片手に私達のすぐそばに立っていた真レオノールがその声で我に返り、


「姉さんの仇……あん?リッちゃん?おいルーシー!コイツらお前の知り合いか?」


 と、髪や目の色以外はリゼットそっくりのルビオン風牛型メイドに言いました。


 すると、そのルーシーと呼ばれた牛型メイドは巨大な胸を張って答えました。


「そうッス!レオ姉さん、この子は自分の従姉妹のリゼットッス!そっちのお連れさんはわからな……ん?あれ?このシャケ風で幸薄げなイケメンのお兄さん、何処かで見たような……?あ!いや、でも……あれはニジマス……??」


「で、信用できるのか?」


 それを聞いた黒ニーは彼女にそう言いました。


「勿論ッスよ!リッちゃんは由緒正しきホルスタイン家の娘で、確か王女様付きのメイドなんスよ!」


「ん?そうなのか?牛女二号」


「は、はいぃ〜!そ、そうなのですぅ〜怪しい牛ではないのですぅ〜!」


 と、問われた牛二号ことリゼットは命惜しさに恥も外聞も無く、涙ながらに牛であることを認めて即答しました。


 全く、情け無い牛め……。


「おい、そっちのシャケは?」


「え!?あ、はい!怪しいシャケではありません!キリッ!」


 ……全く、情け無いシャケ(自分)め。




 とまあ、こうして私達は間一髪のところでリゼットの従姉妹のジャージー牛ことルーシーによって一命を取り留めたのでした。


 それから私達4人はお互いの状況を確認する為、取り敢えず破壊された店に入った後、辛うじて無事だったテーブルに座って話を始めて今に至ります。




「……それにしても驚きだよ、まさかレオニーに瓜二つの美人の妹が居たなんて」


 私は破壊されかけた背中を摩りながら、レオ妹についての素直な感想を言い、


「はいなのですぅ〜」


 それにリゼットが同意した。


「び、美人!?お?そ、そっか、アタシ姉さんに似て美人かー……えへへ」


 するとレオノールは嬉しそうな顔をした後、照れ隠しなのか再び私の背中をバシバシ叩いた。


  や、やめて……シャケの叩き(物理)になっちゃうから!


 因みに私が再び背中に危機を感じながら、そんな彼女を見て思ったのは、照れながらはにかむレオノールは可愛いな、ということだった。


 そして、こうも思った。


 レオニーもこんな風に笑うのだろうか?、と。


 閑話休題。


 それからガサツだけどノリのいい陽気なお姉さんになった黒ニーがラム酒の入ったボトルを片手に、


「……なるほど、二人は仕事中に行方不明になった姉さんを探しに来たって訳かー……あ、怒鳴って悪かったな……」


 そう言ってから、少しバツが悪そうに謝った。


 それに対して私とリゼットは少しニヤつきながら答えた。


「いや、気にしないでくれ。私は誤解が解けただけでハッピーだから(しょげた黒ニーも可愛いな)」


「ふぇ〜ワタシもなのですぅ〜(レオニー様がしょげてるみたいで新鮮なのですぅ〜)」


 さてと。


 怯えてばかりいても仕方がないので話を進めるとしようか。


 そう思ったは私は、

 

「ところで黒ニー……」


 と、切り出したのたが。


「あ?誰が黒ニーだ!アタシはレオノールだ!」


「あ、失礼、それで黒ノール……」


「ムニエルにされてーか!シャケ野郎!」


「すみません……で、」


 ここで私は出会った二人にある提案をすることにした。


「二人とも、私の仕事を手伝ってはくれないか?」


 そう、私が考えたことは二人のリクルート。


 ちょうど人手が欲しかったのと、ここでの乱闘の跡を見る限り二人ともかなりの腕利きのようだから是非雇おうと思ったのだ。


「勿論だ!……と言いたいところだが……任務がなぁ」


 すると今直ぐにでも生き別れの姉を探しに行きたいレオノールが、そう言いながら恨めしそうにルーシーを見た。


「じ、自分の所為じゃ無いッスからね!?」


 ルーシーは反射的にそう叫んだ。


 うむ、まあこうなるよな。


 予想通り。


 さて、ということで……。


「ではこうしよう。ルビオンからの書類は信頼できる者に持たせて王宮に届けさせ、加えて『侯爵』たる私が一筆書こう」


 私はドヤ顔でそう言った。


「マジで!?あんたそんなに偉かったのか!」


「ふぁ!?侯爵様?マジッスか!?」


 流石のレオノール達も少し驚いてる。


 そして、私はニヤリと笑いながら更なる条件を出す。


「ふ、まあ、君に新たな『船』を与えられる程度には偉いかな。キリッ!」


 上級国民?パワー発動!


 さあ、どうだ?


 だが彼女はこの手の権力に媚びなさそうなタイプに見えるから少し心配なのだが……。


「やる!超やる!今からアタシはアンタの……いや、ランベール侯爵の手下になる!」


 次の瞬間、彼女一瞬で権力の犬……いや、権力の黒獅子になりました。


「「「え?」」」


 私達三人は意外な展開に驚いて軽くフリーズしました。


「ちょ!?レオ姉さん!?それは困るッス!ていうか見損なったッスよー!!」


 そこから我に返ったルーシーが悲壮な抗議の声を上げました。


「うるせー!誰の所為でこうなってると思ってんだ!?こっちは自分と可愛い部下達の生活が掛かってんだよ!」


 するとレオノールはそう言って逆ギレし、


「うっ……」


 言われたルーシーは返す言葉が無く、気まずそうに黙りました。


 ですが、直ぐにレオノールはまた陽気に笑い、ルーシーの巨大な胸を揉みながら言いました。


「安心しろルーシー、大丈夫だって!このシャケの旦那が責任を持ってブツは届けてくれるっつーし、アタシ達もサクッと姉さん助けて王都へ行けばいいんだからさ!な?」


 ですがルーシーは渋い顔をしながら、


「いや、でも……自分は書類の他に人探しもあるッスからねー」


 もう一つの目的を話しました。


 と、ここで人探しぐらいなら私にも何か出来るかもしれないと思い、ルーシーに詳細を聞いてみることにしました。


 えーと、メイドが探すということは……。


「なあルーシー。やはりメイドの君が探している人物だから対象は君の主人、つまり亡命貴族などかな?」


「え?は、はい、そうッス。自分の女主人ッス」


 当たりか。


 一般人なら兎も角、貴族関係なら力になれるかもしれないな。


 もう少し聞いてみよう。


「ほう、それでその人物の名前と特長は?」


「えーと、自分の主人はエリザ様と言ってー……」


「……え?」


 ん?エリ……ザ?


「金髪のツンデレでー、意味もなくカリスマ性があってー、そこそこ巨乳でー……」


「……うん、それで?」


 んん?


「世間知らずだけど、頭は良くてー……特に金融関係に強いッス!」


 んんん!?


 え?それってもしかして……というか数日前、私はそんな条件の亡命貴族に散々嫌味を言われながら資金準備したのだが……。


 いやー、何という偶然。


 うん、世間って狭いよね……。


「ああー……えっと、ルーシー」


「はいー?」


「ごめん、多分知ってる。というか僕が保護した」


「マジっすか!?」


「うん」


「で、あの人大丈夫なんスか!?今どんな感じッスか!?」


 一見のんびりして適当そうに見えるルーシーが、血相を変えて言った。


 使用人に愛されてるなエリザ。


 流石だな。


 そんなことを思いながら、彼女の問いに私は答える。


「エリザは今、王都で仕事をしているし、元気いっぱいだと思うよ?」


 いや、どちらかと言うと現金いっぱいか?


「そうッスかー……良かったー……」


 それを聞いたルーシーは心底安心した顔をした後、私の方を見てニッコリと笑って言った。


「そう言うことなら貴方に協力するッス!」


「え?いいのかい?」


「貴方様はエリザ様の恩人みたいッスからね!」


 こうして私は黒獅子と牛(外国産)を仲間にすることに成功したのだった。




 それから私達は少し雑談をして親睦を深めた。


 実はレオノールはエリザと知り合いだったり、重度のシスコンということが判明したり、ルーシー達の船を保護したり、ルビオンで政変が起こっていたりするらしい。


 因みに牛達は久しぶりの再会をキャッキャ、ボインボイン言いながら喜んでいる。


 そして、暫く後。


「ではそろそろ今後の行動について話し合おうか……」


 と私が言ったちょうどその時、入り口の方から声がした。


「エルツーの姐御!奴らです!」


「「「「え?」」」」


 私達四人が気付いてそちらを振り向くと、そこには何と……。

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