第248話「やさぐれ雌ライオン(黒い方)④」

「うわぁー……これ絶対ダメなやつッスよねー……」


「ダメじゃねーから!さっさと金よこせ」


 と、ドン引きしたルーシーから有り金全部をカツアゲしたレオノールが、カジノで勝負をした結果……。




「う、うわぁ……マジッスかー……お金が……十倍になって帰って来たッス!」


 数時間後、ルーシーはカジノ前で顔を引き攣らせながら高額金貨がぎっしり詰まった重い布袋を抱え、ただただ驚愕していた。


「ふふん♪どうだ!アタシは昔からギャンブルが得意なんだよ」


 一方、大金を稼ぎ出したレオノールは上機嫌で鼻歌を歌っている。


「いや、得意っていう次元じゃなかったったすよ!?はっ!まさかイカサマ……」


 するとルーシーはイカサマの可能性を疑い、そう言い掛けたのだが。


「イカサマなんてしてねえって!アタシはズルが大嫌いなんだ!逆だよ逆!アタシは動体視力がちっとばかしいいからイカサマがよく見えるのと、勘が鋭いだけだ。後はテーブルや店の移動のタイミングだな」


 レオノールはそれを否定し、得意げに言った。


「ああ、確かに絶妙なタイミングで勝ち逃げしまくってディーラーと店を泣かせてたッスもんね……」


 そうなのだ、レオノールはその高い動体視力と勝負強さ、そして見事な引き際によって大金を稼いだのだ。


 彼女はひとつのテーブルである程度勝ったところでディーラーが勝ち分を取り返す為にイカサマを始めると、即座にそれを見に抜き、躊躇なく他のテーブルや店に移動するのだ。


 何ともカジノ泣かせの黒獅子である。


「そうさ、それに一つの店で勝ち過ぎると目を付けられたりして色々面倒臭いことになるから、ある程度勝ったところで店を変えるのが大事だ……さて、ギャンブルも飽きたし飲みに行こうぜ!」


 レオノールは上機嫌でそう締め括り、真昼間から飲みに行くことを宣言した。


「りょ、了解ッスー……あと、なんかレオ姐さんって……パチプロみたいッスね……」


 と、そんな感じでカジノをハシゴして荒稼ぎし、手持ちの資金を五千万ぐらいに増やしたレオノールは飲みに行くことにしたのだった。


 それから二人は途中にある高級な宿屋に部屋を取って荷物を置くと、早速繁華街に繰り出した。


 すると、ちょうどタイミングよく『二時間、五千ランスで飲み食べ放題です!』と声を掛けてきたキャッチに誘われたので、二人はその酒場に入り、楽しく飲んだのだが……。


 約二時間後。


 彼女達が気分良く会計しようとした時、店員が持って来た伝票を見たレオノールが低い声で言った。


「おいお前、何だこれ?ふざけてんのか?」


「レオ姐さーん、どうしたんスかー?」


 何事かと横から伝票を覗き込んだルーシーが、そこに記載されていた金額に顔を引き攣らせた。


「……ひゃ、120万!?……ふ、ふぇーこれは大変なことになりそうッス……は!?まさかこれって最近Y‘Tubeで流行りのぼったくりバー潜入企画というやつッスかね!?」


 そして、取り敢えず現実逃避した。


 因みにこの時のルーシーの心境は、不当に高額請求をされてビックリ!よりも、間違いなくレオノールが暴れるだろうなぁ、と確信してげんなりしている方だ。


「いえいえ、ウチはいつもこれでやってますし、極めて正当な請求金額ですが何か?」


 しかし、若い男の店員は済ました顔でそう言い張った。


「は?これが正当だと?席代×二人分10万、ビール5杯15万、ワイン三本60万、ミックスナッツ5万、料理20万……あとキャストドリンク10万って何だよ?」


「キャストドリンクは女の子のドリンクです」


「ふざけんな!あんなケバいだけで可愛くもなけりゃ、話もつまんねーキャストのドリンクに10万だと!?しかもあいつらが飲んだのワインの水割り二、三杯だぞ!?おいコラ!店長出せよ!店長を!あとキャッチの男も呼んでこい!」


 怒りに燃えるレオノールがそう叫ぶと、店長の代わりに奥から数人のチンピラが出てきた。


「お客さん、大声出しちゃ他の方の迷惑になるから困るんだよ」


「あ?何だテメーら?」


「店の関係者だよ、じゃ、取り敢えず裏に行こっか?」


 そう言ってチンピラの一人がレオノールの肩に手を置こうとした、のだが……。


「誰が行くか!」


 チンピラはレオノールに手首を掴まれ、そのまま投げ飛ばされて近くのテーブルを薙ぎ倒し、派手にグラスや料理を舞上げながら倒れた。


「このアマ!おい、舐めてると痛い目見るぞ!さあ、大人しくこっちへ……ぐはっ!」


「だからアタシに気安く触るんじゃねーよ!」


 別のチンピラが、懲りずに力ずくでレオノールを連れて行こうとしたが、同じ結果になった。


 するとリーダーっぽい別のチンピラがニヤリとしながら言った。


「なあ、船乗りのお姉さん。ウチのケツもちはあの『金獅子組』何なんだぜ?この意味わかるよな?」


 だが、レオノールは萎縮するどころか、


「うるせえ、知るか!だから何だ!」


 即座にブチキレてそう言い放つと、チンピラの顔面に見事なストレートをお見舞いした。


「ぶっ!」


 するとチンピラリーダーは見事に吹っ飛んだ後、


「こ、このアマ!ふざけやがって!ぶっ殺してやる!みんな出てこい!やっちまえ!」


 と鼻血を出しながらヨロヨロと立ち上がって叫んだ。


「「「へい!」」」


 するとバタバタとバックヤードから十人ぐらいの手下共が飛び出して来て、二人に襲い掛かった。


 それを見たレオノールはニヤリと笑った後、


「ルーシー、半分宜しく!」


 と、横で空気になりかけていたルーシーに向かって楽しそうに叫んだ。


「あー……やっぱりこうなるッスかー……せい!」


 当のルーシーは少し呆れたようにそう言いつつ、近付いて来たチンピラの鳩尾に容赦なく掌底を叩きこんで意識を刈り取った。


 直後、


「ちくしょう!野郎共!あの海賊女と、あと横のウシ娘も纏めてやっちまえ!……それとお前!金獅子組に応援を頼んでこい!」


 と威勢よくチンピラリーダーが叫んだところで一方的な虐殺……もとい、大乱闘が始まった。


「誰がジョ◯ー・デップのコスプレだコラァ!」


「ぐぉっ!」


「自分をプリティダービーなソシャゲみたく言うなッス!」


「ぎゃあ!」




 それから約十分後。


 酒場を遠慮なく破壊し、チンピラの大半を半殺しにしたレオノール達は、最後に一人だけ残ったチンピラリーダーを壁際に追い詰めていた。


 さながら獲物を追い詰め、残忍な笑みを浮かべる猛獣のように。


 当然、命の危機を感じたチンピラリーダーは逃げようと背後の窓に手を掛けたが、それを見たレオノールが男の背中を蹴り飛ばした為、男は窓を突き破って店の外へ落ちた。


「おい!逃げんなコラ!」


 理不尽にも彼女はそう叫ぶと、入り口のドアを蹴破りながら男を追いかけて店の外へ出た。


 そして、店の前でチンピラ野郎は何処だと辺りを見回した、その時。


「ん?」


 驚いた顔で自分の方を見ている……いや、凝視している二人組がいることに気付いた。


 そして彼女は思った。

 

「……(あん?なんかこっち見てる奴らがいるな)」


 それから、


「……(男の方はなんていうか……シャケみたいな奴だな)」


 不思議と直感的にそう思ったレオノールは、取り敢えず叫ぶことにした。


「おい、何見てやがる!見せ物じゃねーぞ!?この……シャケ野郎!」


「!?」


 その直後、レオノールは横にいた牛みたいなメイドを見て目を見開いた。


「……もう一人の女は……え?ルーシー!?……の色違い?」


「ふぇ!?」

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