第247話「やさぐれ雌ライオン(黒い方)③」
ルーシーを慰める為にレオノールは行きつけの小洒落た海辺の食堂に入ると、直ぐに大量の酒と料理を注文した。
それから間も無くテーブルは茹でたロブスターや生牡蠣、ソテーされた真鯛など、色とりどりの料理に埋め尽くされた。
「お!来た来た、美味そうだ!ル牛ー、さあ、食おうぜ!そして飲め!」
彼女はそう言ってから乱暴に白ワインを二人分のグラスに注ぎ、
「乾杯!」
と、沈んだ空気を吹き飛ばすかのように明るく言った。
「乾杯ッスー!……うわぁ!この白ワイン美味しいッスー!流石は美食の国と言われるだけのことはあるッスね!それに何というか……料理に色があるッス!」
するとルーシーも彼女の気遣いを感じ取り、明るく答えて見せた。
「そうだろう、そうだろう?……え?色?」
ルーシーの言葉を聞いたレオノールは頭に『?』を浮かべた。
「いやー、ルビオンの料理って基本的に茶色が多いんでー、ついでに味も酷いんでー……」
彼女の疑問にルーシーは視線を斜め下に落としながら、げんなりした顔で答えた。
「ああ、そう言えばルビオン料理は世界一不味いって評判だもんな……」
するとレオノールは心底気の毒そうな顔で同情した。
「そうハッキリ言われるとー、ちょっぴり切ないんッスけどねー……悲しいかな、紛れもない事実何スよねー……」
それに対してルーシーは自虐的な笑みを浮かべながら、素直に事実を認めた。
「え、えーと……今はそんなこと気にすんなよ!さあ食え食え!どうせお前んところの政府持ちなんだし、遠慮すんなよ!」
そんなルーシーを不憫に思ったレオノールは取り敢えず料理を勧めた。
「わーい!はむ!……ふぁ!このロブスターホクホクの身がぎっしり詰まってて最高ッスー!……でもやっぱり公費で贅沢は気が引けるッスねー……」
ルーシーは勧められた料理を味わい、歓喜の声を上げたが……煮え切らないことを言った。
するとそれを聞いたレオノールは、
「たく、細かいこと気にしてんじゃねーよ!普段から安月給でこきつかわれてんだろ?だったら頑張ってる分、食べたっていいだろ?」
そう言ってルーシーを誘惑した。
「いや、それはー……そう……確かにそうッスね!こっちは薄給で早朝から深夜まで世間知らずなツンデレの縦ロール巻いたり、お遣いしたり、広い宮殿内をパトロールしたり、暗殺したり、書類書いたり……」
と、ここで遂にルーシーが覚醒した。
「……え?縦ロール?パトロール?暗室?……よくわからんが、取り敢えず大変そうだな……」
「さあ!過剰労働で搾取された分食べるッス!飲むッス!」
そして、何かが吹っ切れたルーシーはそう宣言すると、遠慮なく並んだ酒と料理を貪ったのだった。
それから数時間後。
リミッターを解除したジャージー牛と黒獅子は大量の海産物を平らげつつ、ついでにワインも一ケース空け、今は食後のブランデーを飲みながら談笑?していた。
「レオ姐さん!聞いてるッスかー!?」
アルコールの所為ですっかり別人のようになってしまったルーシーが、いつの間にか仲良くなったレオノールに叫んだ。
「あ、ああ、聞いてるから落ち着けよ……」
一方アルコールに強いレオノールは、そんなルーシーの姿に若干困惑しながら答えた。
そう、実は今、すっかり立場が逆転し、大量のワインを開けてすっかり出来上がったルーシーがレオノールに絡んでいるのだ。
「えーとー、それで自分は安月給で食べ盛りの兄弟の為に頑張っててー……」
「そ、そうか……(牛族はみんな大量に食べるから食費が大変なのか?ああ、確か牛は胃袋が四つあるとか言うしな……)」
レオノールは取り敢えずそう考えて勝手に納得した。
「朝から金髪ドリルに拘る悪役王女風のツンデレの世話をしてー」
「ドリル?ツンデレ?(意味がわからん……)」
レオノールは困惑した。
「ツンデレの暇潰しで吊るされそうになったりー」
「吊るされる!?(お前、何やったの!?)」
レオノールは驚愕した。
「メイドの仕事の合間に護衛とか戦闘とか盗み聞きとかの諜報員の仕事もやれされてー」
「忙しいんだな……え?メイドの合間に……護衛?戦闘!?お前ファントムハ◯ブ家にでも仕えてんの!?悪魔で執事な奴と一緒に伯爵とか守ってんの!?」
レオノールは混乱した。
「挙句の果てにー、ちょっと目を離した隙に世間知らずの縦ロールが消えた所為でー、後でサメの餌にされかけたりー」
「ああ、お前を拾った時だな……(水に浸された牛……つまり水牛?)」
レオノールは同情?した。
「そんなこんなで忙しくて仲のいい従姉妹とも中々会えないしー」
「仲のいい従姉妹かぁ、そりゃ寂しいよなぉ(きっと牛なんだろうけど、同じ乳牛系なのか、水牛みたいなやつなのか……気になる!)」
レオノールは気になった。
「あとー、この無駄に大きな胸も嫌でー、肩が凝ったりー、エロい視線を浴びたりー、自分には一つもメリットがないッスしー」
「まあ、それはアタシも多少気持ちは分かるけど……外であんまり言うなよ?刺されるぞ?(特に社交界ではどこぞの有力な貴族の娘が重度の貧乳とかで胸の話はタブーらしいからな)」
レオノールは警告した。
「はぁー、たまには他人の胸を借りて泣きたいッスよー!人生辛いッスー!」
そしてルーシーは、しまいにはそう叫んで泣き出した。
「そっかそっか、色々苦労してんだな。よしよし」
そんなルーシーの姿に呆れながらも、お姉さん気質なレオノールは泣き出したルーシーの頭を優しくナデナデしてやった。
「ふぉ!?このナデナデ……心に染みるッス!レオ姐さーん!うわーん!」
その直後、色々と我慢出来なくなったルーシーがレオノールの胸に飛び込み、更に泣き出した。
「はぁ、仕方ねーな。今日は特別にアタシの胸を貸してやるから好きなだけ泣けよ」
レオノールは苦笑しつつも、そんなルーシーを押し退けたりせずに優しく抱きしめてやった。
するとルーシーは感極まって叫んだ。
「レ、レオ姐さーん!一生ついて行くッスよー!うわーん!……うう、レオ姐さんってー……ぐす、がさつで偉そうで金遣いが荒いだけの残念な人かと思ってたッスけどー」
「……おい、喧嘩売ってんのか?」
そして、それに続いてとんでもないことを言い出し、
「実は優しくていい人だったんスねー!ギャップに萌えたッスー!……レオ姐さん!……結婚して下さいッス!」
椅子ごとレオノールを押し倒したのだった。
「!?」
という感じで出発前の宴は、お酒の力で暴走した乳牛に雌ライオンが襲われ、まさかの食物連鎖のヒエラルキーがひっくり返されるという結末を迎えた。
そして二人は食堂の二階にある宿屋で朝チュンし、翌日今度こそ王都へと旅立ったのだった。
因みに、一応付け加えおくとレオノールの貞操は無事で、ルーシーは前日のことは途中から記憶がなかったりする。
それから数日後、二人は王都への途中にあるムラーン・ジュールの街に到着した。
そして、人でごったがいする停留所で馬車を降りたところで、ルーシーがレオノールに尋ねた。
「レオ姐さん、今日はどうするッスか?」
するとレオノールは少し考えた後、いいこと思いついた!的な顔で答えた。
「そうだなぁ、折角国内最大の繁華街があるんだし……そうだ!カジノ行こう!」
流石のルーシーもこれには驚いた。
「ふぁ!?カ、カジノッスか!?いやー、流石にそれは一応任務中ッスしー……まずいんじゃないッスか?……ていうかそんな『そうだ、京都行こう!』みたいなノリでカジノに行かないで欲しいッス……」
「今更固いこと言うなって!さ、金出せ、金。倍にして返してやるからさ!」
「うわー……これ絶対ダメなやつッスね……」
と、レオノールはルーシーから有り金全部をカツアゲして、カジノで勝負を始めたのだった。
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