第246話「やさぐれ雌ライオン(黒い方)②」
レオノールはル牛ーを乱暴に船から連れ出し、港湾エリアを出たところで言った。
「よし、まずは馬車をチャーターする……その前に!」
「え?その前にー?」
突然そう言われたルーシーは不思議そうな顔で先を促した。
「腹ごしらえだ!取り敢えず飯食うぞ、ル牛ー!」
すると、まさかの今から飯食うぞ宣言。
これではまるで、何処かのシャケとウッシーのようである。
まあ、誘う方が逆ではあるが……。
「ふぁ!?は、はいッス!……あ!でもあのー……」
ルーシーはレオノールの言葉に対して反射的に返事をしてしまったが、あることに気づいて口籠った。
「ん?何だよ?」
するとそれを見たレオノールにそう言われ、ルーシーは恐る恐る口を開いた。
「え、えっとー……艦長さんって今、休職中になっちゃったんスよね?だからお金とか大丈夫なんスかねー、とか思ったり……」
「あん?金だと!?」
問われたレオノールは鋭い眼光とドスの効いた声で言った。
「ひ、ひぃ!ごめんなさいッス……」
ルーシーは思わず両手で頭を押さえてしゃがみ込んだ。
そして、レオノールは次の瞬間……。
「無い!」
と、ドヤ顔で言い放った。
「え?……お金ないんスか?……え、あ、ああ!分かったッス!きっと経費で落ちるッスね!」
無い!という答えを聞いたルーシーは何だか非常に嫌な予感がしたが、それを振り払うかのようにそう言った。
「ビルヌーブの野郎、一ランスたりとも経費は認めねえってよ」
だが、それに対してレオノールは苦虫をかみつぶしたような顔でそう答えた。
「ええ……じゃあ、もしかして?」
なんとなく……いや、ほぼ確実に次に彼女が何を言うかをルーシーは分かっていたが、仕方なく先を促した。
すると帰って来た答えは、
「ああ、飯代……というか王都までの旅費は全部お前持ちな!」
予想の上を行く答えだった。
「ふぁ!?ちょ、ちょっと待ってくださいッスよ!ご飯ぐらいなら兎も角、旅費全部って……一応自分らはお客さんッスよ!?」
予想外の答えにルーシーは慌て、苦し紛れにそんなことを言ったのだが。
「ああ、確かにお前らは『招かれざる客』ではあるよなぁ?お陰でアタシは惨めな予備役艦長だよ……うう、ぐすん……ああ!なんて可哀想なアタシ!チラッ!チラッ!」
レオノールは嘘泣きしながら、わざとらしく大袈裟にそう言った。
「うっ!そう言われると弱いッスね……で、でも!自分だってお金はあんまり持って……」
痛いところを突かれたルーシーだったが、ここで最後の抵抗を試みることにした。
いわく、自分もお金が無い!作戦。
しかし、
「おいル牛ー、飛んでみろ」
即座に帰って来たのは無慈悲な命令だった。
「ふぁ!?え、いやー、それは……ちょっと困るッスよー……はは」
「何が困るんだ?あん?」
「えー、わざわざ言わせるなんて艦長さんの鬼畜ー!そんなに自分のおっぱいが揺れるところを見たいッスか!?ていうか飛んでみろ、とかいつの時代のヤンキーッスか!?」
追い詰められたルーシーは迫真の演技でそう叫んだが、
「うるせえ!誰がテメーの脂肪の塊が揺れるところなんざ見てーんだよ!いいから早くしろ!」
効果は無かった……。
そして、ここで遂にルーシーは抵抗を諦めた。
「うう……もう、わかったッスよー……えい!」
ぴょん。
ガシャン!
ジャンプした直後、ルーシーのスカートの中からランス金貨のギッシリ詰まった布袋が石畳に落ち、ガシャリと音を立てて金貨がこぼれ落ちた。
全部で大体、五百万ぐらいはありそうだ。
「あーあ……」
ルーシーはガックリと肩を落とし、
「ニシシ、やっぱりな!」
レオノールは目を輝かせた。
「あのーところで艦長さん?何でお金持ってるって分かったッスか?」
ルーシーが力の無い声でレオノールに問うと、彼女はニヤリと笑って答えた。
「ん?単純にアタシの勘だよ。お前に初めて会った時から何となく諜報員っぽい気がしてたから、今回の王都行きにも絶対に工作費を持って来てると思ってな」
「す、鋭いッスね……で、でも!工作費だからといって自由に使っていいお金では……」
ルーシーが一応、反論しようとすると、
「うるせー!元々お前らルビオンがランスに悪さする為の金じゃねえか!だからアタシが有意義に使ってやるんだよ!文句あるか?ああん!?」
ガチギレされた……。
「そ、そんなぁーまた上司に怒られるッスー」
だがレオノールはルーシーのそんな泣き言を無視し、更に容赦なく告げた。
「あ!お前まだ金持ってるだろ?」
「な、何ッスか!?もうお金なんて無……」
問われたルーシーは目を泳がせ、顔に脂汗をびっしりと浮かべながら今日一番の狼狽ぶりを見せた。
その直後、何かに気付いてキラーン!と目を光らせたレオノールが動いた。
「……そこか!」
「ふぇ!?」
そして、レオノールはルーシーの巨大な胸の谷間に片手を突っ込み、何かを引きずり出した。
「ほら、やっぱりあったじゃねーか!がっはっは!」
それは先程の金貨の袋に比べると、かなり小さな皮袋だった。
「シクシク……お、お願いッスお代官様!それは!……そのお金だけはお許し下さいッス!」
それを見たルーシーは泣きながら土下座した。
「アタシはお代官じゃなくて艦長なん
だけど……じゃなくて、おいル牛ー、この金は何なんだ?予備の工作費か?」
レオノールは今までとは違うガチな雰囲気に、少し戸惑いながら聞いた。
するとルーシーは悲壮感を漂わせながら答えた。
「うう、それは……薄給の自分がコツコツ貯めた……細やかなお小遣いッス……」
「………………そっか、何か……ごめんな」
それを聞いたレオノールは同じ薄給の公務員として切なくなり、工作費から金貨を一掴みすると、お小遣いの入った袋にそれを入れてからルーシーに返してやった。
そして、地面に這いつくばったままのルーシーの肩にポンと手を置いて慰めてやり、その後、彼女が泣き止んでから一緒にレオノールお勧めの海鮮が美味しい食堂兼宿屋に入ったのだった。
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