第244話「シャケ、いきなりレオニー?を発見する」
「殿下ぁ〜殿下ぁ〜、もうすぐムラーン・ジュールに着くのですぅ〜」
乗り心地の良い高級馬車の中でまどろんでいた私はリゼットののんびりとした、そしてどこか優しい感じの声に起された。
ゆっくり目を開けてみれば、目の前では見慣れた牛型メイドが水筒からコップに水を注ぎ、こちらへ差し出したところだった。
「……ん?あ、ああ……ありがとう、リゼット」
私はぼんやりしながらコップを受け取り、リゼットに礼を言った。
しまった、どうやら私はいつの間にか眠ってしまったようだ。
これは自分で思っているよりも、私は疲れているのかな。
「すまない、確か到着後の予定の確認の途中だったな?」
私は寝落ちする直前の記憶を探り、そう言った。
「はいぃ、そうですぅ〜」
「それで、君はどうするのがいいと思う?」
ここは一応プロであるリゼットに助言を求めるのがいいだろう……多分。
するとリゼットは少し考えた後、話し始めた。
「到着後の予定でございますかぁ〜?えーとぉ、停留所に着いた後はまず宿屋を抑えて拠点を確保してからぁ〜、暗部のムラーン・ジュール支部で情報を仕入れてきますのでぇ〜、殿下は宿屋でお待ち下さいませぇ〜」
お、リゼットにしてはまともだな。
私は失礼なことを思いながら、彼女に先を促す。
「うん、それから?」
「それからはぁ〜、街を見て回るのがいいと思いますぅ〜」
「ふむふむ」
確かに街の地理を把握するのは重要だ。
「次は?」
「次はご飯なのですぅ〜、この先何が起こるか分からないのでぇ〜、食べれる時に食べておきましょ〜」
うん、確かに食事は取れる時にとった方がいいよな。
まあ、目の前のこの生物は明らかに食べ過ぎだが。
「他には?」
「他にはショーとかカジノとかぁ〜、酒場とかの歓楽街を見て回りましょ〜かぁ〜」
なるほど、人の集まる場所で情報収集する訳か。
「それでその後は?」
リゼットの口から割と真っ当なプランが出て来た為、私は彼女の認識を、ただの食べ過ぎの乳牛から改めようかと思い始めた。
「その後はぁ〜……キャバレーとか娼館が集まるエッチなエリアに行くと後でワタシも殿下も三枚におろされてしまうでパスするとしてぇ〜、お洒落なレストランとか大聖堂とかの歴史遺産でも回りましょうかぁ〜」
が、ここで彼女のプランに疑問符が付いた。
「え?お洒落なレストランに歴史遺産?」
レストランは兎も角、歴史遺産って……そんなところで情報収集が出来るのか?
何だか色々と怪しくなって来たぞ。
そう思った私は思い切って彼女に聞いてみることにした。
「……なあリゼット、これではまるで観光をしに来ているだけみたいじゃないか?」
当然、否定がくると思っていたのだが、
「ふぇ〜?そうですよぉ?」
彼女はさも当然のようにそう答えた。
「は?え、ええ!?」
え?そうなの?何故!?どゆこと!?
あまりに自然に言われてしまった為、私は軽く混乱してしまった。
「だって今から殿下はこの街で観光するんのですからぁ〜」
「は?……はああ!?リゼット、何を……」
ここで我に帰った私は、流石にふざけ過ぎだとリゼットを叱ろうと声を荒げ掛けた……のだが。
そこでリゼットは心配そうな目で私を見つめながら言った。
「殿下は働き過ぎなのですよぉ〜、少しはお休みになってリラックスしないとダメなのですよぉ〜?」
その目は心から彼女がそう言っているように見えた。
確かに彼女の気遣いはありがたいが……だが、私も引くわけには!
「いや、しかしレオニーが!」
「あんなのほっとけばそのうち殿下の気配を感じて勝手に出て来ますからぁ〜、全然大丈夫なのですぅ〜、それよりも殿下の健康が優先なのですぅ!」
ん?今あんなのって言ったような気が……。
というか、レオニーは家の中に隠れたペットかよ……。
「で、でも……」
尚も私が食い下がろうとすると、ここでリゼットの雰囲気が変わった。
「むぅ〜だったら言い方を変えるのですぅ、殿下みたいな素人は何の役にも立たないしぃ〜」
「!?」
「それに万が一殿下の御身に何かあったり過労で倒れたりしたらぁ〜、ランス……いえ、世界の危機なのですぅ〜」
「!!??」
「だからぁ〜、仕事は下っ端に任せて貴方様は大人しく観光でもして待っていればいいのですぅ〜……ユーアンダスターン?」
「うぐっ……」
心に重いものが……。
「わ、分かった、専門家に任せるよ……」
だからもう、やめてくれ……。
リゼットの心を抉るような容赦のない連続攻撃で、私のメンタルは瞬殺された。
「お分かり頂きありがとうございますなのですぅ〜」
私が降参すると、リゼットはペコリと頭を下げた。
それから彼女なりの気遣いなのだろうが、ちょうど見えて来た街へと話題を変えた。
「……あぁ、殿下ぁ〜、そんなことよりムラーン・ジュールの目印の赤い風車が見えて来ましたよぉ〜!」
「え?あ、本当だ」
私はありがたくリゼットの気遣いに甘え、窓に視線を移す。
すると遠くに街の城壁とここからでも分かる街のシンボルである大きな赤い風車が見えて来た。
あの街にレオニーがいるのか……どうか、無事でいてくれよ。
それから間も無く私達を乗せた馬車は街へと滑り込み、停留所へと到着した。
そして馬車を降り、宿屋まで歩いた間に私が感じたのは、この街はとても活気があることに加えて、意外にも治安が良さそうなことだった。
正直、国内最大の歓楽街と巨大な犯罪組織が君臨する街と聞いていたので、トゲトゲを付けたモヒカンがヒャッハー!とか叫んだりとか、ロア◯プラ見たいな淀んだ感じをイメージしていたのだ。
まあ、治安がいい良いのはこちらとしては有り難い話なのだが。
宿屋までの途中で私は銀行で為替手形を換金して資金を確保してから、リゼットが勝手に決めた高級宿屋に入った。
それから、
「それでは自分はちょっと支部に行ってくるのですぅ〜、殿下はゆっくりお休み下さいませぇ〜」
と言いう彼女を見送った。
私は馬車でのやり取りもあり、彼女に迷惑を掛けないように部屋で大人しくしていることにした。
その後、暫くして帰って来たリゼットと合流し、早速出掛けることになった。
まずは情報収集という名の観光の前に腹ごしらえだ。
因みに私が、実は色々と考えて動いてくれているらしいリゼットに感謝して、
「金もあるし、好きなだけ食べていいぞ」
と言ってやったら、
「わーい!ありがとうございますぅ〜!やっぱり殿下はチョロいのですぅ〜!」
凄く喜んでいた。
それから二人でレストランを探しながら街を少し歩いたところで……。
「フンフ〜ン♪……!」
と鼻歌混じりに先を歩いていたリゼットがいきなり立ち止まり、片手で私を制した。
「殿下、私から離れないで下さいませ」
そして、プロの顔になったリゼットが、まるで別人のようなクールな声でそう言った。
「わかった、頼む」
私がそう言って素直に下がろうとした、その瞬間。
ガッシャーン!
と、突然横にあった酒場の窓が砕け散り、その破片と一緒にガラの悪そうな男が飛んできた。
「うわ!何だ!?」
私は驚き、
「……」
リゼットは相変わらず別人のように落ち着いた様子でそれを観察し、続いて素早く周囲に視線を走らせていた。
おお、プロっぽい!
ちょっと……いや、かなりリゼットのことを見直したぞ!
よし、滞在中は飯ぐらい好きなだけ食わせてやろう!
とか私が思ったところで、
バーン!
と、今度は酒場の入り口のドアが弾け飛ぶように開き、そこから一人の人物が肩を怒らせて出てきた。
「おい!どこ行ったチンピラぁ!」
そして、その人物を見た瞬間、私とリゼットは目を見開いた。
「「ええ!?」」
何故なら、ドアを蹴破って酒場から出て来たその人こそ、私達が探しに来たレオニー=レオンハートその人だったからだ!
……ただ不思議なのは、何故か真っ黒に日焼けし、尚且つ腰にカットラス(海賊がよくもっている曲刀)さし、年季が入ってくすんだ金色の刺繍が入った濃紺の上着を羽織っているという、まるで海賊船の船長のような格好をしていることだ。
暫く合わないうちにレオニーはコスプレにでも目覚めたのだろうか?
私とリゼットがそんなレオニーを見てフリーズしていると、こちらの視線に気付いた彼女と目が合った。
そして次の瞬間、彼女はギロリと私とリゼットを一瞥して叫んだ。
「ああん?お前ら何見てやがる!見せ物じゃねーぞ!?この……シャケ野郎!」
「!?」
皆様こんにちは、作者のにゃんパンダです。
今回は、230万pv達成の御礼とご報告です。
ちょっと半端な数字ではありますが、230万pvを達成致しましたので、その御礼を。
皆様、日頃から私の作品をご愛読頂きありがとうございます。
そしてご報告なのですが、今度こそプライベートの方が色々と落ち着きましたので、更新ペースが週2〜3話に戻せると思います。
多分、以前と同じ水、土、日曜日になります。
今まで更新を楽しみにしてくれていた読者の皆様、ご不便をお掛けして申し訳ありませんでしたm(_ _)m
あと本当に今更ですが、昨年の夏の読者様感謝企画のことは忘れてはいませんので、お楽しみに!
遅くなった言い訳としては更新の遅れもあるのですが、他にはレオニーファンが多過ぎということがあります(笑)
だって皆んなレオニーの手下としてこき使われたいとか、彼女にやられたいとかばっかり言うんだもん(>_<)
それでやっとレオニー回になったので、レオニー信者の皆様を登場させられる訳なのですよσ(^_^;)
それでは皆様、本日は長文をお読み頂きありがとうございましたm(_ _)m
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