第233話「豊胸戦記15」

 私が使者(死者?)を城へ返品(物理)した後、我が軍は敵の望み通り総攻撃を開始しました。


 と言っても敵が望むままに真正面から突撃して城を攻めた訳ではありません。


 我が軍はまず、城の周りに存在する砦や支城に怒涛の勢いで攻めかかり、その全てを短時間で血祭りに上げて本城、つまり王のいるノイシュバーン城を丸裸にしました。


 それから悠々と城を囲み、一昼夜の間、大砲から長弓、投石器まで使って攻撃し続けました。


 その結果、翌日にはバイエルラインの象徴として威容を誇っていたノイシュバーン城はまるで穴あきチーズのような無残な姿になっています。


 私は本陣から砲兵隊が持って来た火薬を使い切って砲撃が止んだのを確認し、パシッと望遠鏡を畳んで満足げに言いました。


「アベさん、ヴァルさん、もういいでしょう」


 すると、渋いおじ様二人は、


「……色々良くないと思いますが?」


「……神よ、私がこの乙女の皮を被った鬼神の敵でなかったことを感謝致します」


 とか言っていますがスルーです。


 それから私は居並ぶバイエルライン諸侯の方を向いて告げました。


「さあ、いい具合に食べ頃になりましたし、そろそろ仕上げと行きましょう!……バイエルラインの皆さん」


「「「はい!」」」


 良い返事です。


「兵を押し出して下さい!……王の本分を忘れ、私利私欲に溺れた愚か者を打ち倒してこの戦争を終わらせるのです!」


 キリッ!


 この戦争の真の目的を知るアベルその他の家臣達のジト目をスルーしつつ、表面上は美少女騎士らしくキリッ!っとキメたつもりだったのですが……。


「「「イエス!ユア、ハイネス!」」」


 何故か皆さん凄く従順な感じです。


 さらに言うと、何かに怯えているような?……一体どうしたのでしょうか。


 私としてはもっと熱い感じの盛り上がりを期待したのですが……まあいいです。


 それから私は急いで各部隊に攻撃命令を伝える為に散っていく伝令達を眺めながら言いました。


「全く、バイエルライン王は無能ですねー、どのみち落城は必至だったのですから、さっさと降伏すれば良かったものを」


「……お嬢がそれをいいますか?」


 すると、何故かアベルに突っ込まれました。


「え?どうして?」


 心当たりのない私はキョトンとしてしまいました。


「いや、だって……敵は何度も降伏しようとしていたじゃないですか!」


「はて?そうでしたっけ?」


 実は頭に血が昇っていて総攻撃を命じてから後のことをよく覚えていないんですよね……。


「そうですよ!我々が一瞬で支城を落とし、全力射撃で城を蜂の巣にしたところでバイエルライン側の戦意が粉砕されて、敵は何度も白旗を掲げようとしてたじゃないですか!」


 と、アベルが力説したところで。


「え?……あ、そう言えば……」


 薄らと記憶が蘇ってきました。




 昨日、鹵獲したものも含めて五十を超える大砲が猛然と射撃を始めてから数時間後の事。


「お嬢、今バルコニーに白旗が見え……」


「……砲兵隊!目標バルコニー!」


「え!?」


 直後、バルコニーが多数の砲弾を受けて白旗ごと消滅しました。


「白旗?見えませんけど?アベル、貴方の気の所為では?」


「いや、でも!」


「気になるなら直接確認に行って来てもいいですよ?ただし、砲撃は続けますが」


「ぐっ……は、はい、俺の見間違えでした」


「宜しい」




 と言うような感じのやり取りが何度か……。


「あったような……?」


「ほら、やっぱり……」


 アベルがジト目で言いました。


「うぐ……い、いえ、きっと気の所為です!清廉潔白、品行方正な正統派美少女のセシルさんがそんな酷いことする筈がないではありませんか!」


「えー、してましたよ?」


「無いったら無いんです!さあ、アベル!貴方も突撃です!瓦礫の中からバイエルライン王を引き摺り出して来なさい!」


「へーい」


 私が苦し紛れにそう命じると、私の頼れる部下アベルは喜んで出陣していきました。


「もう!アベルは主への敬意が足りません!後で再教育です!プンプン!」


 それから間も無く攻撃を開始した我が軍でしたが、その実態は攻撃というよりも災害現場に派遣された救助隊のような有り様でした。


 我が軍の兵士は城へ突入したものの中で抵抗を受けることは無く、一瞬で中を制圧した後、瓦礫の中で奇跡的に生き残った僅かなバイエルライン兵の救助に当たったのです。


 因みに私のガラスのハートを傷付けた張本人であるバイエルライン王は、惨めに地下室でガタガタと震えながら焦点の合わない目で神に赦しをこうているところを発見されました。


 今は臨時の捕虜収容施設で「あはは、お空が綺麗ー」とか言っています。


 まあ、そのうち正気に戻るでしょう……多分。


 兎に角、そんな感じで色々ありましたが遂にノイシュバーン城を我が物としました……つまり、例の泉をゲットしました!


 わーい!\\\\٩( 'ω' )و ////


 後はゆっくり泉を探すだけです。


 そうと決まれば……。


「マルセル!」


 私はすかさずマルセルを呼び出して命じました。


「はい、お嬢様」


「貴方に例の泉の捜索を任せます。最優先です」


「畏まりました、お嬢様。ところで捉えたバイエルラインの王族達はいかが致しましょうか?やはり首を刎ねますか?」


 私が要件を伝えた後、マルセルはそう聞いてきました。


 それに私はクスリと悪戯っぽく笑いながら答えました。


「いえ、私達が直接手を下す必要はありません。連中をどうするかはこの国の民に委ねます」


「委ねる……と、言いますと?」


「国王以下、王族全員を広場に縛ったまま捨て置きなさい。そして、そのことを町中に伝えて下さい」


 問われた私はニヤリ笑いながら言いました。


「なるほど、流石はお嬢様!それならば我々の手は汚れませんし、同時にバイエルラインの民の復讐心も満たされますね。完璧でございます」


「ありがとう、マルセル♪」


「ああ、申し訳ありません。実は一つありまして……」


「ん?」


「このバイエルラインと同じジャーマニア地方の周辺国の外交官達がセシル様に面会を求めております」


「ほう……外交官ですか」


「はい、大方、連中ははじめ外交圧力で我がランス軍を撤退させてバイエルラインに恩を売るつもりだったのが間に合わなかった為、方針を変えて軍事力で我らを恫喝し、戦後処理のどさくさに紛れてバイエルラインの領土や利権を掠め取るつもりでしょう。如何なさいますか?」


 なるほど、なるほど。


 私の獲物を奪いに来るとは……いい度胸です。


 これは少し仕置きが必要ですね。


「当然追い払います。この土地はバイエルラインの民のもので、しかも今、私にはそれを守る義務がありますから。僅かでもこの国の土地を薄汚いハイエナ共に渡す訳にはいきません」


 そして、私がそう言うと。


「では首を刎ねますか?」


 マルセルは再びそう言いました。


 好きですねー、斬首。


 実は彼女って首狩り族の末裔だったりするのでしょうか?


 と、冗談を言っている場合ではありませんね。


 早く方針を決めないと。


「ダメです、それでは品がありませんし、私はちゃんと彼らと会いますよ。そして、その場でバイエルライン王の末路と精強な我が軍の姿を見せ付けてやるのです。そうすれば戦う気など失せるでしょうから」


「ふむ、なるほど」


「なので連中と面会する時間に合わせて外に全軍を集合させて下さい。あと、その際に軽く演説をしようと思いますのでマルセル、カンペ……いえ、演説の原稿の用意をして下さい。内容は私の(可憐で淑やかな美少女騎士という)イメージに相応しい感じお願いします」


 残念ながら私は忙しく、自分で内容を考える時間が無いので今回はアウトソーシングです。


 ですが優秀な彼女に任せておけばきっと大丈夫。


「畏まりました、お嬢様の(苛烈で凶暴なウォーモンガー(戦争屋)という)イメージにピッタリな原稿でございますね?すぐに準備致します」


 すると頼れるメイド長マルセルは快くそれを引き受け、恭しく頭を下げました。


「はい、では頼みましたよ」




 それから私は慌しく指示出しや書類の決済をした後、隣国の外交官達と顔を合わせたのでした。

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