第232話「豊胸戦記14」

「それでは皆さん、軍議を始めましょうか」


 王都とその奥で一際存在感を放つノイシュバーン城を望む小高い丘の上に設営された大型の天幕の中で、私は居並ぶ面々に向かって言いました。


 するとアベルやヴァルター王、最近味方になったバイエルライン諸侯の皆さんが頷きました。


「簡潔に行きましょう。結論から言うと、私はノイシュバーン城攻略の方法としては、包囲した上での兵糧攻め、つまり長期戦がいいと考えています」


 そして私の方針を伝え、それから一堂に対して理由の説明を始めました。


「まず一つ目の理由は、強固なあの城を正面から力攻めにして味方に無駄な犠牲を出したくないからです。広い堀や高い城壁に加えて、不利な状況でも最後まで王に付き従った士気の高い精鋭が籠るあの城に強攻をかければ私の兵は元より、折角仲間になってくれた周辺国やバイエルラインの皆さんにも多くの出血を強いことになってしまいますからね。焦らずとも時間はあるのですから、無理をして無駄に傷つく必要はありません」


「「「おお!新参者の我らを気遣って下さるとは何と慈悲深い!」」」


 私が理由を説明すると居並ぶバイエルライン諸侯の皆さんは一様にそう叫びました。


 まあ、今まで散々バイエルライン王の酷い命令に従ってきたのですから、美少女に労られてそういう反応になるのは分かります。


 ん?


 何故かアベルその他の我が家の者達だけ白けた目をしていますね。


 全く、主人の言葉に感動出来ないとは……これは後で再教育が必要なようですね。


 さて、気にせず続きです。


「次に、予想外に我々の進軍が早かったことです。これによってバイエルラインの民に配っても余るほど兵糧に余裕がありますし、逆に敵は準備不足と小麦の不作で余り備蓄が出来ていないと思います。ですから城を囲んでいればそう遠くないうちに干上がる筈です」


「「「なるほど」」」


「他には城の場所が市街地から離れていて囲みやすいとか、いくら精鋭が籠もっていると言っても大した数はいませんから打って出て来ても討ち取りやすいという点ですね」


「「「確かに」」」


 皆、私の話に聞き入っています。


 これならスムーズにこの場は纏まりそうですね!


「そして、普通は攻城戦の攻撃側にとって時間は敵ですが、今回に限ってはその心配は全くありません。先程話した通り兵も兵糧も十分なのに加え、あの城を囲んでいる時間を利用してバイエルラインを新体制へ移行をしたり、復興を始めてしまえばいいのです。その間に民の支持を盤石なものにしてしまえば王家に逃げる場所は無くなりますからね」


 私はそう言って余裕の笑みを浮かべました。


 勿論、本当は今すぐ総攻撃をかけて一秒でも早く敵を粉砕し、アレを確保したところですが、ここはグッと我慢です。


 いくらアレを手に入れても沢山の味方の血を流しては、流石の私も心が痛みますからね。


 きっと将来、なだらかな丘から山脈へと大きく進化した胸を見るたびに、これは尊い犠牲によって大きくなったのだと罪悪感に苛まれて続けることになってしまいますから。


 いくらなんでもそれは嫌ですし……。


 と、大体の内容を話し終えてそんなことを考えていると、


「「「素晴らしい!」」」


 感動した皆さんはスタンディングオベーションです。


 やはりカリスマ性溢れる美少女騎士という肩書きはお得です♪


 あ、しつこいようですが今、美少女騎士(笑)と思った方、レオニーのところへ送って拷問の練習台の刑です。


 きっと終わる頃には三角木馬やハイヒールなどが大好物になっていることでしょう(適当)


 と、それは置いておくとして。


 兎に角、これで方針は決まりました。


 さあ、会議を終わらせましょうか。


「皆さん何かご意見はありますか?……ありませんね、それでは決まりです……」


 ね、と全体を見渡しながら言うとした瞬間。


「セシル様!バイエルライン王の使者が来ました!」


 伝令が使者の来訪を告げました。


「……いいでしょう。ここへ通して下さい」


 まあ、話ぐらいは聞いてみますかね。




 それから数分後、天幕の中には傲慢そうなメタボの中年男が連れられてきました。


 メタボの使者はこちらを見ると、瞳の奥に若い女である私に対する侮りをのぞかせながら言いました。


「お初にお目に掛かります、セシル殿。某は……」


「貴方の自己紹介は結構。ご用件は?」


 しかし、私はメタボのおじさんに興味は無かったので話を遮ってそう聞きました。


「ぐ……わ、分かりました。ではこちらがバイエルライン王からの書状です……」


 私が冷たくそう言うと、メタボな使者は顔を引き攣らせ、屈辱に震えながら書状を差し出しました。


「拝見します」


 受け取った私は一同の視線が集まる中、それを読み始めました。


「ふむふむ……」


 書かれていた内容を要約すると、


 野蛮な侵略者であるランス軍は即刻バイエルラインから出て行け!


 さもなければ愚かなお前達には裁きの鉄槌が降るぞ。


 そんな感じでした。


 つまり降伏する気は無く、それどころか『セシル、俺が怖いのか?銃なんて捨てて掛かって来いよ!』と私を挑発して怒らせ、『テメー相手にハジキなんて必要ねえ!野郎ぶっ殺してやる!』と無理な城攻めをさせて大損害を出させる気でしょう。


 これは恐らく、城が非常に堅固な上、共に篭っているのが最後まで王に付き従った連中ですから、強攻で来られても暫くは持つという自信が有ってのことだと思います。


 そして、五万もの大軍である我が軍の兵糧切れや、周辺国からの援軍もしくは外交圧力で何とかすると言った感じですかね。


 他には実質的に寄せ集め状態である我が軍は、時間が経てば各勢力ごとに意見の相違や利権の絡みなどで不仲になり、分裂、弱体化するとでも思っているのでしょうか。


 でも残念でした。


 こう見えても私は出来る女!


 しっかりと準備しましたから時間が経っても我が軍の兵糧は十分ですし、利権の分配や戦後の政治体制についての話し合いも順調で、我が軍が不和になる材料は皆無なのですよ、ふふ。


 それに、そもそも皆さんは私に逆らったらどうなるかをよく分かっているでしょうからね。


 お腹いっぱい葡萄を食べさせられたい方はいない筈です♪


 さて、と言うことなので、ここは一つ茶目っ気を出して少し困ったフリをしながらこの脂ぎったデブをからかってあげるとしましょうか!


 と、私が気分良く考えた、その時。


「では最後にその書状に加え、陛下からのメッセージを口頭でお伝えします」


 ん?メッセージ?


 まあ、いいです。


 少しぶりっ子して遊びますか。


「えー……セシル困っちゃいますー」


「『失せろ、鉄板女!』……以上でございます」


 ブチ。


「……は?」

 

 私はその言葉を聞いた瞬間に全身の血液が沸騰するのを感じました。


 続いて手に持っていた『金属製』の盃をクシャリと握り潰し、血のように赤いワインが溢れました。


「「「ひぃー!?」」」


 そして私の殺気を叩きつけられた目の前の使者の他、天幕にいる全員が真っ青になりました。


 ほう、なるほど……なるほど。


 どうやらバイエルライン王は今直ぐ彼方へ旅立ちたいようです。


 いいでしょう、いいでしょうとも。


 それなら望み通りにしてあげますとも。


 私はギロリと使者を睨み付けると、その瞬間に失禁した彼に向かって言いました。


「ひ、ひいいいい!?」


「……そうですかそうですか。バイエルライン王の考えはよーく分かりました」


「……へ?」


 それから私の言葉を理解出来ない様子の使者から視線を移し、今度は何故か怯える味方の皆さんに向かって言いました。


「皆さん!たった今方針は決まりました。我々は……総攻撃を行います!今この瞬間から!」


「「「ふぁ!?」」」


 皆さん目を剥いています。


「そんなに死にたいなら望むところです!期待に応えて差し上げますとも!皆さん!派手に行きますよ!」


「「「ちょ、ちょ……ええ!?!?」」」


「大砲、鉄砲、弓、投石器、王子の首、飛ばせるものは全てあの忌々しい城へぶちかましてやりなさい!いいですね!?」


「「「イ、イエスマム!」」」


 何故か怯えていた皆さんは私の命令を聞くと、慌しく天幕から出て行きました。


 さてと、後は……。


「ああ、使者……いえ、死者さん」


「はひ!?」


 私は失禁しながら尻餅をついている豚に再び視線を戻し、優しい笑顔で言いました。


「あの城まで歩いて帰るのは大変でしょう?優しい『鉄板女』の私があの城まで送って差し上げますわ……飛ぶような速さでね」


「はひ!?」


 数刻後、バイエルライン王の使者……いや、死者は投石器に乗せられて第三王子の首と共に、城へ飛ぶような速さで帰還したのでした。


「ふん、か弱い乙女を愚弄した罪は万死に値するのです!その身を持って償いなさい!地獄へ落ちろ!……さてと」


 そして、死者の帰還を見届けた私はそう吐き捨てると、今度は眼下に整列した全軍に下命しました。


「さあ、皆さん!攻撃開始です!身体の一部が恵まれない女の敵を蜂の巣にしてやりなさい!」


「「「お、おー………」」」


「あれ、皆さん?何だかやる気を感じませんね?……ならば選びなさい!敵を倒すか、私に斬られるかを!二つに一つです!さあ選びなさい!」


「「「ふぁ!?……う、うわあああああ!」」」

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