第229話「豊胸戦記12」

「この方が先程お嬢様にサンドバッグにされたフローラ=グスタフ=ギュンター男爵でございます」


 しれっとマルセルに告げられた私は、後ろ手に縛られたパツキンポニーテール美少女(ぐぬぬ、しかも割とナイスバディ!)を見ながら大混乱です。


「え?……えええええ!?」


 マジですか!?


 あの某熱血テニスプレーヤー並みに倒れない鎧の中身がこのパツキン美少女で、しかも貴族の令嬢!?


 いや、ちょっと!どう考えてもおかしいでしょう!


 て言うか、そもそも貴族の令嬢が剣を振り回していること自体があり得ないんですが!


 え?何か言いたいことでも?


 コホン。


 むー、でも……マルセルがドッキリを仕掛けてくる筈ありませんし、本当なのでしょうね……。


 ん?と言うことは……もしかして私、可憐な少女を一方的にボコボコに!?


 うーん、これはちょっと良くない絵面ですね。


 もしマスコミにバレたりしたら……。


『元皇太子妃候補のスービーズ公爵令嬢セシル様、無抵抗の令嬢を暴行!!』


『公爵Eと国王Sが語った衝撃の真実!暴かれるスービーズ家の闇とコンプレックスで歪んだ公爵令嬢の素顔!!』


『気に食わなければ腹パン!自分よりも巨乳なら水責め!!今明かされる血に飢えた白百合の真実!!男爵令嬢A、涙の告白!』


『王女Mの激白!嫉妬、破壊、暴走、失恋、貧乳、ストーキングetc、セシロクマはこうして誕生した!!』


 とか、書かれそうな気がします……。


 マズいです、このままでは高貴な私が女性週刊誌とワイドショーの餌食に……。


 そしてランス社交会の頂点に君臨する私の淑やかな公爵令嬢と言う世間的なイメージが壊れてしまいます!


 あ、今『淑やかな公爵令嬢(笑)』だと思った方、後で『葡萄』をご馳走して差し上げますのでお覚悟を。


 ……ではなくて、兎に角何とかしないと!


 あと、もしこの件が心優しいリアン様のお耳に入ったりしたら……。


「セシル!胸囲の格差を見せつけられたことを逆恨みして無抵抗な美少女にプロレス技を掛けまくり、一方的に痛め付けたんだって!?シロクマ並みの野蛮さだな!最低だよ!君のような胸も心も小さな女性とはやっていけない!」


 とか言われて捨てられてしまうかも……?


 そしたら私、きっとショックでリアンをチョークスリーパーで締め落としてから巣穴へ持ち帰って夜食(意味深)にしてしまいます……。


 やはり、これは絶対何とかしないと!


 あと、それにいくら鎧の中身を知らなかったとは言っても、女の子をフルボッコにしたのはちょっぴり罪悪感があったりします。


 私、基本的にリアン様に色目を使う雌豚以外には優しいので。


 さて、何はともあれ取り敢えず話を聞いてみますか。


 私は目の前までリディ(完全武装バージョン)に小突かれながらやって来たギュンター男爵改め、パツキンポニーテール美少女ことフローラさんの方を見ました。


 そして、私が目の前に立った彼女に言葉を掛けようとした、その時。


「頭が高いのですー!跪くのですー!」


「ぐぇ!」


 リディが躊躇なくフライパンでフローラさんをぶん殴りました。


 天使のように可愛いらしいミニサイズのメイドが、凛々しい美少女をフライパンで殴り倒す光景は非常にシュールです。


「ちょ、リディ!?」


 な、なんてことを!?


 流石に防具なしでそれは不味いのでは!?


 と、私は大いに焦ったのですが、しかし。


「うっ!?……そ、そうか、確かに捕虜の身で突っ立ったままではダメだな……だがメイド戦士よ、流石にこれはちょっと痛いぞ……」


 無傷のフローラさんは割と平気そうな顔でそう言ってから跪きました。


 ええ!?


 今の一撃が『ちょっと痛い』で済むとか、この少女は化け物ですか!?


 あと、メイド戦士?


 ……ではなくて!リディを止めないと!


「リディ、やめなさ……」


 しかし、リディは焦る私を他所に可愛らしくプンプンと怒りながら更に言いました。


「黙るのですー!貴方に発言は許されていないのですー!まったく、貴方の所為でどれだけセシル様が貴重な時間を無駄にしたと思っているのですかー?」


「それは済まなかった……む?時間?」


 取り敢えずフローラさんは謝りました。


 お、流石はリディです。


 私の気持ちが良く分かっていますね!


 主人の気持ちを代わりに伝えてくれるとは、なんて健気な子!


 ご褒美におやつ倍プッシュです。


 なんて思っていたのですが……。


「そうなのですー!貴方の所為でセシルお嬢様が多くの時間を無駄にしてしまってー、その煽りで私達使用人がどれだけ迷惑したと思っているですかー?ああーん?」


 ん?あれ?リ、リディ?


「む?そ、そうなのか?」


「そうなのですよ!ちっぱいことが超絶コンプレックスなセシルお嬢様はー、一刻も早くおっぱいを大きくする泉を手に入れてナイスバディになりたいのですよー!」


「ほう、セシル殿は小さいのか」


 ちょ!?リ、リディ!?


 それ以上はやめて!


「小さいというかウォール・セシルって感じなのですー、しかも面倒くさいことに大きくないと愛するマクシミリアン殿下に見向きもされないと思い込んでいるのですよ!加えて殿下と会えないと直ぐに情緒不安定の暴走特急……いえ、暴走シロクマになってしまって痛いことを叫びながら暴れるので我々使用人は大変なのですよー?」


「そ、そうか、メイド戦士は大変なのだな……」


 ぐおー!


 お、お願いよリディ!もうやめてー!


 美幼女メイド型巨人に壁を破壊された私のライフはゼロよ!


「そう、大変なのですー!だから兎に角何でもいいので早く殿下とくっついてもらわなければならないのですー。そうでないと何かある度に暴れるので、私達使用人が面倒いのですよー」


 え!?ええ!?


 皆んな私のことをそんな風に思っていたの!?


「……つまり、それを邪魔した貴方はギルティなのですよー?ユーアンダスターン?」


「ふむ……それなら仕方ないな」


 それって仕方ないの!?


「そうですか、良い心がけなのですー。では介錯は不肖ながらこのリディが務めるです。さあ、潔く……」


「ぬ、そうだな。私も覚悟を決めるとしよう……」


 そして何故かフローラさんが潔く覚悟を決め、リディがフライパンを振り上げたところで。


「決めるな!」


 私は一喝しました。


「「ふぁ!?」」


 それから私はまず、リディの方を見ながら笑顔で言いました。


「リディ、後で覚えていなさいね?」


「ふぇ!?」


「私が満足するまでとことんお触りの刑ですから」


 私が量刑を告げるとリディはあざとくビックリした後、目をウルウルさせながらマルセルの胸に飛び込みました。


「ひぃー!?そ、そんなぁー……助けて下さいメイド長様ー!うわーん!」


 すると意外なことにマルセルは優しくリディを抱きしめました。


「仕方のない子ですね、お嬢様には私からお話しておきますから安心なさい」


 ……くっ、可愛らしさを武器に逃げるとはやりますね。


 はぁ……もう、いいです。


 色々疲れましたし、時間が勿体ないので次に行きましょう。


 私は可愛らしい裏切り者から視線を脳筋美少女に移して言いました。


「さてと、それで……ギュンター男爵」


「ぬ?なんだ?ウォール・セシ……」


「あ゛あ゛ん?」


「ひっ!?……く、我は負けたのだ!煮るなり焼くなり好きにするといい!」


 フローラさんは一瞬だけ私の眼光に怯みましたが直後に我に帰り、堂々と言い放ちました。


 ほう、良い心がけですね。


 こう言うのは嫌いではありません。


 しかし、残念ですが私の(公然の)秘密を知ったからには生かしておけません。


 このまま地下牢に閉じ込めて『くっコロ』展開からの快楽堕ちにエンドに……。


 と、思ったところで。


「と言いたいところなのだが……」


「?」


 あら、命乞いでしょうか?


 と、ここでフローラさんは急に目をキラキラさせて言いました。


「セシル殿!貴方の強さに惚れました!是非とも配下に加えて頂きたい!」


「!?」


「特にあの頭へガツンと来た一撃は最高に痺れました!あんなことが出来るのは貴方しかいません!どうか私を貴方の犬……いえ、配下としてボロ雑巾のように使って下さいませ!命令とあれば何だってやりますので!」


 と、フローラさんは陶然とした表情で叫びました。


 ま、まさかこの子……ドMの変態!?


 それを悟った私は即答しました。


「いらない」


 だってこの子、めちゃくちゃヤバい上に絶対面倒くさいじゃないですか。


「はぅ!ハァハァ……そう言わずに!私は役に立ちますよ?いざと言う時は肉壁として使い捨てて頂いても構いませんので!」


 すると、フローラさんは何だか嬉しそうにそう言いました。


「……間に合ってます」


 貴方ほどではありませんが私は丈夫な方ですし、何よりぶたれて喜ぶ変態はノーサンキューですから!


 と言うことでフローラさんは、彼女の領主としての地位と爵位を安堵して、ここに捨てて行くとしましょう。


「はぅ!ハァハァ……セシル様!お願いですからー!」


「えー……」


 しつこい変態ですね……。


 うーん、あ!そうだ!だったら無理難題を言って断りましょう!


 えーと、騎士としての尊厳を傷付ける感じのやつがいいですかねー。


「……ん?」


 と、そこでちょうどメイド長マルセルにしがみつくミニメイド、リディの姿が目に入りました。


 ……あっ!そうだ!メイド!


 良いことを思い付きました!


 ニヤリ。


「だったら……メイドとしてならいいですよ?しかも一番下っ端としてリディにアゴで使われる立場からスタートで」

 

 ふ、どうです?


 いくらドMの変態でも、騎士の誇りにかけてそんなことは承服できないでしょう?


 当然、フローラさんは……。


「やります!」


「そう、それは残念……ふぁ!?」


 マジですか!?


 貴方に騎士の誇りはないの!?


「セシル様にお仕え出来るのならばメイドでも椅子でも犬でも何だってやります!」


 椅子?犬!?


「え?あ、その……む、無理しなくてもいいんです……よ?」


「いいえ!大丈夫です!」


 や、ヤバいです……予想外に意思が固い!


 これは何か適当な理由をでっちあげて断らないと!


「あ!や、やっぱりそれだけでは不十分です!……え、えーと、そうだ!私の役に立てることを証明しなさい!今ここで!」


「セシル様のお役に……?」


 私がそう言うと、パツキン美少女型の変態は必死に考え始めました。


 ごめんなさいフローラさん、ちょっと意地悪ですが、私の安寧の為なのです。


 いい加減に諦めて下さい。


「残念ですが出来ないのならば不採用ですね!貴方の今後の活躍をお祈り……」


 そして、私はテンプレートな感じで不採用を告げようとしたのですが、その時。


「うーむ……セシル様の役に……つまり利益になること……ん?そうだ!私は豊胸の泉の場所を知っていま……」


「っ!?……採用!」


 この子めっちゃ有能じゃないですか!


 これは採用一択です!


 え?何か?


「す……え?やったー!」


 私の言葉を聞いたフローラさんは縛られたまま器用に飛び跳ねて喜びました。


 まあ……こればかりは仕方ありません。


 背に腹は……いえ、背に胸は変えられませんからね……。


 でも、だからと言って長く付き合うのはなぁ。


 あ!そうだ!泉の場所を案内させて用済みになったら、ご褒美も兼ねて女王様ルックにさせたレオニーのところへ送りましょう。


 そうすれば私は厄介払いができ、フローラさんはご褒美にありつけ、そしてレオニーもストレス発散が出来る筈(多分)ですから!


 これぞウィン=ウィン=ウィンの関係ですね♪





 こうして防御力全振りの女騎士ことフローラさんを快く我が配下へと迎え入れた私は、例の泉の為……いえ、虐げられる哀れなバイエルラインの民を解放する為、一路王都へ向かって進撃を再開したのでした。






 皆様、お久しぶりでございます。


 作者のにゃんパンダです。


 またまたリアルで色々あって更新が遅くなってしまい、すみませんでしたm(_ _)m


 今日から何とか以前のペース(週三回ぐらい)に戻したいと思いますので、宜しくお願いします。

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