第224話「豊胸戦記⑦」

 バイエルラインの皆様にたっぷりとブドウをご馳走した結果、最初の会戦で大勝利を収めた私は、その勢いのまま南部地方全域の攻略に取り掛かることにしました。


 やはり今後、バイエルライン中部を通って最終的に北部の王都へ侵攻するに当たり、後顧の憂いを断つ必要がありますので。


 ですが、攻略と言っても力でねじ伏せる訳ではありません。


 それでは総動員されるであろう民を傷つけて恨みを買い、後々レジスタンス活動等に繋がりかねませんし。


 それに今回の遠征の一番の目的は『虐げられた民を救うこと』にありますから、それでは本末転倒です。


 え?……何か言いたいことでも?


 コホン。


 兎に角、そのような考えの下、私は行動を開始しました。


 まずはバイエルライン軍の残党や抵抗する領主の軍を蹴散らしながら村々を回りました。


 すると、それらの村の状況は予想通り悲惨なものでした。


 民は酷使され、やせ細っていました。


 若い男は兵役か労役へ駆り出され、女や子供、老人は若い男がいない分働かされ、更に限界まで年貢を搾り取られていました。


 私はそんな彼らの姿を見て、涙が出そうでした。


 何ということを!


 絶対に許せません!


 その時、私は心の中で改めてバイエルラインの支配層に鉄槌を下す事を誓いました。


 それから占領した地域の村々に食料を配布したり、治安維持の為の部隊を各所に配置したりしながら進撃を続けました。


 因みに私はその過程で、先の会戦でバイエルライン軍を壊滅させ、第一王子を討ち取ったこと、また我がランスはバイエルラインの民を助けに来たのだと伝えて回りました。


 加えて、その全ては慈悲深きリアン様のご意志だとも伝え、崇め奉らせました。


 これで彼らはリアン様を崇める従順な僕です。


 つまり、ある意味私の同志です、ぐふふ。


 彼らは今後、喜んで私達に協力してくれることでしょう。


 と、そんな感じで、あっという間に南部の村や町はランスの勢力圏となりました。


 しかも、民の熱烈な支持を受けています。


 もう、後顧の憂いはありません。


 いえ、それどころかバイエルラインの未来の為に彼らは一緒に戦いたいとまで言い出しています。


 まあ、流石にそれはお断りして、取り敢えず道案内や情報収集のお手伝いだけ頼みました。


 折角圧政から解放されたのに戦って死んでしまっては可哀想ですし。


 そんな感じで南部の攻略は順調に進み、いよいよ南部地方最後の街へ向かうことになりました。


 そして進軍し、遠くに見えて来た立派な城壁を見ながら私は考えました。


 流石に次は南部一の都市。


 先程までの村や町とは違い、それなりの抵抗があるだろう、と。


 すると案の定、私達が近付くとその都市は城門を固く閉し、抵抗する構えを見せました。


 我が軍なら力攻めで強引に落とすことは出来るのですが、私は無駄な犠牲者を極力出したくありません。


 ですので、まずはその為に出来ることをしましょう!


 と、そう決めた私は少しでも防衛側の戦意を削ぐ為に、敢えて単騎で城壁に接近し、ジーク何とかの首を投げ込んで叫びました。


「我が名はセシル=スービーズ!ランス王国バイエルライン派遣軍司令官にして、第一王子マクシミリアン=ルボン様の名代です!者共、聞きなさい!」


 バイエルラインの民よ!偉大なるリアン様の御名前をその心に刻みなさい!


 なんちゃって(≧∀≦)


「「「!?」」」


 城壁の上では何事かと大騒ぎです。


「バイエルラインの皆さん!見ての通り、貴方達を恐怖と暴力で支配するバイエルライン王家は不死身でも無敵でもありません!ただの人間なのです!つまり、殺せるのです!」


 まずは彼らの支配者が絶対の存在ではないことを気づかせるのです。


「「「!!??」」」


「皆さん!立ち上がるのは今です!貴方達を虐げ、搾取してきた彼らを倒し、自らの力によって尊厳を取り戻すのです!」


 そして、戦うことを諦め、奴隷や家畜のように成り下がった彼らに対し、自分自身で尊厳を取り戻したくなるように煽ります。


 ……とは言っても中々上手くはいかないと思いますが。


 まあ、実際に武器を取らなくても、心が揺らいで士気が下がってくれたらいいなぁ、ぐらいなものです。


「「「!!!???」」」


 城壁の上から大勢が固唾を呑んで私を見つめています。


 いやん、恥ずかしいです。


 なんちゃって。


 さあ、もうひと煽りです!


「加えて、我がランスは侵略者ではありません!我々は正義の軍です!我々は崇高なる我が主人マクシミリアンの命により、貴方達を圧政から解き放つ為に遣わされました!我々は貴方達の敵ではありません!味方なのです!ですから後顧の憂いはありません!さあ!自らの意志と力で未来を勝ち取るのです!」


 そして、私は芝居掛かった感じで言ってはみたものの……効果は未知数。


 というか、これらのセリフを真顔で言うのは結構恥ずかしかったです。


 今回は本当です。


 お陰でか弱く儚いに私のメンタルが少なからずダメージを負ってしまいました。


 これはもしかして黒歴史というやつですかね……。


 ああ、これでもし城壁越しに、


「あのスリムな美少女は何を痛い事をいっているんだ?」


 とか馬鹿にされたら、私の心は……。


 多分、一瞬で燃え上がり、連中を焼き尽くすでしょう。


 申し訳ないですが、悪徳領主だろうが、一般市民だろうが、黒歴史ごと問答無用で歴史の闇に消えて貰うことになります。


 と、私はそんなことを考えながら愛馬と共に本陣へ戻ってきたのですが、今のところ敵に動きはありません。


 うーん、これはやはり、私の黒歴史が増えただけみたいですね。


 はぁ、せめて多少戦意が下がってくれたらよかったのですが……。


 そして一人でも、二人でも多く街の住人が逃げてくれれば……と思います。


 少しでも傷付く人間が減ればいいな、と心から。


 いや、でも逃げられたら私の黒歴史の証人が残ってしまいますね……やはり、ここは全員、闇の炎に抱かれて消えて貰うべきですかね。


 私としてはそんな気持ちだったのですが……。

 

 次の瞬間、私の痛いセリフは驚きの結果をもたらしました。


 私が帰陣した直後、いきなり城壁の内側で歓声が上がったかと思うと煙や怒号、金属同士がぶつかり合う音や何かが爆破する音などが聞こえました。


 おお、これはもしかして?


 それから暫く様子を見ていると、城壁の上に縄で縛られた肥満体の男が引っ張られて来た後、バイエルラインの国旗が引き摺り下ろされました。


 その瞬間、我々は理解しました。


 住民達が立ち上がり、支配者達と戦うことを決意したと。


 そして彼らは一致団結して領主軍に襲い掛かり、制圧したのだと。


 それから少しして、白旗を掲げた使者がこちらへやって来て言いました。


 我々はランス軍に降伏します。


 と。


 それを聞いた私は、すぐに街へ入城し、改めて宣言しました。


 我がランス軍は慈悲深きリアン様の命により、正義を執行する為に来たのだと。


 貴方達は今日この時、この瞬間をもって誇りと尊厳を取り戻したのだと!


 それから食料を配給し、リアン様の素晴らしさについて熱弁を振るったあと、私は彼らに対し、自ら手で旧支配者達に復讐することを許可しました。


 なんと野蛮なことを!と思われるかもしれませんが、私はそうは思いません。


 人間はケジメをつけてこそ前に進むことが出来るのです。


 だからそれは必要なことなのです。


 よく、罪を憎んで人を憎まずとか、あの人は復讐など望んでいない!とか舐めたことを言っていますが、あんなものは嘘です。


 エゴ、偽善、綺麗事、逃げ……反吐がでます。


 現実はそんなに美しいものではないのです。


 人はやられたやり返したいものです。


 それに復讐はやられた本人だけの為ではなく、自分の為でもあります。


 やはり、人間はきっちりとケジメをつけてこそ前に進めるのです。


 だから、私は彼らにそれを許しました。


 と、暗い話はもうやめましょう。


 諸々の話が終わり、今後の統治について暫定的な取り決めを済ませると、住民達は私の為に歓迎の宴を開いてくれました。


 街の領主の館だった場所で開かれたその宴では、私の大好きな脂ぎった肉料理やビール、美味しい白ワインなどが出されました。


 遠征中で粗食が多かった私にはどれも本当に美味しかったです。


 特にバイエルライン産の白ワインは絶品でした。


 美味し過ぎてついつい一ケース空けてしまいました。


 あ、折角ですからリアン様にもお土産に買って帰りましょうか。


 美味しい白ワインを食前酒に、メインディッシュのリアンを頂く……じゅるり。


 おっと、これは失礼。


 そして、夕方から始まった宴はいつの間にか深夜になり、私以外全員が酔い潰れて全滅した頃、私は一人で今後の戦略について考えていました。


 この街の元領主が住民の手に掛かって旅立つ前に尋問したところでは、初戦で敗れた第三王子がバイエルライン中部で残党と援軍を中心に再編を進めているらしいのです。


 そして、編成が完了し、属国からの援軍が到着するのを待って再度決戦を挑むつもりのようです。


 と、ここで一つ気掛かりなことがありました。


 うーん、決戦は別に構わないのですが……出来れば罪の無い属国の人達とは戦いたくないんですよねー。


 無理矢理バイエルラインに従属させられている訳ですし。


 しかも話によれば、それらの王侯貴族達は妻子を人質にされているとか。

 

 全く、酷い話です。


 ですが……残念ながら私にはどうしようもありません。


 レオニーがいれば人質の救出を頼むのですが……彼女は今頃王都で書類の山に埋もれて動けない筈。


 忙しくてリアン様に手を出す余裕もないでしょうから安心です……じゃなかった、人質はどうしようもありません。


 まあ、兎に角、別の手段を考えるしかないですが……。


 ふーむ、ですが私に取れる選択肢は属国軍が合流する前に第三王子の軍を叩くことしかないんですよねー。


 そうすれば取り敢えず、属国の軍とは戦わずに済みますから。


 よし、決まり!


 それでは、早速支度をしましょうか。


 翌日、そう決めた私は速やかに軍を進め、まだ態勢が整っていないバイエルライン軍を直撃し、壊滅せしめました。


 二度目の会戦も我がランスの大勝利です。


 しかも第三王子を捕獲しました。


 そこで私は何となく面倒だったので「首を刎ねて!」と言ったのですが……。


 その後、ふと、あるアイデアが浮かび、一旦斬首を中止させました。


 やはり、人質には人質ですよね!





 ※お待たせしてすみませんでした!リアルが予想に忙しくて物理的に書く時間が取れませんでしたm(_ _)m


 本日から投稿を再開しますのでよろしくお願いします(^^)

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